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~大陸横断汽車編 第17章~
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[不意]
「っと。無事に登れた・・・」
フォルトは屋根に上ると突き刺した鎌を引き抜いて顔を前に向ける。フォルトの前には未だ何処までも続く線路が延々と続いており、汽車は相変わらず渓谷の上にかかっている橋を走っていた。
激しく吹きかかる風に耐えてフォルトがゆっくりと立ち上がると、後ろからかつて何処かで聞いたことがある男の声が聞こえてきた。
「やぁやぁ久しぶりだね!まさか窓を突き破って上に登って来るなんて・・・貧民街で銃弾を斬ったように、常人じゃ出来ない事を平然とやってのけるんだね?」
男の声を受けてフォルトがゆっくりと振り返ると、そこにはダリルと彼に捕まっているロメリアの姿があった。ダリルはロメリアの右側頭部に銃口を突き付けていて、既に撃鉄は上がっており、引き金に人差し指がかけられていた。
「フォルト・・・ごめん・・・捕まっちゃって・・・」
ロメリアは無理に笑顔を作ってフォルトに語り掛ける。フォルトは彼女の不安で震える心を落ち着かせようと彼女に何時も向けている笑顔を作って語り返した。
「大丈夫だよ、ロメリア。直ぐに助けてあげるからね。」
フォルトがそう言葉を放つと、ロメリアは先程の強張った笑みから少し柔らかな笑みに変わった。だがその瞬間、ダリルは銃口をねじ込むようにロメリアの頭に押し込み、フォルトに対して挑発的に発言する。
「お~かっこいいねぇ~!まるで白馬に乗った王子様みたいな発言だね~!こんなこと言われちゃったら彼女も惚れちゃうね~?」
フォルトは男の言葉を受けて不機嫌そうに表情を歪めると、周囲に鎖を展開して戦闘態勢を整える。フォルトの殺意に満ちた鋭い視線を受けたダリルは少し声を震わせながら話しかける。
「お~お~怖い怖い・・・そんな目で見つめないでくれよ~」
「・・・」
フォルトの周囲の空気が殺気によって変貌し、世界から色が消えるような不思議な感覚を覚える。フォルトはその状態を保ったまま、ダリルに話しかけた。
「ねぇ、今回僕達を襲ったのってさ・・・復讐が目的なの?貧民街で僕がロメリアを助けたからその腹いせに今回こんな事件を起こしたの?」
その発言を受けると、ダリルは少し顔をしかめてフォルトを睨みつけた。
「それ以外にお前達を襲う理由があるか?・・・あの日からボスから俺に対する扱いが悪くなった・・・お前達のせいで俺がボスの命令をこなせなかったから・・・ボスは機嫌を悪くして俺を遠ざけるようになった。」
「・・・」
「俺達の世界はな・・・ボスが絶対で、機嫌を損ねた奴は淘汰されるようになっているんだよ。だから俺は今までずっとボスに頭を下げ続けた・・・上に上がる為に、『世界』の中で生きていく為に・・・だがどうだ?貴様のような薄汚いガキに邪魔されたせいでこのザマだ。俺は出世街道から外され・・・俺が担当してた仕事は全てかつての部下に取られ、その部下は今や俺が座っていた席にいやがる・・・お前達のせいで・・・俺はこんな・・・」
ダリルはそう言って銃口をより強くロメリアの頭に押し当てる。ロメリアの顔が痛みで歪む。
「だから俺はお前達を探して・・・わざわざ異大陸にまでやって来た。そしてようやく・・・お前達に復讐できる機会を得た!俺はこの時を・・・毎日毎日夢に見ていたんだ!」
ダリルの目が狂気に染まって狂ったように笑い声を上げる。ロメリアはダリルの笑い声を聞いて、思わず目を見開いて彼の顔に視線を移す。
フォルトはダリルの話を聞き終えると、顔を少し俯けた。すると肩を僅かに揺らしながら押し殺した笑い声を出し始めた。ダリルとロメリアは困惑しながらフォルトに顔を向けると、フォルトは嘲笑を全面的に出した笑みを浮かべてダリルに話しかける。
「あっはははは・・・ごめんなさい、貴方の話がついついしょうも無くて笑っちゃいました。」
「何?」
「だってそうじゃないですか?貴方がやっている事はまるで子供が駄々をこねているよう・・・いい大人が何やっているんだか・・・」
フォルトはゆっくりとダリルの方へと歩きだす。ダリルはロメリアを引きずりながら少しずつ後退する。
「失敗したらまず自分に何か至らぬ点があったかどうかを把握して反省することが大切なはずなのに貴方はずっとお前達のせいだ、お前達のせいだと言ってばっかり・・・自分ではなく相手が悪いと真っ先に考えるのは『自己中心的な無能』がすることだ。・・・ボスがあんたの地位を下げたのにも納得がいくよ。あんたみたいな『責任を投げ出す奴』は組織には不要だからね。」
フォルトの言葉を受けてダリルは以前ボスから言われたことを思い出した。ダリルの手が震え始める。
『ダリル・・・私はお前が王女を連れてこなかったことを責めているのではない・・・私が責めているのは・・・王女を逃した責任を部下達に負わせようとしている事だ。私は『お前』に命令を下したのだぞ?貴様の部下には誰一人として指示を出していない・・・貴様にだけだ。それに貴様は私に言ったよな?『責任を持って命令を達成する』と・・・それなのに貴様は私が与えた責任を拒絶するのか?それほど貴様は偉いのか?身の程を弁えるがいい・・・』
ボスの言葉を思い出したダリルは引き金を軽く引き、フォルトに叫ぶ。
「そ、それ以上近づいたらこの女の頭を吹き飛ばすぞ!大切な女なんだろう?その場で止まって武器を捨てろ!」
ダリルの言葉を受けてフォルトは笑みを浮かべたまま立ち止まると、両手に持っているそれぞれの鎖鎌を屋根に落とした。
「フォルト⁉何してるの⁉」
ロメリアが咄嗟に叫ぶと、フォルトはロメリアに瞳を合わせる。ロメリアはフォルトの瞳を見ると口を閉じて再び黙り込む。
ダリルは満足そうに3回頷くとさらに注文を出してきた。
「よ~し、いいぞ・・・そしてら腕を上げてゆっくりとその場で1回転しろ。ゆっくりとな・・・下手に動けば・・・分かっているな?」
ダリルはロメリアの頭に再び銃口を押し込む。フォルトは笑みを消して両腕を上げるとその場でゆっくりと体を回転させる。
フォルトがダリル達に背中を見せた時、ダリルはフォルトに叫んだ。
「おい!ベルトに付けているナイフを外せ。柄は持つなよ?鞘を持つんだ。」
フォルトは右手をゆっくりと下げて後ろの腰に付けているナイフを取り外すと、再び腕を上げてダリル達の方へと振り向いた。ダリルはナイフを持ったフォルトに追加の注文を行う。
「そのナイフを汽車の外に捨てろ。足元にある鎖鎌もだ。」
ダリルの言葉を受けてロメリアが思わず叫んだ。
「駄目だよっ!フォルト!」
「五月蠅ぇ!」
ダリルはロメリアに視線を移し、銃口をより強く頭に押し込んだ。ロメリアは痛みで思わず片目を瞑る。
その瞬間、フォルトはナイフを真っ直ぐ手放した。ダリルの視線はフォルトが手放したナイフに移り、意識を持っていかれる。フォルト達の間が静まり返る。
ナイフが重力に従って落ちて行く中、ナイフの刃がフォルトの方を向いてハンドルの方がダリルの方へと向く。そしてそのままナイフは屋根の上に音を立てて落ちた。
その直後、一瞬の静寂を打ち破るかのようにハンドルの底が炸裂し、ダリルの右脛に鉛玉が直撃した。
「っと。無事に登れた・・・」
フォルトは屋根に上ると突き刺した鎌を引き抜いて顔を前に向ける。フォルトの前には未だ何処までも続く線路が延々と続いており、汽車は相変わらず渓谷の上にかかっている橋を走っていた。
激しく吹きかかる風に耐えてフォルトがゆっくりと立ち上がると、後ろからかつて何処かで聞いたことがある男の声が聞こえてきた。
「やぁやぁ久しぶりだね!まさか窓を突き破って上に登って来るなんて・・・貧民街で銃弾を斬ったように、常人じゃ出来ない事を平然とやってのけるんだね?」
男の声を受けてフォルトがゆっくりと振り返ると、そこにはダリルと彼に捕まっているロメリアの姿があった。ダリルはロメリアの右側頭部に銃口を突き付けていて、既に撃鉄は上がっており、引き金に人差し指がかけられていた。
「フォルト・・・ごめん・・・捕まっちゃって・・・」
ロメリアは無理に笑顔を作ってフォルトに語り掛ける。フォルトは彼女の不安で震える心を落ち着かせようと彼女に何時も向けている笑顔を作って語り返した。
「大丈夫だよ、ロメリア。直ぐに助けてあげるからね。」
フォルトがそう言葉を放つと、ロメリアは先程の強張った笑みから少し柔らかな笑みに変わった。だがその瞬間、ダリルは銃口をねじ込むようにロメリアの頭に押し込み、フォルトに対して挑発的に発言する。
「お~かっこいいねぇ~!まるで白馬に乗った王子様みたいな発言だね~!こんなこと言われちゃったら彼女も惚れちゃうね~?」
フォルトは男の言葉を受けて不機嫌そうに表情を歪めると、周囲に鎖を展開して戦闘態勢を整える。フォルトの殺意に満ちた鋭い視線を受けたダリルは少し声を震わせながら話しかける。
「お~お~怖い怖い・・・そんな目で見つめないでくれよ~」
「・・・」
フォルトの周囲の空気が殺気によって変貌し、世界から色が消えるような不思議な感覚を覚える。フォルトはその状態を保ったまま、ダリルに話しかけた。
「ねぇ、今回僕達を襲ったのってさ・・・復讐が目的なの?貧民街で僕がロメリアを助けたからその腹いせに今回こんな事件を起こしたの?」
その発言を受けると、ダリルは少し顔をしかめてフォルトを睨みつけた。
「それ以外にお前達を襲う理由があるか?・・・あの日からボスから俺に対する扱いが悪くなった・・・お前達のせいで俺がボスの命令をこなせなかったから・・・ボスは機嫌を悪くして俺を遠ざけるようになった。」
「・・・」
「俺達の世界はな・・・ボスが絶対で、機嫌を損ねた奴は淘汰されるようになっているんだよ。だから俺は今までずっとボスに頭を下げ続けた・・・上に上がる為に、『世界』の中で生きていく為に・・・だがどうだ?貴様のような薄汚いガキに邪魔されたせいでこのザマだ。俺は出世街道から外され・・・俺が担当してた仕事は全てかつての部下に取られ、その部下は今や俺が座っていた席にいやがる・・・お前達のせいで・・・俺はこんな・・・」
ダリルはそう言って銃口をより強くロメリアの頭に押し当てる。ロメリアの顔が痛みで歪む。
「だから俺はお前達を探して・・・わざわざ異大陸にまでやって来た。そしてようやく・・・お前達に復讐できる機会を得た!俺はこの時を・・・毎日毎日夢に見ていたんだ!」
ダリルの目が狂気に染まって狂ったように笑い声を上げる。ロメリアはダリルの笑い声を聞いて、思わず目を見開いて彼の顔に視線を移す。
フォルトはダリルの話を聞き終えると、顔を少し俯けた。すると肩を僅かに揺らしながら押し殺した笑い声を出し始めた。ダリルとロメリアは困惑しながらフォルトに顔を向けると、フォルトは嘲笑を全面的に出した笑みを浮かべてダリルに話しかける。
「あっはははは・・・ごめんなさい、貴方の話がついついしょうも無くて笑っちゃいました。」
「何?」
「だってそうじゃないですか?貴方がやっている事はまるで子供が駄々をこねているよう・・・いい大人が何やっているんだか・・・」
フォルトはゆっくりとダリルの方へと歩きだす。ダリルはロメリアを引きずりながら少しずつ後退する。
「失敗したらまず自分に何か至らぬ点があったかどうかを把握して反省することが大切なはずなのに貴方はずっとお前達のせいだ、お前達のせいだと言ってばっかり・・・自分ではなく相手が悪いと真っ先に考えるのは『自己中心的な無能』がすることだ。・・・ボスがあんたの地位を下げたのにも納得がいくよ。あんたみたいな『責任を投げ出す奴』は組織には不要だからね。」
フォルトの言葉を受けてダリルは以前ボスから言われたことを思い出した。ダリルの手が震え始める。
『ダリル・・・私はお前が王女を連れてこなかったことを責めているのではない・・・私が責めているのは・・・王女を逃した責任を部下達に負わせようとしている事だ。私は『お前』に命令を下したのだぞ?貴様の部下には誰一人として指示を出していない・・・貴様にだけだ。それに貴様は私に言ったよな?『責任を持って命令を達成する』と・・・それなのに貴様は私が与えた責任を拒絶するのか?それほど貴様は偉いのか?身の程を弁えるがいい・・・』
ボスの言葉を思い出したダリルは引き金を軽く引き、フォルトに叫ぶ。
「そ、それ以上近づいたらこの女の頭を吹き飛ばすぞ!大切な女なんだろう?その場で止まって武器を捨てろ!」
ダリルの言葉を受けてフォルトは笑みを浮かべたまま立ち止まると、両手に持っているそれぞれの鎖鎌を屋根に落とした。
「フォルト⁉何してるの⁉」
ロメリアが咄嗟に叫ぶと、フォルトはロメリアに瞳を合わせる。ロメリアはフォルトの瞳を見ると口を閉じて再び黙り込む。
ダリルは満足そうに3回頷くとさらに注文を出してきた。
「よ~し、いいぞ・・・そしてら腕を上げてゆっくりとその場で1回転しろ。ゆっくりとな・・・下手に動けば・・・分かっているな?」
ダリルはロメリアの頭に再び銃口を押し込む。フォルトは笑みを消して両腕を上げるとその場でゆっくりと体を回転させる。
フォルトがダリル達に背中を見せた時、ダリルはフォルトに叫んだ。
「おい!ベルトに付けているナイフを外せ。柄は持つなよ?鞘を持つんだ。」
フォルトは右手をゆっくりと下げて後ろの腰に付けているナイフを取り外すと、再び腕を上げてダリル達の方へと振り向いた。ダリルはナイフを持ったフォルトに追加の注文を行う。
「そのナイフを汽車の外に捨てろ。足元にある鎖鎌もだ。」
ダリルの言葉を受けてロメリアが思わず叫んだ。
「駄目だよっ!フォルト!」
「五月蠅ぇ!」
ダリルはロメリアに視線を移し、銃口をより強く頭に押し込んだ。ロメリアは痛みで思わず片目を瞑る。
その瞬間、フォルトはナイフを真っ直ぐ手放した。ダリルの視線はフォルトが手放したナイフに移り、意識を持っていかれる。フォルト達の間が静まり返る。
ナイフが重力に従って落ちて行く中、ナイフの刃がフォルトの方を向いてハンドルの方がダリルの方へと向く。そしてそのままナイフは屋根の上に音を立てて落ちた。
その直後、一瞬の静寂を打ち破るかのようにハンドルの底が炸裂し、ダリルの右脛に鉛玉が直撃した。
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