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~大陸横断汽車編 第18章~
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[奪還]
「ぐぁっ!」
ナイフから放たれた弾丸はダリルの右脛を貫き、肉を弾き飛ばす。突然の激痛に襲われたダリルは一瞬体の自由が利かなくなった。
ダリルは屋根に落ちたナイフに視線を向けると、ナイフの底に銃口のような丸い穴が開いており、そこから白煙が薄っすらと揺らめいていた。
『あのナイフ・・・仕込み銃だったのかっ!クソガキがッ・・・やりやがったなっ!』
ダリルがフォルトの落としたナイフが仕込み銃と気が付いたその時、ロメリアの後頭部が突然ダリルの目の前を覆い尽くし、鈍い感覚が鼻に伝わる。直後、ロメリアの後頭部はダリルの鼻を潰して顔に埋めた。
「ふんっ!」
「うっ⁉」
ダリルは思わず銃の引き金を引くが銃口は明後日の方へと向いており、けたたましい銃声だけが一瞬響いただけだった。ダリルはそのままロメリアを離すと地面へと背中から倒れる。
「フォルト!」
ロメリアは両手を後ろで縛られたままフォルトの下へと走り寄る。ダリルはそんなロメリアの姿を左手で潰れた鼻を抑えながら見ると、右手に持っている拳銃の銃口をロメリアの背中に合わせる。ダリルの表情が憎悪に染まる。
「行かせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ダリルは引き金に掛けている人差し指に全力で力を込めた。後刹那の瞬間で撃鉄が雷管を弾く・・・そうすれば弾丸は射出され、ロメリアの背中に命中して胸を貫通する・・・ダリルはロメリアを仕留めれると・・・誰も自分の引き金を引く動作を邪魔できないと・・・そう確信していた。
だがフォルトはそんな彼の希望を軽々と打ち砕いた。フォルトは足元に落としていた鎖鎌を足で掬い上げると、鎖鎌を手に取って瞬きする間にロメリアとダリルの間へと移動する。自分がロメリアの盾となりうる場所に移動すると、すかさず彼に接近し鎌を下から斬り上げるように振り上げてダリルの右腕を斬り飛ばした。
斬り飛ばされた腕の断面から鮮血が噴き出し、綺麗な曲線を描いて谷底へと落ちていった。人差し指は引き金を半分ほど引き絞った状態で固まっていた。
「⁉」
ダリルが痛みも忘れて驚愕していると、フォルトは鎖をダリルの周辺に展開して彼の首に何重にも巻き付ける。フォルトはそのままダリルの体を蹴り飛ばし汽車の外へと落とした。
ダリルは首に全体重がかかったまま、汽車と並走するように鎖にぶら下がる。・・・引きずられると言ったらいいのだろうか、ダリルは鎖に手をやって必死に外そうとする。
『くそ、くそ、くそォっ!外れろ!外れてくれぇ!』
ダリルは懸命に体を捻ったりしながら鎖を解こうとするが、既に首の肉に食い込んでいて外れることは無かった。ダリルの脳裏に『死』の恐怖がくっきりと浮かび上がってくる。
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!死にたくない死にたくないっ!俺はこんな所で死にたくない!俺は『あの世界』でのし上がっていくんだ!こんな惨めに誰にも看取られないで死にたくないっ!』
ダリルは必死に心の中で生への渇望を爆発させる。脳に酸素が回らなくなり次第に薄くなっていく意識の中、たったその思いだけを願い続けた。
だがフォルトは無情にも鎖を動かし、ダリルの首に巻き付いていた鎖がより強く締まる。その瞬間、『バキッ!』と首がへし折れる音がし、強い風に吹かれている洗濯物の様に体を『く』の字に曲げると、首の皮膚が千切れて首から上と下のパーツが後方へと吹き飛んでいった。吹き飛んでいった首と体は地面に落ちると醜い肉片へと変貌し、もう男か女か・・・そもそも人間だったのかということすら分からなくなっていた。その後、ダリル『だった』肉片は汽車から落ちた勢いに乗って谷底へと落ちていき、その姿を消した。
「・・・さようなら。」
フォルトは哀れみを込めた声で呟くと、立ち上がってロメリアの下へと駆け付ける。フォルトはロメリアに近づくと、勢いよく抱き着いた。ひんやりと濡れた服の感覚が肌から伝わる。
「ロメリア!良かった生きてて・・・」
フォルトはロメリアに抱きついたまま彼女の顔を見上げる。ロメリアは腕を後ろで縛られているのでフォルトを抱きしめられず、少し残念そうに目を細めている。
「ロメリア・・・服が濡れてるけど・・・」
「ああ、これ?ちょっと氷水をかけられちゃってね・・・ちょっと乾いたけど・・・」
ロメリアはそう言いながら体を小刻みに震わしている。先程からそうだったのだが、ロメリアの唇は何時もの健康的な色ではなく青くなっており、呼吸も安定していなかった。
『氷水をかけられた上にこんな風が強い屋根の上に長時間いたら風邪をひくだけじゃ済まない・・・早く車内に戻らないと・・・』
フォルトはロメリアの後ろに回り込むと、懐から2つの針金を取り出して手錠の鍵を開錠すると手錠をロメリアから外して渓谷へと投げ捨てた。フォルトはそのまま体を震わせるロメリアに体を密着させながら屋根の上を歩いていく。
フォルト達を乗せている汽車は相変わらず橋の上を走っていたが、とうとう終わりが見えてきていた。
「ぐぁっ!」
ナイフから放たれた弾丸はダリルの右脛を貫き、肉を弾き飛ばす。突然の激痛に襲われたダリルは一瞬体の自由が利かなくなった。
ダリルは屋根に落ちたナイフに視線を向けると、ナイフの底に銃口のような丸い穴が開いており、そこから白煙が薄っすらと揺らめいていた。
『あのナイフ・・・仕込み銃だったのかっ!クソガキがッ・・・やりやがったなっ!』
ダリルがフォルトの落としたナイフが仕込み銃と気が付いたその時、ロメリアの後頭部が突然ダリルの目の前を覆い尽くし、鈍い感覚が鼻に伝わる。直後、ロメリアの後頭部はダリルの鼻を潰して顔に埋めた。
「ふんっ!」
「うっ⁉」
ダリルは思わず銃の引き金を引くが銃口は明後日の方へと向いており、けたたましい銃声だけが一瞬響いただけだった。ダリルはそのままロメリアを離すと地面へと背中から倒れる。
「フォルト!」
ロメリアは両手を後ろで縛られたままフォルトの下へと走り寄る。ダリルはそんなロメリアの姿を左手で潰れた鼻を抑えながら見ると、右手に持っている拳銃の銃口をロメリアの背中に合わせる。ダリルの表情が憎悪に染まる。
「行かせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ダリルは引き金に掛けている人差し指に全力で力を込めた。後刹那の瞬間で撃鉄が雷管を弾く・・・そうすれば弾丸は射出され、ロメリアの背中に命中して胸を貫通する・・・ダリルはロメリアを仕留めれると・・・誰も自分の引き金を引く動作を邪魔できないと・・・そう確信していた。
だがフォルトはそんな彼の希望を軽々と打ち砕いた。フォルトは足元に落としていた鎖鎌を足で掬い上げると、鎖鎌を手に取って瞬きする間にロメリアとダリルの間へと移動する。自分がロメリアの盾となりうる場所に移動すると、すかさず彼に接近し鎌を下から斬り上げるように振り上げてダリルの右腕を斬り飛ばした。
斬り飛ばされた腕の断面から鮮血が噴き出し、綺麗な曲線を描いて谷底へと落ちていった。人差し指は引き金を半分ほど引き絞った状態で固まっていた。
「⁉」
ダリルが痛みも忘れて驚愕していると、フォルトは鎖をダリルの周辺に展開して彼の首に何重にも巻き付ける。フォルトはそのままダリルの体を蹴り飛ばし汽車の外へと落とした。
ダリルは首に全体重がかかったまま、汽車と並走するように鎖にぶら下がる。・・・引きずられると言ったらいいのだろうか、ダリルは鎖に手をやって必死に外そうとする。
『くそ、くそ、くそォっ!外れろ!外れてくれぇ!』
ダリルは懸命に体を捻ったりしながら鎖を解こうとするが、既に首の肉に食い込んでいて外れることは無かった。ダリルの脳裏に『死』の恐怖がくっきりと浮かび上がってくる。
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!死にたくない死にたくないっ!俺はこんな所で死にたくない!俺は『あの世界』でのし上がっていくんだ!こんな惨めに誰にも看取られないで死にたくないっ!』
ダリルは必死に心の中で生への渇望を爆発させる。脳に酸素が回らなくなり次第に薄くなっていく意識の中、たったその思いだけを願い続けた。
だがフォルトは無情にも鎖を動かし、ダリルの首に巻き付いていた鎖がより強く締まる。その瞬間、『バキッ!』と首がへし折れる音がし、強い風に吹かれている洗濯物の様に体を『く』の字に曲げると、首の皮膚が千切れて首から上と下のパーツが後方へと吹き飛んでいった。吹き飛んでいった首と体は地面に落ちると醜い肉片へと変貌し、もう男か女か・・・そもそも人間だったのかということすら分からなくなっていた。その後、ダリル『だった』肉片は汽車から落ちた勢いに乗って谷底へと落ちていき、その姿を消した。
「・・・さようなら。」
フォルトは哀れみを込めた声で呟くと、立ち上がってロメリアの下へと駆け付ける。フォルトはロメリアに近づくと、勢いよく抱き着いた。ひんやりと濡れた服の感覚が肌から伝わる。
「ロメリア!良かった生きてて・・・」
フォルトはロメリアに抱きついたまま彼女の顔を見上げる。ロメリアは腕を後ろで縛られているのでフォルトを抱きしめられず、少し残念そうに目を細めている。
「ロメリア・・・服が濡れてるけど・・・」
「ああ、これ?ちょっと氷水をかけられちゃってね・・・ちょっと乾いたけど・・・」
ロメリアはそう言いながら体を小刻みに震わしている。先程からそうだったのだが、ロメリアの唇は何時もの健康的な色ではなく青くなっており、呼吸も安定していなかった。
『氷水をかけられた上にこんな風が強い屋根の上に長時間いたら風邪をひくだけじゃ済まない・・・早く車内に戻らないと・・・』
フォルトはロメリアの後ろに回り込むと、懐から2つの針金を取り出して手錠の鍵を開錠すると手錠をロメリアから外して渓谷へと投げ捨てた。フォルトはそのまま体を震わせるロメリアに体を密着させながら屋根の上を歩いていく。
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