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超能力者開発指数(PKDI)
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「どうしてこうなるまでほおっといたんだ!アルコールやニコチンなんて論外だ。手術しねぇと、本当に死ぬぞ!」
イリイチは帰還後すぐに学園所属の病院に入っていった。出血多量の上に意識も朦朧としており、今立っていること自体が奇跡に近かった。
「…手術は嫌いなんだがな。」
朦朧とした意識の中、大量の麻酔を打ち込まれたイリイチはそのまま長時間の手術に入った。
「ま、あの鬼が死ぬ訳がない。俺たちも帰って寝よう。ほら、イリーナも部屋に帰るぞ。」
リーコンの声掛けにイリーナは反応しなかった。どうもイリイチのことを心配している様子だ。心配しようがしまいが死ぬ時は死ぬという現実も、幼い少女には関係の無いことだ。
「…残るのか。ま、好きにしな。」
素っ気ない言葉とともにリーコンは去った。翔はそれを見てなにか思うことがあるようだが特に何かを言うことも無くリーコンと共に帰っていく。
「イリイチだって人の子だな。安全保障だなんだって言ったって、イリーナが自己防衛の術を持っているのは知ってるだろうに。やっぱ血が繋がってると情も湧くのかな?」
「怖い赤鬼に見えて意外と繊細な所がある…かもな。」
なんとも皮肉たっぷりにイリイチについて語る2人は、それなりに彼のことを知っているから皮肉を交えることが出来るんだと言わんばかりだ。
だが彼らは彼をまだまだ知らない。
「骨が8本ほど折れている。低酸素状態。出血量も人間の寛容範囲を超えている。脳にも深刻なダメージ。これで話せる程度には大丈夫なのだから異常だよ。」
本来なら危篤状態として葬式の準備をするような段階だが、イリイチの場合はそこまでの後遺症なく1ヶ月もすれば生活に戻れるだろう。身体や脳が異常なぐらいに頑丈なのだ。
「左脳のおよそ半分が空洞化していて、言語力や記憶力がしっかりしていた今までの方が異常なんだよ。イリイチという名前だったな。あの革命家のように惨めな最期を迎えることもない。」
脳に関しては今は何も出来ない。恐らくは上からの指示で人工知能を入れることになるだろう。人工で造られた脳という禁忌も、学園においてはしばしば行われる施術だった。輸血を大量に入れ、千切れた皮を止めておき、骨を固めておく。入れた麻酔の量からして当分は起きない。
「イリイチ…。」
誰ひとりとしてイリイチの心配はしていない。驚異的な生命力からして死ぬ訳がないと医者は確信を持っているし、医学的知識のないリーコンたちだって、そんな下らない死に方をするような男だとも思っていない。ただ1人、ようやく巡り会えた家族を失いたくないと願う少女がいるだけだ。唯一の家族の危機に少女は一睡も出来なかった。
結果:記憶保存回路の破損。第六感の大幅弱体化。
医者は淡々と記していた。3日間眠っていた患者の状況を。
「これはまだ出回っていない。大きく宣伝した超能力者開発指数の看板になる生徒がまさか記憶喪失になったと知られれば学園は大惨事だ。しかも、しかもだ。シックス・センスは弱体化している。それも大きくな。上層部はこれを幸いとして、イリイチとイリーナを確保しようとするだろう。東京本校は邪魔な兄がいなくなった金の卵を回収しに来るだろう。」
生徒の医療環境に責任を持つ学園院長はこれからの事態を不安に思っていた。それは彼の顔色からも伺えるだろう。
「山崎康太が彼に挑んだ、いやイリーナを拉致したのは東京の陰謀だ。本校派閥と横浜派閥の競り合いは今に始まったことではないが、あの2人の第六感は危険すぎる。横浜にいるスパイがこれに気がつけばすぐにでもこの病院は終わりだ。生徒の医療に責任を持っているから、いや、医者として患者の生命に責任を持っている以上は…。」
百戦錬磨の医者たちは今、高校生に怯えていた。責任感をもたすという歯切れのいい言葉の元にその役になり切った生徒がその役を演じるために、他の生徒を殺そうとしている。
「大人同士の覇権争いに子どもを介入させる外道どもめ…!」
怒りを放つがそれは何も変えられないという諦めにも似た怒りだった。
圧倒的な無力感に襲われる大人たち。覇権を目指して他人を騙し裏切り操り殺す大人たち。それすらも快楽に変えてしまう超能力者の子どもたち。
グレート・ゲームは最大のうねりと共に始まろうとしている。
イリイチは帰還後すぐに学園所属の病院に入っていった。出血多量の上に意識も朦朧としており、今立っていること自体が奇跡に近かった。
「…手術は嫌いなんだがな。」
朦朧とした意識の中、大量の麻酔を打ち込まれたイリイチはそのまま長時間の手術に入った。
「ま、あの鬼が死ぬ訳がない。俺たちも帰って寝よう。ほら、イリーナも部屋に帰るぞ。」
リーコンの声掛けにイリーナは反応しなかった。どうもイリイチのことを心配している様子だ。心配しようがしまいが死ぬ時は死ぬという現実も、幼い少女には関係の無いことだ。
「…残るのか。ま、好きにしな。」
素っ気ない言葉とともにリーコンは去った。翔はそれを見てなにか思うことがあるようだが特に何かを言うことも無くリーコンと共に帰っていく。
「イリイチだって人の子だな。安全保障だなんだって言ったって、イリーナが自己防衛の術を持っているのは知ってるだろうに。やっぱ血が繋がってると情も湧くのかな?」
「怖い赤鬼に見えて意外と繊細な所がある…かもな。」
なんとも皮肉たっぷりにイリイチについて語る2人は、それなりに彼のことを知っているから皮肉を交えることが出来るんだと言わんばかりだ。
だが彼らは彼をまだまだ知らない。
「骨が8本ほど折れている。低酸素状態。出血量も人間の寛容範囲を超えている。脳にも深刻なダメージ。これで話せる程度には大丈夫なのだから異常だよ。」
本来なら危篤状態として葬式の準備をするような段階だが、イリイチの場合はそこまでの後遺症なく1ヶ月もすれば生活に戻れるだろう。身体や脳が異常なぐらいに頑丈なのだ。
「左脳のおよそ半分が空洞化していて、言語力や記憶力がしっかりしていた今までの方が異常なんだよ。イリイチという名前だったな。あの革命家のように惨めな最期を迎えることもない。」
脳に関しては今は何も出来ない。恐らくは上からの指示で人工知能を入れることになるだろう。人工で造られた脳という禁忌も、学園においてはしばしば行われる施術だった。輸血を大量に入れ、千切れた皮を止めておき、骨を固めておく。入れた麻酔の量からして当分は起きない。
「イリイチ…。」
誰ひとりとしてイリイチの心配はしていない。驚異的な生命力からして死ぬ訳がないと医者は確信を持っているし、医学的知識のないリーコンたちだって、そんな下らない死に方をするような男だとも思っていない。ただ1人、ようやく巡り会えた家族を失いたくないと願う少女がいるだけだ。唯一の家族の危機に少女は一睡も出来なかった。
結果:記憶保存回路の破損。第六感の大幅弱体化。
医者は淡々と記していた。3日間眠っていた患者の状況を。
「これはまだ出回っていない。大きく宣伝した超能力者開発指数の看板になる生徒がまさか記憶喪失になったと知られれば学園は大惨事だ。しかも、しかもだ。シックス・センスは弱体化している。それも大きくな。上層部はこれを幸いとして、イリイチとイリーナを確保しようとするだろう。東京本校は邪魔な兄がいなくなった金の卵を回収しに来るだろう。」
生徒の医療環境に責任を持つ学園院長はこれからの事態を不安に思っていた。それは彼の顔色からも伺えるだろう。
「山崎康太が彼に挑んだ、いやイリーナを拉致したのは東京の陰謀だ。本校派閥と横浜派閥の競り合いは今に始まったことではないが、あの2人の第六感は危険すぎる。横浜にいるスパイがこれに気がつけばすぐにでもこの病院は終わりだ。生徒の医療に責任を持っているから、いや、医者として患者の生命に責任を持っている以上は…。」
百戦錬磨の医者たちは今、高校生に怯えていた。責任感をもたすという歯切れのいい言葉の元にその役になり切った生徒がその役を演じるために、他の生徒を殺そうとしている。
「大人同士の覇権争いに子どもを介入させる外道どもめ…!」
怒りを放つがそれは何も変えられないという諦めにも似た怒りだった。
圧倒的な無力感に襲われる大人たち。覇権を目指して他人を騙し裏切り操り殺す大人たち。それすらも快楽に変えてしまう超能力者の子どもたち。
グレート・ゲームは最大のうねりと共に始まろうとしている。
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