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もう一人の第六感

意思の集合体

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「クソっ!何が起きたんだ。この糞ガキめ。」
千畝は立ち上がった。イリイチは意識を完全に失っている。殺すなら今が最高の時だ。拳銃を構える。
「…いやまてよ。イリーナが学園に回収されれば、またあの悲劇を繰り返すことになる…。だったら、こいつを犠牲にすれば。」
学園と千畝は同盟関係だ。それは個人同士の友情などではなく、非常なビジネスによって形成されている。千畝とイリーナの安全保障の代わりにイリーナを東京本校と契約させるのが彼らの同盟理由だ。イリーナが用済みとなってしまえば彼女を消すために学園そのものが敵となる。ではイリーナを守るためにどうすればいいのか。答えは単純明快である。学園が求めていること、シックス・センスを持った別の人間を差し出せばいい。とどのつまり生贄には別にイリーナである必要性はない。科学者の端くれとして、ここでその選択をすれば全て解決する。
「お前は、俺たちのことを自分の手のひらで踊らせているつもりかもしれねぇが、今日からお前は俺の手の中だ。イリーナは渡さねぇ。」
気絶している間にイリイチを運ぶために学園に手配する。千畝は勝ち誇った顔で笑うのであった。
「ざまぁねぇなぁ。イリイチ。世の中そんな甘くはねぇ。お前は一生ゴミで終わりだ。」
唾をはきかけると、イリイチは少し動いたようにも見えた。いや、少し所ではない。足掻きながらも立ち上がろうとしている。
「そうはいかねぇよ!」
イリイチに蹴りを入れる。再び倒れた彼は、それでも立ち上がろうとしている。 
「…シックス・センスていうのは…ピンチのときに…進化するんだよ…!」
イリイチはかつてのような活力を取り戻しつつある。シックス・センスによる脳波の送受信がより鋭く相手の思考を破壊する。
「Tltnkあt」
千畝の脳波は滅茶苦茶に狂う。イリイチが今まで受信してきた他人の脳波を千畝に送ったのだ。総勢1億を超える脳波は、千畝の脳を作動不能にする。
「苦しいか?苦しいな。お前の頭には今1億5000万の意思が流れ込んでいる。何もかもが出鱈目で生きているか死んでいるか無意味にしてしまう。人間が意思の生き物である以上は、シックス・センスというものは生まれては行けなかったんだよ…。」
千畝の脳が完全に破壊されたのを確認し、イリイチはその場を去る。その瞳には勝利の余韻でも悲しみでもなく、ただ虚しさだけが漂っていた。
「あぁクソ。受信範囲が定まらねぇ。世界中の人間の意思が流れ込んできやがる。」
誰の記憶でもない、誰の意思でもない、自分だけの意思は消え失せようとしている。他人の意思と自分の意思が組み合わさってしまえば
どこに行くわけでもなく、どうしようも無くなり座して煙草を咥えていた。
「俺の果てはこれか。人間の意思を送受信する媒体は最期は何も無くなって消えてしまう。」
イリイチは受け入れて高笑いをした。狂気に染まった笑顔でもなく子供のような無邪気な笑顔で笑ったのだ。
「…イチ!イリイチ!」
意識も絶えつつあった彼に声をかけたのは…なんだ、イリーナではないか。
「おいおい、どうしたんだ。お前の声はよく響くな。」
「しっかりしてよ!イリーナをひとりにしないで!」
懇願だ。イリーナはひとりぼっちにはなりたくない。誰かのために生きるなら。だから懇願する。イリイチというに対して。
「そうかぁ。ひとりにはなりたくねぇのか。そうだよなぁ。誰だってひとりで生きるのはとてもとても悲しいことだ…。」
虚ろな目は、彼が消滅するのを止める術はない。シックス・センスという不条理は不条理に消えて死んでいくのだ。
だがそれは許されないことだった。イリイチの意思が消えても、イリーナの中でイリイチの意思は残り続ける。地球中全ての人間の意思の固まりになって果てたとしても
「大丈夫。イリイチは死なせはしない。不条理だなんだと言ってもイリーナはイリイチの意思を知っているから…。」
イリイチは消滅しなかった。シックス・センスは意思を集合させる。集合した意思はイリイチの意思を奪う。イリーナはイリイチの意思をイリイチに送ることによって彼がこの世界から消滅するのを防いだ。
世界中が彼を奪おうとしても彼は消えない。初めて人に守ってもらった赤鬼は安らかな表情で笑った。
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