56 / 205
もう一人の第六感
意思の集合体
しおりを挟む
「クソっ!何が起きたんだ。この糞ガキめ。」
千畝は立ち上がった。イリイチは意識を完全に失っている。殺すなら今が最高の時だ。拳銃を構える。
「…いやまてよ。イリーナが学園に回収されれば、またあの悲劇を繰り返すことになる…。だったら、こいつを犠牲にすれば。」
学園と千畝は同盟関係だ。それは個人同士の友情などではなく、非常なビジネスによって形成されている。千畝とイリーナの安全保障の代わりにイリーナを東京本校と契約させるのが彼らの同盟理由だ。イリーナが用済みとなってしまえば彼女を消すために学園そのものが敵となる。ではイリーナを守るためにどうすればいいのか。答えは単純明快である。学園が求めていること、シックス・センスを持った別の人間を差し出せばいい。とどのつまり生贄には別にイリーナである必要性はない。科学者の端くれとして、ここでその選択をすれば全て解決する。
「お前は、俺たちのことを自分の手のひらで踊らせているつもりかもしれねぇが、今日からお前は俺の手の中だ。イリーナは渡さねぇ。」
気絶している間にイリイチを運ぶために学園に手配する。千畝は勝ち誇った顔で笑うのであった。
「ざまぁねぇなぁ。イリイチ。世の中そんな甘くはねぇ。お前は一生ゴミで終わりだ。」
唾をはきかけると、イリイチは少し動いたようにも見えた。いや、少し所ではない。足掻きながらも立ち上がろうとしている。
「そうはいかねぇよ!」
イリイチに蹴りを入れる。再び倒れた彼は、それでも立ち上がろうとしている。
「…シックス・センスていうのは…ピンチのときに…進化するんだよ…!」
イリイチはかつてのような活力を取り戻しつつある。シックス・センスによる脳波の送受信がより鋭く相手の思考を破壊する。
「Tltnkあt」
千畝の脳波は滅茶苦茶に狂う。イリイチが今まで受信してきた他人の脳波を千畝に送ったのだ。総勢1億を超える脳波は、千畝の脳を作動不能にする。
「苦しいか?苦しいな。お前の頭には今1億5000万の意思が流れ込んでいる。何もかもが出鱈目で生きているか死んでいるかすら無意味にしてしまう。人間が意思の生き物である以上は、シックス・センスというものは生まれては行けなかったんだよ…。」
千畝の脳が完全に破壊されたのを確認し、イリイチはその場を去る。その瞳には勝利の余韻でも悲しみでもなく、ただ虚しさだけが漂っていた。
「あぁクソ。受信範囲が定まらねぇ。世界中の人間の意思が流れ込んできやがる。」
誰の記憶でもない、誰の意思でもない、自分だけの意思は消え失せようとしている。他人の意思と自分の意思が組み合わさってしまえば自分のという人間は消滅してしまう。
どこに行くわけでもなく、どうしようも無くなり座して煙草を咥えていた。
「俺の果てはこれか。人間の意思を送受信する媒体は最期は何も無くなって消えてしまう。」
イリイチは受け入れて高笑いをした。狂気に染まった笑顔でもなく子供のような無邪気な笑顔で笑ったのだ。
「…イチ!イリイチ!」
意識も絶えつつあった彼に声をかけたのは…なんだ、イリーナではないか。
「おいおい、どうしたんだ。お前の声はよく響くな。」
「しっかりしてよ!イリーナをひとりにしないで!」
懇願だ。イリーナはひとりぼっちにはなりたくない。誰かのために生きるならその誰かがいなくては生きられないのだ。だから懇願する。イリイチという人間に対して。
「そうかぁ。ひとりにはなりたくねぇのか。そうだよなぁ。誰だってひとりで生きるのはとてもとても悲しいことだ…。」
虚ろな目は、彼が消滅するのを止める術はない。シックス・センスという不条理は不条理に消えて死んでいくのだ。
だがそれは許されないことだった。イリイチの意思が消えても、イリーナの中でイリイチの意思は残り続ける。地球中全ての人間の意思の固まりになって果てたとしてもイリーナがイリイチの意思を認識できる限りにはイリイチは消滅しない。
「大丈夫。イリイチは死なせはしない。不条理だなんだと言ってもイリーナはイリイチの意思を知っているから…。」
イリイチは消滅しなかった。シックス・センスは意思を集合させる。集合した意思はイリイチの意思を奪う。イリーナはイリイチの意思をイリイチに送ることによって彼がこの世界から消滅するのを防いだ。
世界中が彼を奪おうとしても彼は消えない。初めて人に守ってもらった赤鬼は安らかな表情で笑った。
千畝は立ち上がった。イリイチは意識を完全に失っている。殺すなら今が最高の時だ。拳銃を構える。
「…いやまてよ。イリーナが学園に回収されれば、またあの悲劇を繰り返すことになる…。だったら、こいつを犠牲にすれば。」
学園と千畝は同盟関係だ。それは個人同士の友情などではなく、非常なビジネスによって形成されている。千畝とイリーナの安全保障の代わりにイリーナを東京本校と契約させるのが彼らの同盟理由だ。イリーナが用済みとなってしまえば彼女を消すために学園そのものが敵となる。ではイリーナを守るためにどうすればいいのか。答えは単純明快である。学園が求めていること、シックス・センスを持った別の人間を差し出せばいい。とどのつまり生贄には別にイリーナである必要性はない。科学者の端くれとして、ここでその選択をすれば全て解決する。
「お前は、俺たちのことを自分の手のひらで踊らせているつもりかもしれねぇが、今日からお前は俺の手の中だ。イリーナは渡さねぇ。」
気絶している間にイリイチを運ぶために学園に手配する。千畝は勝ち誇った顔で笑うのであった。
「ざまぁねぇなぁ。イリイチ。世の中そんな甘くはねぇ。お前は一生ゴミで終わりだ。」
唾をはきかけると、イリイチは少し動いたようにも見えた。いや、少し所ではない。足掻きながらも立ち上がろうとしている。
「そうはいかねぇよ!」
イリイチに蹴りを入れる。再び倒れた彼は、それでも立ち上がろうとしている。
「…シックス・センスていうのは…ピンチのときに…進化するんだよ…!」
イリイチはかつてのような活力を取り戻しつつある。シックス・センスによる脳波の送受信がより鋭く相手の思考を破壊する。
「Tltnkあt」
千畝の脳波は滅茶苦茶に狂う。イリイチが今まで受信してきた他人の脳波を千畝に送ったのだ。総勢1億を超える脳波は、千畝の脳を作動不能にする。
「苦しいか?苦しいな。お前の頭には今1億5000万の意思が流れ込んでいる。何もかもが出鱈目で生きているか死んでいるかすら無意味にしてしまう。人間が意思の生き物である以上は、シックス・センスというものは生まれては行けなかったんだよ…。」
千畝の脳が完全に破壊されたのを確認し、イリイチはその場を去る。その瞳には勝利の余韻でも悲しみでもなく、ただ虚しさだけが漂っていた。
「あぁクソ。受信範囲が定まらねぇ。世界中の人間の意思が流れ込んできやがる。」
誰の記憶でもない、誰の意思でもない、自分だけの意思は消え失せようとしている。他人の意思と自分の意思が組み合わさってしまえば自分のという人間は消滅してしまう。
どこに行くわけでもなく、どうしようも無くなり座して煙草を咥えていた。
「俺の果てはこれか。人間の意思を送受信する媒体は最期は何も無くなって消えてしまう。」
イリイチは受け入れて高笑いをした。狂気に染まった笑顔でもなく子供のような無邪気な笑顔で笑ったのだ。
「…イチ!イリイチ!」
意識も絶えつつあった彼に声をかけたのは…なんだ、イリーナではないか。
「おいおい、どうしたんだ。お前の声はよく響くな。」
「しっかりしてよ!イリーナをひとりにしないで!」
懇願だ。イリーナはひとりぼっちにはなりたくない。誰かのために生きるならその誰かがいなくては生きられないのだ。だから懇願する。イリイチという人間に対して。
「そうかぁ。ひとりにはなりたくねぇのか。そうだよなぁ。誰だってひとりで生きるのはとてもとても悲しいことだ…。」
虚ろな目は、彼が消滅するのを止める術はない。シックス・センスという不条理は不条理に消えて死んでいくのだ。
だがそれは許されないことだった。イリイチの意思が消えても、イリーナの中でイリイチの意思は残り続ける。地球中全ての人間の意思の固まりになって果てたとしてもイリーナがイリイチの意思を認識できる限りにはイリイチは消滅しない。
「大丈夫。イリイチは死なせはしない。不条理だなんだと言ってもイリーナはイリイチの意思を知っているから…。」
イリイチは消滅しなかった。シックス・センスは意思を集合させる。集合した意思はイリイチの意思を奪う。イリーナはイリイチの意思をイリイチに送ることによって彼がこの世界から消滅するのを防いだ。
世界中が彼を奪おうとしても彼は消えない。初めて人に守ってもらった赤鬼は安らかな表情で笑った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
デイサービス ふくふく ~あやかし招き猫付き~
織原深雪
キャラ文芸
小さいころから面倒見てくれた祖母が、弱ってきて私は高校生の時から家族の中で一番、祖母の介護にあたってきた。
バイトも進学もせぬままに、日々祖母のお世話をしてきた。
そんな祖母を、見送った時。
私は二十一歳になっていた。
進学もしていないし、仕事もしたことがない二十一歳。
私、笹倉佳菜恵は、どうしようと思い悩んでた。
そんな時、祖母の介護でお世話になったケアマネさんに言われた。
「佳菜恵ちゃんは、介護の経験値があるよ。僕の紹介で良ければ、介護士で働いてみたらどうだろう?」
そうして紹介してもらったデイサービスふくふくは、眺めの良い立地に建つ一軒家風のデイサービス施設で、穏やかな利用者さんに囲まれて、佳菜恵は自分の時間を取り戻していく。
そして、そこには珍しい尻尾が二つに分かれた猫がいた。
って、この猫私にしか見えていないの?!
新人介護士と、そこに現れる尻尾が二本のあやかし猫との、ほのぼのストーリー。
私が異世界物を書く理由
京衛武百十
キャラ文芸
女流ラノベ作家<蒼井霧雨>は、非常に好き嫌いの分かれる作品を書くことで『知る人ぞ知る』作家だった。
そんな彼女の作品は、基本的には年上の女性と少年のラブロマンス物が多かったものの、時流に乗っていわゆる<異世界物>も多く生み出してきた。
これは、彼女、蒼井霧雨が異世界物を書く理由である。
筆者より
「ショタパパ ミハエルくん」が当初想定していた内容からそれまくった挙句、いろいろとっ散らかって収拾つかなくなってしまったので、あちらはあちらでこのまま好き放題するとして、こちらは改めて少しテーマを絞って書こうと思います。
基本的には<創作者の本音>をメインにしていく予定です。
もっとも、また暴走する可能性が高いですが。
なろうとカクヨムでも同時連載します。
水の失われた神々
主道 学
キャラ文芸
竜宮城は実在していた。
そう宇宙にあったのだ。
浦島太郎は海にではなく。遥か彼方の惑星にある竜宮城へと行ったのだった。
水のなくなった惑星
滅亡の危機と浦島太郎への情愛を感じていた乙姫の決断は、龍神の住まう竜宮城での地球への侵略だった。
一方、日本では日本全土が沈没してきた頃に、大人顔負けの的中率の占い師の高取 里奈は山門 武に不吉な運命を言い渡した。
存在しないはずの神社の巫女の社までいかなければ、世界は滅びる。
幼馴染の麻生 弥生を残しての未知なる旅が始まった。
果たして、宇宙にある大海の龍神の住まう竜宮城の侵略を武は阻止できるのか?
竜宮城伝説の悲恋の物語。
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
眠らせ森の恋
菱沼あゆ
キャラ文芸
新米秘書の秋名つぐみは、あまり顔と名前を知られていないという、しょうもない理由により、社長、半田奏汰のニセの婚約者に仕立て上げられてしまう。
なんだかんだで奏汰と同居することになったつぐみは、襲われないよう、毎晩なんとかして、奏汰をさっさと眠らせようとするのだが――。
おうちBarと眠りと、恋の物語。
魔法カフェ「コルボ」へようこそ!
ぼんげ
キャラ文芸
「火炎魔法」のカリン、「水流魔法」のアオイ、「重力魔法」のノア。
普段はとあるカフェで働く三人の魔法少女たち。
そんな彼女たちの前に立ちはだかる相手とは……?
魔法少女たちの戦いを描いたドタバタコメディ開幕!?
妖の木漏れ日カフェ
みー
キャラ文芸
ある時、ふと井戸の中を覗いたら吸い込まれてついた先は妖の街。
そこで、カフェを営む妖にお世話になることに。
そこで過ごしていると耳に入ってくるこの街と人間に関する噂。
自分がいると街が滅びてしまう……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる