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もう一人の第六感
敗北主義者
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誰もが運命を受けいれて、誰もがそれに納得して死んでいく。
それは何事に置いても同じことだ。誰かを守るために死んでいく。自分を守るために死んでいく。国家の誇りを守るために死んでいく。民族の威厳をかけて死んでいく。当たり前のことなのだ。その段階で思考を停止して、生命を賭けた賭博で負けていく。それを壊そうとするものはいつだって英雄と呼ばれる。
「間違っている。現状を打破するために、少女を犠牲にして国家のための利益だからとそこで思考停止する。私はそんなことを許す訳には行かない。」
若い科学者、日本からやってきた男。千畝は意志を固めつつあった。彼の名前はナチス・ドイツのユダヤ人ホロコーストから6000人もの命を救った杉浦千畝からあやかってつけた名前だ。魔法のような科学で世界中の人々を救うという夢の狭間には、少女を生贄に捧げなくてはならないという現実のような歯切れのいい言葉は偽善にすら聞えなかった。
「もはや偽善ですらない。国家の利益を尊重する?それは本当に正しいことなのか?狂ってる。仲間も実験体も何もかもが狂っている。」
酷い哀しみに浸っている彼は、何としてでも少女1人の生命を護るために行動を起こそうとしていた。
「チウネはもう駄目だな。敗北主義的だ。イリーナを処分する時に併せて彼も処分しよう。与えるものは少なく得られるものは全て得られた。ロシアの研究にはロシアを愛しているものしかいらないんだよ。外国人の敗北主義者を射殺しようが罪には問われない。」
狂気の世界に突き進んでいる科学者たちは、なにも悪のために研究をしている訳では無い。正義のためだ。正義の捉え方が違うのだ。千畝の正義はどこか理想主義的だ。その点他の科学者は現実主義だ。彼たちの哲学に歪みが出れば、必ず空中分解を起こす。多数派の正義を守るためには少数派の正義に耳を傾けている暇はないのだ。
「出来る限り早く執行しよう。今すぐでもいい。なに銃殺するだけだ。イリーナはいい子だから受け入れるだろう。チウネはただの人間だ。銃弾には耐えきれない。さよなら、チウネくん。祖国に対する裏切り者には誰であろうと許しはしないのさ。」
憲兵を集結させる。情報が絶対機密である研究所には憲兵が呼ばれることは稀だ。その代わり彼らは命令通りなら何をしても罪に問われない。彼らは憲兵と言うよりはいいとこ殺し屋の郎党だ。
「中佐殿。小隊は祖国のために正義の暴力を行使します。」
「わかった。少女の方は脳を絶対に撃つな。それ以外ならどこでもいい。日本人の方は好きにしろ。この夜のうちにあの世に送ってやれ。」
科学班の首班、ロシア軍特殊部隊中佐は事実上の殺人指令を送る。憲兵たちは血気盛んに盛り上がり、仕事を成し遂げるために動き始める。
惨劇は始まろうとしている。
「イリーナ!イリーナ!起きろ!」
イリーナはそこまで寝ぼけた様子なく目を覚ます。目の前にいたのは悪辣な殺人鬼ではなく、優しい部類にはいる日本人であった。
「チウネ、なにかあったの。」
「おしゃべりはあとだ。俺たちは逃げるぞ。もう少しで憲兵がやってくる。だから逃げるんだ。どこか遠い国にでも逃げよう。」
「なんでにげる必要があるの?」
イリーナは本当に疑問のような顔で問いかける。その表情をみて、余計に逃がさないといけないと意思が固くなる。
「いいから行くぞ!」
手を引っ張る。このまま出ていっても蜂の巣になるのが少し早くなるだけだと言うのになにか秘策でもあるのか恐れている様子はない。
「いいか、イリーナ。科学は魔法だ。今から魔法を見せてあげる。その魔法をみたら2人で逃げよう。」
スマートフォンのようなものを千畝は取り出す。それから少しした後に魔法は起きた。
「真っ暗になったね。」
「これが魔法さ。暗闇にみんなが怯えているうちに明るい外に逃げるんだ。」
電磁パルス。あらゆる電子制御された機械を行動不能にすることが出来る科学のひとつ。科学に頼り切った現代人を行動不能にすることが出来る。
「イリーナは今まで人のためだけに生きてきた。今度は自分のために生きろ。これから先にいる奴らのことなんか気にするな。さぁ、走れ!」
千畝はイリーナを押した。わけも分からず全力疾走する少女は千畝の言った意味を理解出来ていなかった。やがて敵性意思をもった人間が千畝に近づく。
「おい日本人。あのガキ何処にやった?」
「教えるわけないだろ。このクソ露助が。」
「そうかよ。」
銃音が聞こえる未来を予知した。イリーナは感情を爆発させたかのように目の色が真紅に変わる。
「…!死んでいない!何が起きたんだ。何故俺ではなくてこいつらが死んでいるんだ。」
「チウネ!一緒に逃げようよ!」
少女の声が聞こえる。今までの凛々しくも何処か哀しみを背負った目の色は変わり、奈落の底のような眼をしている。
「イリーナ…!お前がやったのか?……。わかった。一緒に行こう。」
ロシア超能力研究所。完全壊滅。研究員1人を除き意識不明の植物状態。その他兵隊は全員死亡。実験体は全員逃亡し、ロシア政府は自体の収束のためにこの研究の凍結を決定した。
それは何事に置いても同じことだ。誰かを守るために死んでいく。自分を守るために死んでいく。国家の誇りを守るために死んでいく。民族の威厳をかけて死んでいく。当たり前のことなのだ。その段階で思考を停止して、生命を賭けた賭博で負けていく。それを壊そうとするものはいつだって英雄と呼ばれる。
「間違っている。現状を打破するために、少女を犠牲にして国家のための利益だからとそこで思考停止する。私はそんなことを許す訳には行かない。」
若い科学者、日本からやってきた男。千畝は意志を固めつつあった。彼の名前はナチス・ドイツのユダヤ人ホロコーストから6000人もの命を救った杉浦千畝からあやかってつけた名前だ。魔法のような科学で世界中の人々を救うという夢の狭間には、少女を生贄に捧げなくてはならないという現実のような歯切れのいい言葉は偽善にすら聞えなかった。
「もはや偽善ですらない。国家の利益を尊重する?それは本当に正しいことなのか?狂ってる。仲間も実験体も何もかもが狂っている。」
酷い哀しみに浸っている彼は、何としてでも少女1人の生命を護るために行動を起こそうとしていた。
「チウネはもう駄目だな。敗北主義的だ。イリーナを処分する時に併せて彼も処分しよう。与えるものは少なく得られるものは全て得られた。ロシアの研究にはロシアを愛しているものしかいらないんだよ。外国人の敗北主義者を射殺しようが罪には問われない。」
狂気の世界に突き進んでいる科学者たちは、なにも悪のために研究をしている訳では無い。正義のためだ。正義の捉え方が違うのだ。千畝の正義はどこか理想主義的だ。その点他の科学者は現実主義だ。彼たちの哲学に歪みが出れば、必ず空中分解を起こす。多数派の正義を守るためには少数派の正義に耳を傾けている暇はないのだ。
「出来る限り早く執行しよう。今すぐでもいい。なに銃殺するだけだ。イリーナはいい子だから受け入れるだろう。チウネはただの人間だ。銃弾には耐えきれない。さよなら、チウネくん。祖国に対する裏切り者には誰であろうと許しはしないのさ。」
憲兵を集結させる。情報が絶対機密である研究所には憲兵が呼ばれることは稀だ。その代わり彼らは命令通りなら何をしても罪に問われない。彼らは憲兵と言うよりはいいとこ殺し屋の郎党だ。
「中佐殿。小隊は祖国のために正義の暴力を行使します。」
「わかった。少女の方は脳を絶対に撃つな。それ以外ならどこでもいい。日本人の方は好きにしろ。この夜のうちにあの世に送ってやれ。」
科学班の首班、ロシア軍特殊部隊中佐は事実上の殺人指令を送る。憲兵たちは血気盛んに盛り上がり、仕事を成し遂げるために動き始める。
惨劇は始まろうとしている。
「イリーナ!イリーナ!起きろ!」
イリーナはそこまで寝ぼけた様子なく目を覚ます。目の前にいたのは悪辣な殺人鬼ではなく、優しい部類にはいる日本人であった。
「チウネ、なにかあったの。」
「おしゃべりはあとだ。俺たちは逃げるぞ。もう少しで憲兵がやってくる。だから逃げるんだ。どこか遠い国にでも逃げよう。」
「なんでにげる必要があるの?」
イリーナは本当に疑問のような顔で問いかける。その表情をみて、余計に逃がさないといけないと意思が固くなる。
「いいから行くぞ!」
手を引っ張る。このまま出ていっても蜂の巣になるのが少し早くなるだけだと言うのになにか秘策でもあるのか恐れている様子はない。
「いいか、イリーナ。科学は魔法だ。今から魔法を見せてあげる。その魔法をみたら2人で逃げよう。」
スマートフォンのようなものを千畝は取り出す。それから少しした後に魔法は起きた。
「真っ暗になったね。」
「これが魔法さ。暗闇にみんなが怯えているうちに明るい外に逃げるんだ。」
電磁パルス。あらゆる電子制御された機械を行動不能にすることが出来る科学のひとつ。科学に頼り切った現代人を行動不能にすることが出来る。
「イリーナは今まで人のためだけに生きてきた。今度は自分のために生きろ。これから先にいる奴らのことなんか気にするな。さぁ、走れ!」
千畝はイリーナを押した。わけも分からず全力疾走する少女は千畝の言った意味を理解出来ていなかった。やがて敵性意思をもった人間が千畝に近づく。
「おい日本人。あのガキ何処にやった?」
「教えるわけないだろ。このクソ露助が。」
「そうかよ。」
銃音が聞こえる未来を予知した。イリーナは感情を爆発させたかのように目の色が真紅に変わる。
「…!死んでいない!何が起きたんだ。何故俺ではなくてこいつらが死んでいるんだ。」
「チウネ!一緒に逃げようよ!」
少女の声が聞こえる。今までの凛々しくも何処か哀しみを背負った目の色は変わり、奈落の底のような眼をしている。
「イリーナ…!お前がやったのか?……。わかった。一緒に行こう。」
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