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チャプター3 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭

065 コスプレイヤー・ルーシ

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 ホットドックが最近のお気に入りだ。これにコーラを合わせて、なにかを見ている瞬間が1番楽しいかもしれない。

 そんなルーシは、当人が確定事項と評したように、アークとメリットが勝ち上がったのを眺めていた。

「この……落ちこぼれのオタク野郎がァ!!」
「だからなんだよ……!!」

 アークは誰に喧嘩の仕方を教わったのだろうか。足取りが妙にうまい。格闘技のそれではない。相手を単純に鎮めるための拳である。

「ぎゃッ!?」

 そして、ただの拳ではないのも事実だ。触れた瞬間、爆発のような現象が起きている。バトル・ロワイアル形式のなか、アークは絡んできた連中を順調に潰している。

「アーク、強くなったなー」

 とぼけている、ように見えて、実際ルーシがおもしろがって発現させた能力とはまた違う能力で彼は闘っているので、実際とぼけた態度で見るしかない。

「……ルーちゃん、怖くないの?」
「コルシカの怪物が皇帝陛下になる時代は怖ェな」
「いや、そのたとえはよくわかんないんだけど……こうやって人と人がただただ殺し合いしてるところが怖いんだ」
「そうかい? ちゃんとルールがあるんだから、無邪気なものだろ」
「……格闘技みたいなもんだしなぁ」
「お、いつの間にか撃沈したヤツが隣に。結局うまくいかなかったのかい?」

 メントは実に落ち込んだ表情で、顔を手で覆い語る。

「声がかけられないんだ……。だってこっちを見てくる男子生徒みんな目そらしてくるんだもん……。そんなにあたし怖い? ちょっと目つき悪いだけじゃん……」
「うーむ。重症だな」
「メントちゃん、かっこいいから仕方ないよ。男の子はかわいい子が好きなのであって、かっこいい子は好きじゃないもん」
「パーラ、そうやってナチュナルにけなすのはよくねェぞ? オマエら親友だろ?」
「もう良いよ……。一生モテない人生過ごす……」

 哀れなものだ。いくら実力者でも、年齢が年齢ゆえに乙女な考え方をしているため、こんなに落ち込む羽目になる。それを解決する方法が見いだせない以上、ルーシがなにかをしてやることはできないし、こうやって眺めているほうがおもしろいのでなにかをするつもりもない。

「まあ、あれだな。オマエらだったらどうするよ? 私は10歳なもので、男の口説き方なんて分からんのさ」
「オマエ絶対10歳じゃねえだろ……」メントは嗚咽を漏らす。
「コスプレ!! そうだよ! コスプレしたら!?」

 パーラが突拍子のないことを言い始めた。ルーシはさり気なく消えようとする。

「メントちゃん、私、ホープちゃん、ルーちゃん!! 壮麗祭で1番のコスプレイヤーになろうよ!!」

 メントの心がゆるぎかけている。ますます危ない。なにが悲しくて、オタクどもの餌にならなくてはならないのだろうか。

「……そうだな。何事も挑戦だ。パーラ、あたしコスプレするよ」

 ルーシはさり気なくその場から消えようとするが、ホープの視線に気がついて逃げられないことを知る。彼女もコスプレイヤーにはなりたくないだろうし、なるのならば誰かを巻き添えにするつもりなのだ。

「…………すげェ嫌だな」
「えー!! ルーちゃん絶対似合うよ!? 私の彼女なんだから!!」
「恥かかせるなよ? オマエの頼みだから聞いてやるがよ」

 *

 パーラはアニメが好きだ。そしてこの世界では、いわゆる異世界アニメが王道を握っているらしい。もっとも、異世界アニメなんてものは日本人が考えたものだし、ルーシもこの世界からすれば異世界人だが。
 だからか、ルーシは女騎士のような格好をさせられていた。

「村娘っていうには派手過ぎないか?」
「ルーちゃん銀髪だからね。多少派手になっちゃうのは仕方ないよ!!」
「つか、動きにくいにも程があるだろ。せめてスーツのほうが良いんだが」
「なんとなくルーちゃんはスーツいつも着てるような気がするし、普段と違うのが良いんだよ!!」
「ああ、そうかい……」

 この姿へ着替えた瞬間、男ども──特にオタクみたいな姿をした連中からの視線が強い。ルーシの中身は男なので、そんな視線を集めたところで一切特をしない。

「メントちゃん、似合ってるよ!!」
「……パーラ、なんであたしは男装してるんだ?」
「だって男の子キャラが似合うんだもん!!」

 メントは男装していた。ショートヘアなので、そこまで違和感はない。ちなみに化粧までしている。あくまでも男性的に振る舞ってほしいらしい。ルーシは思わずニヤけた。

「……なにかおかしいところがあると?」
「いや? 一切そのようなことは思っていないぜ? 結局男か、なんて思っていないぜ?」
「遺言は?」
「ちょ、ちょっと落ち着こうかっ!! メントちゃん!! 似合ってるよっ!?」

 パーラが必死にフォローしようとするものの、これを選んだのはパーラ自身なので悪手(あくしゅ)ともいえる。怒りがパーラへ向くのだ。

「……オマエはあたしをなんだと思ってるんだ?」

 意外と落ち込んでいるようだった。パーラはあたふたと言い訳を考えているようである。
 そんな最中、ルーシは助け舟を出す。

「アークに分けてやりてェなー。アイツ、顔の骨格と身体からして女だしなー」
「……アーク」

 メントはそのとき思い出した。あれだけ傷つけてしまった、自分のわがままで闘ってしまった少年のことを。

「あー、女みて-なヤツと男みてーなヤツが付き合ったらお似合いかもなー」

 ひとまずこの場を収めるために、ルーシはアークという餌をぶら下げる。このままではパーラが悲しむからだ。

(こんな小娘のためにおれが方便図るなんて、前世のおれが聞いたら腹抱えて笑うだろうな)

 ルーシはひょっとしたらすこしだけ優しくなったのかもしれない、というのは、この世界に訪れてから彼、基彼女自身もしばしば思うことである。世の中すべてを恨んですらいた少年が、パーラのような子ども相手に配慮することなどなかったからだ。
 だが、いまとなればそれも愉悦だ。

「……アークと目合わせられないもん」
「乙女みてーなこというなよ。まったく似合わない。けどま、男はそういう女が好きだからな」
「そうだよ、メントちゃん!! アークくんは心広いから許してくれるよ!! なにあったか知らないけど!!」
「な、ホープ」

 前世、日本にいたルーシにはわかる。このコスプレ、アニメに疎いルーシですら見たことのある超有名なライトノベルを元にしたものだ。青髪だからこうなったのだろう。

「……うち、恋愛とかよくわかり……んない」
「えー、彼氏いるのに? あんなにかっこいい彼氏いるのに、分かんないは通用しないよ、ホープちゃん!!」
「……シエスタのほうから来たから。それに、どうやって出会ったのかも覚えてない」

 ルーシはホープの背中を軽く押す。

「よっしゃ、シエスタにその姿見せてこい」
「え、あ……恥ずかしいよ」顔を赤らめる。
「アイツだったら喜ぶさ。なにせ、オマエの彼氏だからな?」

 褒めているのか貶しているのかは、ルーシにしかわからない世界である。

「そして闘いは終わったようだ。見てみろ」

 バトル・ロワイアル。文字通り生き残りを賭けた闘いだ。死屍累々の上に立つは、ふたり高校生。ひとりの少年とひとりの少女。数百名が参加したこの戦闘の時間は10分にも満たない。このふたりが強すぎるからだ。

「じゃ、行って来い。メント」

 そのなかにはアークがいる。当然だ。彼は汗ひとつたらさず、表情を緩めることなく、それが当然だといわんばかりの顔で闘技場から去っていった。

「こ、心の準備が……」
「戦争に準備があると思うな。チャンスを逃したら、もう二度とその好機はやってこないと考えろ」

 メントの表情が確固たるものへと変わる。
 彼女にも誇りがあるのだ。この学校でトップクラスを走っている魔術師という誇りが。ならば、恋愛ごときに臆してはいられない。

 彼女はアークのほうへ向かっていった。ルーシは皮肉交じりにつぶやく。

「主席様の嫉妬は怖ェぞ?」
「ん? ルーちゃん、どういうこと?」
「そのままの意味さ」

 パーラは頭をかしげるしかなかった。

「さーて、前座が終わったな。真打ち登場だ。私の相手は?」
「えーとね……」

 パーラはタブレットを見る。そして、顔が蒼くなって、しばし絶句した。が、やがてルーシへ告げる。

「……ウィンストン・ファミリーのキャビンだよ」
「……ウィンストン・ファミリー?」ホープは怪訝な顔になる。
「頭をもがれた哀れなロバどもだ。トドメを刺してくるか。女騎士にマゾ性癖を植え付けられるとは可哀想に」

 このままの格好で向かうつもりだ。小刻みに震えるパーラを抱きしめて、ルーシは宣言する。

「勝ってくる。それだけだ」

 ルーシはいつもの傲岸な態度に、優しさを混ぜた。
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