上 下
3 / 26

3.二人の皇子

しおりを挟む
 私達は部屋の中で談話する。あの後、城内の奥の部屋がたくさんある所に連れて行かれ、その中の一つの部屋でアリーゼ第一皇子、マリス第二皇子が、ドアから近い、向こう側のソファーに。私はそこから机をはさんだソファーに座った。

 ソファーはオーク材で出来ており、ひだ模様や火炎模様で施されて、クラシック様式風であり、お洒落でかっこいい。少しそちら側にときめいていたら、では。と、アリーゼ第一皇子が話し掛けてきたので私は其方の方へ向いた。

「改めまして自己紹介から。シルバー王女からどうぞ」
「はい…。私はミルシルド王国大四王女、シルバー・ミルシルドです16歳。宜しくお願い致します」
「ええ。…私の名前はアリーゼ・スプレッド。この国の第一皇子です。17歳なので貴女より一つ年上ですね。宜しくお願いします」

 アリーゼ第一皇子は、165cmぐらいの高身長で、赤く燃えるような髪と瞳。如何にも優しそうな、イケメンという感じで、微笑みを向けられれば、女性の歓声が上がりそうな、そのような男性だ。
 そして、

「俺は、第二皇子、マリス.スプレッドだよォ。15歳。君より年下。宜しくねェ。シルバー王女ォ」

 アリーゼ第一皇子の隣に座り、その彼と同じように赤髪だけど、背が小さい彼は、ニコニコと笑いながら、少しなまった感じの言葉を喋る。ギャルっぽい印象だ。第一皇子とは対照的で、つり目であり少しやんちゃ風の印象を受けた。イケメンというより、可愛らしい風貌だ。
すると、アリーゼ第一皇子は、マリス第二皇子を一瞥する。

「...マリス、大国の王女だぞ。もう少し敬意を払え」
「でもォ、婚約者…ていうか、伴侶になるんだしィ、くだけた感じがよくなあィ?あまりにも、堅苦しいのォ俺、嫌」
「……。」

 アリーゼ皇子は、マリス第二皇子のいうことに、何も反応せず、本当に失礼しました。と私に謝る。それにマリス第二皇子はうすら笑いをすると、私に向かって喋りかけてきた。

「ねェ、どっちが良い?シルバー王女ォ。敬語と、敬語抜かすの」
「わたくし、どちらでもよろしいですわ。ですが…アリーゼ第一皇子様は私より年上ですし…、マリス様と同じようにされたら如何でしょう」
「はあ…、では、貴女が言うなら。しかし、…私は貴女には敬語で接しますよ。大国ミルシルドという方、というのも忘れたくないですし。できるなら、対等な存在として扱いたいですしね」

 彼も笑い、私の目を探るようにじっと見た。…おう…。辞めて。理由はわかるけど…、そんな、私、疑われる事しないと思うよ?これからどうなるかわからないけど…。正直裏切ろうだなんては思っていないもの…。

「はは。やったー。だけどォ、...ミルシルド王国ねェ」

 その声で、思惑を巡らせるのが中断されたので、私はマリス第二皇子の方を見る。すると、ニヤッと口端を上げる彼。

「…シルバー王女ってェ、確か王位継承権、第8の王女じゃん。に、しても、こんなに扱い悪いのォ?だって、護衛が全くいないなんて異常だよォ。…でもそれってェ、俺達の国が舐められているって事だよねェ。それに、婚約がどっちか。なんて曖昧だもの」

 キャハハッと、マリス第二皇子は声高らかにして笑う。

「…継承権一位の、第一王女様がやはり良かったですか?」
「いいやァ。俺的に、ミルシルド王国と繋がれるなら誰でも良いよォ。まァ、でも、しょうがないよねェ。この神聖、カリーテナ帝国じゃァ。ねー。アリーゼお兄様ァ」

 彼はそれに問い掛けると、アリーゼ第一皇子はマリス第二皇子を横目で見る。

「…まあ、それほど俺達の国が、危うい状況として見られているのかもな。そう…国の、基盤が緩んでいるんだ」
「本当だよねェ…。神聖カリーテナ帝国…」

 マリス第二皇子は目を瞑ると何かを思うようにし、再び、目を開けた。

「…神聖カリーテナ帝国は、長年続く教皇に認められ授けられた国。そして、複数の民族から、構成される国家連合。んで、その農奴を俺達王権と、神権…教皇で争い合ってる」
「聖職叙任権闘争って奴ですわね」
「そうそう、云わばここは、蠱毒の巣って感じィ。それで、それに乗じて、諸侯が反乱を起こす事が、よくあるんだよねェ。面積も広いし、暴徒化は当たり前。だけど、一応国としては成り立っている。不思議だよねェ」

 ニコニコ笑う彼。そうだ…。この少女漫画、「神聖帝国の少女~奪還する愛と国~」は、神権と、王権が二分する世界だ。

 だから、それで、争いが頻繁に起きており、この帝国を常に揺るがしている。

 が、何故か国として保っているのは、王権の存在が今、神権の存在より、微弱ながら、上の方にあるからだろう。
 それは王権を繋ぐ、第一皇子と第二皇子が二人いる、っていうことが関係しているんだろうけど。

 第一皇子のアリーゼは、とにかく軍事采配が秀でており、度々起こる蛮族の襲来を跳ね除けて、国民からの指示が厚いし、第二皇子のマリスは、人脈作りが上手で、商人達をうまく転がすから、それで、王権での力のバランスがとれている。
 それに、歴史の流れでも、ここの所神聖カリーテナ帝国はよく、男子が生まれやすく、王位継承も難なく進み、今が国としての盛期ではないかとも言われている。

 まあ、だからそれで、神聖カリーテナ帝国が国として保っていられるのもこれがあるからなのだろう。だから、ミルシルド王国も、大国だけど、神聖カリーテナ帝国と、同じ位置の立場として、友好的な関係で同盟を組んだのだ。

 …まあ、でもそのせいなのかな?盛期なのは、嬉しいけれど…人は豊かになると、同時に目が眩んできたり、欲望に満ち溢れてしまう事がある…。だから、兄弟同士で争って少女漫画じゃ崩壊してしまうのよね。

「…ええ。だから、私が派遣されましたのよ?ミルシルド王国で一番継承権の低い、この私がね。貴方方は、試されているのです。…それは、忘れないで頂きたいですわね」

 すると、ピクリとアリーゼ第一皇子が反応し私を見ると真剣な顔になった。

「そうですね…。まあだから…なのですかね。貴女は継承権が低い王女としても…大国の王女という肩書きがある…。なので、気を付けてくださいね。シルバー王女。貴女に魔の手が、かかるかもしれない。…もしかしたら、近くにもいらっしゃるかもしれません」

 そうして、彼は隣のマリス皇子を見た。すると、マリス皇子はん?と、言った感じで、アリーゼ皇子を見る。

「…何でもかんでも、その所為にするゥ…。まあでもそうだよねェ。仕方ないよねェ。お兄様は、先に生まれた所為で、そんな風にされるようなってしまったものォ。可愛そうなお兄様ァ」
「お前は甘えさせられた所為でそうなってるのかな?」
「アハハ。そうかもォ」

 そうすると、二人は口元は笑いながら、目はお互い憎悪の目で睨み合い、ふふ、あはは。という声を、お互い漏らした。

 ああ…。やっぱ、仲が悪いのね…。その様子を見て、心の中で溜息をついた。
 まあそれはここが「帝国」っていうのと、彼等の生きてきた環境が二人をこのように形成してしまっているのかもしれない。

 しかし、私はヒロイン視点で漫画を読んでいるから、シルバー王女の心境、あまりわかんなかったんだけど……、やはり、彼女はこういう風な、お互いの裏を描くようなシーンを見て、心が荒んでいったのかな…。そりゃあ散々、ミルシルド王国でも争いを見てたからな…。私はその事に対して敏感だ。だから、この隙を突かれて、シルバー王女に寝返られてしまうのか。

 なんだか、少女漫画の秘密にたどり着いた気がした。

「…どうされまして、お二方。何か?気になる事でも」
「いいえ。大丈夫です。シルバー王女。貴女の事は俺が守りますから」
「そうですか…。それは、頼もしいですこと…。ああ。そういや、それでも、きちんと、ミルシルド王国のお土産は積んで来てますのよ?貴方方名義で、交通網を整備して頂けましたから、関税など他の領主様に取り立てられなかったので、たくさん持ち運びできましたわ。もしよろしければ、拝見していただけると嬉しいですの。後で一緒に見ましょう?すごいですわよ」
「そうですか。有難うございます」
「楽しみィ」

 そうすると二人は私の方を見た。ふー。とりあえず、争いを見ることに、回避することが出来たわ。

「ねェ、それよりさあ、どちらと婚約、っていう話もあるけどォ、まず、護衛つけてあげないとねェ…。俺達の方からで良いよね。もう。シルバー王女は、神聖カリーテナ帝国の人間扱いでェ」
「ええ。勿論ですわ」
「というわけで出てきなよォ。マーク」

 彼が指をパチンッっとすると、ドアからトントンとされ、失礼します。と髪が青色で、目が隠れている男性が出てきた。

「名前は、マーク・ウインターだよォ。ほら挨拶してェ」
「はい……」

 マリス第二皇子に紹介されたマークは、おどおどしながら、私に向かう。そして深く、頭を勢い良く下げると、

「マーク・ウインターです…。僭越ながら護衛をさせていただきます…。よろしくお願いします…」

 と、後半語尾を小さくする、独特な喋りで挨拶したので、私もシルバーです。宜しくお願いしますわと言った。するとマーク君ははい…。と言い、顔を隠した。

 ちょっと自信なさげに見えるけど…、大丈夫?

すると、私が彼の事をそんな風にみてしまっていたら、安心してェ。と、マリス第二皇子から言われる。

「彼はこんな成りだけど…、死ぬ程、めっちゃ強いよォ。もうとにかくありあまる力つぎ込んだからァ。ねえ…マーク…?」
「ひっ…。あ。はい……。大丈夫です…。シルバー王女様…。随分とこきつかってくださいませ…」

 一瞬マークはびくっとして、また普段の格好に戻る。…いまひっ...って言ったけど…。

「でェどうするゥ…?俺とお兄様、どちらと婚約するか決めたァ。初日だけどォ」
「…それは、少し、考えさせてもらっても良いかしら」
「良いよォ。別に特段強制でもないしィ。ゆっくりしていきなよォ」

 あははッ。と、笑うマリス第二皇子。そして、私を蛙を睨む蛇みたいに睨むと、

「…そんなに怖がらなくていいよ。大人しくしておけばとって食いはしないよ。とりあえずね」

 と、何故かギャルっぽい喋り方を辞め、マリス第二皇子は話し掛けてきた。だからそれに唾を飲み、ええ。と返事を返す。

「……お城を自由に回るのは有りですか」
「うん。勿論だよォ。一緒に回ってあげようかァ」
「いいえ。少し、護衛さんと仲を深めたいです。これからよく共にしますし。その間、馬車にひっついている荷車から荷物をご自由に取り出してくださいませ」
「そォ?じゃ、遠慮なくそうさせて頂こォ」
「アリーゼ皇子様も良いですか」
「ええ。どうぞご自由に。基本貴女は、神聖カリーテナ帝国に関して、何もして頂かなくて結構ですから、好きな事をやってください」
「あ。でも、基本的な、王妃教育は受けてもらうよォ。郷に入って郷に従え。っていうでしょォ」
「ええ。それは、勿論」
「いずれ、知らせてあげるよォ。じゃ、ほら、マーク。案内してあげてェ。ちゃんと護衛するんだよォ」
「はい……。では、参ります…シルバー王女様。」

 そうして私は部屋から出て行き、マークと一旦、この城を回ることにした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

お姉さまから婚約者を奪って、幸せにしてみせますわ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:18,431pt お気に入り:123

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,068pt お気に入り:75

黒い獣は巻き込まれ平凡を持ち帰る

BL / 連載中 24h.ポイント:17,643pt お気に入り:327

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,956pt お気に入り:7,508

ウィンドウと共にレベルアップ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,790pt お気に入り:130

どうせ政略結婚だから、と言われた話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:220pt お気に入り:51

魔法のせいだから許して?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:525pt お気に入り:3,525

悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:108

転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,193pt お気に入り:3,680

処理中です...