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書籍発売御礼 エリザベスとイアンの出会い
6.魔法の言葉【イアン視点】
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「エリザベス様……お兄様は凄いの。立派なの。けどわたくしは何もできない。お兄様の邪魔者なの」
リリアンの目から涙が溢れてくる。そうか、リリアンはそんな風に思っていたのか……。
「こんなに必死でリリアン様を探しているお兄様が、リリアン様を邪魔だと思う訳ないじゃありませんか」
エリザベス様は、リリアンを抱きしめて穏やかに話をして下さっている。最近知ったのだが、リリアンは俺が不在の間、俺を訪ねてくる令嬢の相手をしてくれていたらしい。
貴族令嬢は我儘だ。思い通りにいかず、まだ幼いリリアンを罵倒した者もいたそうだ。俺は、不在の時に交流のない令嬢が訪ねてきたらリリアンに会わせず追い返すように指示した。リリアンにも謝罪した。リリアンは、大丈夫だと笑っていた。けど、リリアンの受けた心の傷は、全く癒えていなかったんだ。
リリアンはエリザベス様に縋りつき、泣いている。
「けど! わたくしがいるからお兄様は……!」
「リリアン様、わたくしには弟がおりますの。わたくし、弟の為ならどんな事でも頑張れますわ。お兄様も、そうなのではありませんか?」
涙が止まり、リリアンの表情が明るくなった。俺は、必死でエリザベス様の言葉を肯定した。
「リリアン……不安にさせてごめん。俺は……リリアンが大事なんだ。頼むから、邪魔者なんて悲しい事……言わないでくれ……。俺は……リリアンだけが支えなんだ」
俺の必死の訴えに、エリザベス様の明るい声が重なる。
「分かりますわ! わたくしも、弟の為にいろんな事をしましたの。弟がいなければ、こんなに成長できませんでしたわ。リリアン様、お兄様はご立派な方だと仰いましたよね?」
「ええ、そうよ! お兄様は凄いの!」
そうか。俺を凄いと思ってくれる妹の為ならもっと頑張れる。エリザベス様は、内緒話をするようにリリアンに声をかけた。
「お兄様が凄いのは、リリアン様のお力もあると思いますわよ」
「……え?」
エリザベス様のお言葉は、まるでおとぎ話に出てくる魔法のようだ。あれだけ頑なだったリリアンが、素直にエリザベス様の話を聞いている。それに、俺の心も分かって下さっている。
エリザベス様は優雅に微笑み、リリアンに笑いかけた。
「ふふっ。兄や姉は、弟や妹に良いところを見せたい生き物なんですの。イアン様がご立派なのは、リリアン様の前でカッコつけたいからですわ」
「そうなの?」
リリアンが、以前のように俺の目を見て笑っている。嬉しい……。良かった、俺はリリアンに嫌われた訳ではなかったんだ。
「……ああ、その通りだよ。俺は……リリアンがいるから頑張れるんだ」
「わたくしは、お兄様の役に立ってるの?」
「もちろんだ……! リリアンが元気に笑ってくれるだけで、仕事の疲れが吹っ飛ぶんだ」
「まぁ! なんて素晴らしいのかしら。リリアン様のお力は偉大ですわ」
「エリザベス様、わたくしもっとお兄様のお役に立ちたいわ。何をすればいい?」
家庭教師の言う事を聞かないリリアンが、初めて自分から教えを乞うている。
「まずは、ご自分を大事になさるところから始めてはいかがですか? この間、弟が剣術を訓練をひとりでして、怪我をしたんですの。わたくし、心配で夜も眠れなくて……」
「そんなに、心配なの?」
「ええ。リリアン様がお怪我をすれば、イアン様もご心配なさるのでは?」
「リリアンが怪我をするなんて、絶対駄目だ!」
「でしたらリリアン様はご自分を大切になさいませんと。このような場では、よからぬ輩も現れますわ。夜会は、成人してからご参加下さいまし。きっとイアン様が素敵なエスコートをして下さいますわ」
「ほんと? お兄様は、わたくしのエスコートをして下さるの?」
「ああ……リリアンに相応しい男性が現れるまで、俺がリリアンのエスコートをするよ」
「わたくし、お兄様の邪魔者じゃない?」
「邪魔者なんて言う奴等の話を聞くな! 俺は……リリアンが誰よりも大切なんだ……!」
「貴族は、嘘も得意ですからね。イアン様の話を信用なさる方がよろしいですわ。イアン様がリリアン様に邪魔者とおっしゃった訳ではないのでしょう?」
「お兄様はそんな事言わないわ!」
「なら、イアン様のお言葉を信用なさいませ」
「……そうね。ありがとうエリザベス様。……あの……お願いがあるの……」
「なんでしょうか?」
「わたくしの……お友達になって下さいませんか?」
リリアンの目から涙が溢れてくる。そうか、リリアンはそんな風に思っていたのか……。
「こんなに必死でリリアン様を探しているお兄様が、リリアン様を邪魔だと思う訳ないじゃありませんか」
エリザベス様は、リリアンを抱きしめて穏やかに話をして下さっている。最近知ったのだが、リリアンは俺が不在の間、俺を訪ねてくる令嬢の相手をしてくれていたらしい。
貴族令嬢は我儘だ。思い通りにいかず、まだ幼いリリアンを罵倒した者もいたそうだ。俺は、不在の時に交流のない令嬢が訪ねてきたらリリアンに会わせず追い返すように指示した。リリアンにも謝罪した。リリアンは、大丈夫だと笑っていた。けど、リリアンの受けた心の傷は、全く癒えていなかったんだ。
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「けど! わたくしがいるからお兄様は……!」
「リリアン様、わたくしには弟がおりますの。わたくし、弟の為ならどんな事でも頑張れますわ。お兄様も、そうなのではありませんか?」
涙が止まり、リリアンの表情が明るくなった。俺は、必死でエリザベス様の言葉を肯定した。
「リリアン……不安にさせてごめん。俺は……リリアンが大事なんだ。頼むから、邪魔者なんて悲しい事……言わないでくれ……。俺は……リリアンだけが支えなんだ」
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「ええ、そうよ! お兄様は凄いの!」
そうか。俺を凄いと思ってくれる妹の為ならもっと頑張れる。エリザベス様は、内緒話をするようにリリアンに声をかけた。
「お兄様が凄いのは、リリアン様のお力もあると思いますわよ」
「……え?」
エリザベス様のお言葉は、まるでおとぎ話に出てくる魔法のようだ。あれだけ頑なだったリリアンが、素直にエリザベス様の話を聞いている。それに、俺の心も分かって下さっている。
エリザベス様は優雅に微笑み、リリアンに笑いかけた。
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「そうなの?」
リリアンが、以前のように俺の目を見て笑っている。嬉しい……。良かった、俺はリリアンに嫌われた訳ではなかったんだ。
「……ああ、その通りだよ。俺は……リリアンがいるから頑張れるんだ」
「わたくしは、お兄様の役に立ってるの?」
「もちろんだ……! リリアンが元気に笑ってくれるだけで、仕事の疲れが吹っ飛ぶんだ」
「まぁ! なんて素晴らしいのかしら。リリアン様のお力は偉大ですわ」
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「そんなに、心配なの?」
「ええ。リリアン様がお怪我をすれば、イアン様もご心配なさるのでは?」
「リリアンが怪我をするなんて、絶対駄目だ!」
「でしたらリリアン様はご自分を大切になさいませんと。このような場では、よからぬ輩も現れますわ。夜会は、成人してからご参加下さいまし。きっとイアン様が素敵なエスコートをして下さいますわ」
「ほんと? お兄様は、わたくしのエスコートをして下さるの?」
「ああ……リリアンに相応しい男性が現れるまで、俺がリリアンのエスコートをするよ」
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「貴族は、嘘も得意ですからね。イアン様の話を信用なさる方がよろしいですわ。イアン様がリリアン様に邪魔者とおっしゃった訳ではないのでしょう?」
「お兄様はそんな事言わないわ!」
「なら、イアン様のお言葉を信用なさいませ」
「……そうね。ありがとうエリザベス様。……あの……お願いがあるの……」
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