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書籍発売御礼 エリザベスとイアンの出会い
5.妹がいない【イアン視点】
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最近リリアンは、屋敷を抜け出し勝手に夜会に紛れ込んでいる。仕事も大事だが、リリアンの方が大事だ。俺は上司にかけあい、仕事を減らしてもらった。その分金が稼げなくなってしまうが、仕方ない。あの忌々しい後見人が無駄遣いした分はまだ補填できていないが、今はリリアンに寄り添う方が大事だ。
家にいる時間を増やしたがどうしても仕事に行かないといけない時もある。だが、そんな時に限ってリリアンは屋敷を抜け出してしまう。
本日も、仕事が終わって帰るとリリアンがいないと屋敷の者達が大騒ぎしていた。おそらく、また城で行われている夜会に紛れ込んだんだろう。
城で定期的に行われるパーティは昼の部がある。子どもも参加可能だ。あちこちに警備があり比較的安全だ。夜会に切り替わる時に子どもは帰されるが、リリアンは上手く隠れて夜会に紛れる。いなくなるのは俺がついていけない時だけだ。上手く侍女を撒いてしまい、真っ青になった侍女が報告に来る。報告を受けるとすぐに探しに行く。会場にいれば子どもは目立つので、保護して貰える。最初はすぐ保護されて連絡がきていた。だけど、最近は上手く隠れているのかなかなか見つからない。
それでも、いつもは夜会が始まる前に見つける事ができていた。だが、今日はどれだけ探しても見つからず、夜会が始まってしまった。一緒に探していたマリアナも、いつもの冷静な様子はなく焦っている。困っていると、城の使用人が俺に手紙を渡してきた。手紙を読むと、美しい字で端的に要件が書いてあった。
俺は急いで、指定された休憩室に行った。
「リリアン! 無事か?!」
「お兄様……ごめんなさい……」
「無事で良かった……!」
リリアンの隣には、美しい女性がいる。見た事のない女性だから、おそらく下位貴族のご令嬢だろう。胸に真新しいブローチが光っている。
ホッとした。婚約者がいる女性なら、面倒な事にはならないだろう。使用人が必ず控えている休憩室を指定された時点で親切な方だとは思ったが、リリアンが泣いていないところを見ると彼女は悪い方ではないのだろう。俺は、すぐに見知らぬご令嬢に御礼を言った。
「イアン・ル・ブロンテです。妹をお助け頂き、ありがとうございます」
「エリザベス・ド・バルタチャです。当然の事をしただけですわ」
バルタチャ家か……。確かあの家は、あまり評判が良くない。けど、彼女がリリアンの恩人である事には変わりない。俺は改めてエリザベス様に礼を言い、なにかお返しできる事はないかと伺った。だけどエリザベス様は、礼など要らないと仰った。
よくよく話を聞くと、婚約者の母親と夜会に来たが、先に帰るように指示されたらしい。なんだその身勝手な指示は。一緒に来たのに別れて帰るなら、最初から複数の馬車で来るものなのに。
エリザベス様は、帰る手段がないのではないか。そう思い問いかけると、帰りは辻馬車を捕まえるおつもりだと微笑まれた。可憐な令嬢がひとりで辻馬車は危ない。せめて帰りの馬車だけでも手配させて欲しいと頼むと、ではこれで貸し借りはなしでお願いしますと仰った。思慮深い方だ。俺が御礼をしたいと思う気持ちを汲んで下さったのだ。
俺はエリザベス様が乗る馬車の手配をマリアナに頼み、リリアンの様子を確認した。
「リリアン、どこも痛くないか?」
「大丈夫。お兄様はお忙しいのだから、放っておいて」
あんなに慕ってくれたのに、最近リリアンは冷たい。嫌われてしまっただろうか。どうしたらいいか分からずオロオロしていると、エリザベス様が優しくリリアンに声をかけて下さった。
「リリアン様。こんなに心配して下さる優しいお兄様がいらっしゃるのだから、ご自分を大事になさいませ」
エリザベス様の言葉に、俺とリリアンは固まった。
家にいる時間を増やしたがどうしても仕事に行かないといけない時もある。だが、そんな時に限ってリリアンは屋敷を抜け出してしまう。
本日も、仕事が終わって帰るとリリアンがいないと屋敷の者達が大騒ぎしていた。おそらく、また城で行われている夜会に紛れ込んだんだろう。
城で定期的に行われるパーティは昼の部がある。子どもも参加可能だ。あちこちに警備があり比較的安全だ。夜会に切り替わる時に子どもは帰されるが、リリアンは上手く隠れて夜会に紛れる。いなくなるのは俺がついていけない時だけだ。上手く侍女を撒いてしまい、真っ青になった侍女が報告に来る。報告を受けるとすぐに探しに行く。会場にいれば子どもは目立つので、保護して貰える。最初はすぐ保護されて連絡がきていた。だけど、最近は上手く隠れているのかなかなか見つからない。
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俺は急いで、指定された休憩室に行った。
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「お兄様……ごめんなさい……」
「無事で良かった……!」
リリアンの隣には、美しい女性がいる。見た事のない女性だから、おそらく下位貴族のご令嬢だろう。胸に真新しいブローチが光っている。
ホッとした。婚約者がいる女性なら、面倒な事にはならないだろう。使用人が必ず控えている休憩室を指定された時点で親切な方だとは思ったが、リリアンが泣いていないところを見ると彼女は悪い方ではないのだろう。俺は、すぐに見知らぬご令嬢に御礼を言った。
「イアン・ル・ブロンテです。妹をお助け頂き、ありがとうございます」
「エリザベス・ド・バルタチャです。当然の事をしただけですわ」
バルタチャ家か……。確かあの家は、あまり評判が良くない。けど、彼女がリリアンの恩人である事には変わりない。俺は改めてエリザベス様に礼を言い、なにかお返しできる事はないかと伺った。だけどエリザベス様は、礼など要らないと仰った。
よくよく話を聞くと、婚約者の母親と夜会に来たが、先に帰るように指示されたらしい。なんだその身勝手な指示は。一緒に来たのに別れて帰るなら、最初から複数の馬車で来るものなのに。
エリザベス様は、帰る手段がないのではないか。そう思い問いかけると、帰りは辻馬車を捕まえるおつもりだと微笑まれた。可憐な令嬢がひとりで辻馬車は危ない。せめて帰りの馬車だけでも手配させて欲しいと頼むと、ではこれで貸し借りはなしでお願いしますと仰った。思慮深い方だ。俺が御礼をしたいと思う気持ちを汲んで下さったのだ。
俺はエリザベス様が乗る馬車の手配をマリアナに頼み、リリアンの様子を確認した。
「リリアン、どこも痛くないか?」
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あんなに慕ってくれたのに、最近リリアンは冷たい。嫌われてしまっただろうか。どうしたらいいか分からずオロオロしていると、エリザベス様が優しくリリアンに声をかけて下さった。
「リリアン様。こんなに心配して下さる優しいお兄様がいらっしゃるのだから、ご自分を大事になさいませ」
エリザベス様の言葉に、俺とリリアンは固まった。
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