妹と婚約者の逢瀬を見てから一週間経ちました

編端みどり

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ルビーのブローチを渡すまで逃しません

16.リアムの奮闘 一日目

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「ポール、誕生日おめでとう!」

「ありがとう。姉さん、みんな」

ポール様は普段は冷静な伯爵様だが、エリザベス様の前では年相応の無邪気なお顔をなさる。本当に、この二人は仲が良い。イアンとリリアンも仲が良いが、また違った絆があるようだ。

エリザベス様とポール様の両親は、何故か真ん中の子であるドロシー様だけを可愛がっていたそうだからな。ドロシー様は、劇場で拝見した事があるが、確かに可愛らしい顔をなさっていた。でも、私はあまり彼女が好きになれない。自分の願いは叶って当然だと思っている貴族特有の偉そうな態度が気に入らないし、劇場で人目も憚らず口付けをするなんてみっともない。しかも相手は、姉の婚約者。はっきり言って、愚かとしか言えない。リンゼイ子爵家が関わっていると周りの噂で聞いてすぐ劇場を去ったが、あの日残っていたら面白いものが見れたのかもしれないな。エリザベス様は見事に婚約者を追い詰めたそうだ。目撃した友人が笑いながら教えてくれた。エリザベス様の儚げな様子が庇護欲を刺激したそうだが、イアンが惚れた女性に手を出すなんて自殺行為だからやめておくよ。そう言って震えていた。私も、そう思う。イアンのエリザベス様への執着心は筋金入りだからな。

僅か一週間で、ポール様は爵位を継いでエリザベス様を後見人にしてドロシー様をリンゼイ子爵家に押し付け、家族を追い出した。ポール様といいエリザベス様といい、見事としか言いようがない。イアンが自分より優秀だとポール様を褒めるのも分かる。

「ポール様、おめでとうございます!」

「おめでとう坊ちゃん!」

「伯爵になるなんてすげーっす!」

「本当にねぇ。ポール坊ちゃんは私達の誇りです」

カーラさんが、使用人を代表してポール様にお祝いを渡す。公式な場ではポール様のことを主人として敬う使用人の方達も、このような場では砕けた呼び方をする。

ポール様は幼い頃から領地の使用人が育てていたそうだから、みんな主人として敬いつつも自分の子どものように感じている部分もあるようだ。

「ありがとう。みんな。伯爵になったから、色々と面倒をかける事もあると思う。けど、みんななら任せられる。どうか、これからもよろしくお願いします」

そう言って頭を下げるポール様に、大きな拍手が贈られた。エリザベス様は涙ぐんでおり、イアンがそっとハンカチを渡していた。ポール様に贈り物を渡したカーラさんがエリザベス様の様子に気が付いて、フォローしようとしたがイアンを見てためらっている。

これは、仕事だ。

使用人の輪から外れ、悩んでいるカーラさんに声をかけた。

「イアンが付いているから、そっとしておきましょう」

「……あ、リアム様……分かりました!」

私の顔を見ると、嬉しそうに瞳を輝かせてくれた。……どっちだ。私はまだ好かれていると自惚れて良いのか?

それとも、もう……。

「カーラ、もうひとつのサプライズはいつやるんだ? お嬢様が落ち着かれてからの方が良いよな?」

こっそりとカーラさんに声をかけてきたのは、トムさんだった。彼はとても優しい良い人なのに、今は来ないで欲しかった。そう思ってしまった。

……くそ。コレが嫉妬か。予想以上に厄介な感情だな……

トムさんは私を慕ってくれているし、優秀な仕事仲間だ。嫌いでは無い。むしろ、好きだ。大事な仲間だ。それなのに……こんな気持ちになるなんて。

自分が物凄く矮小な人間になってしまった気がする。私は、この領地をまとめる代官なのに。

そんな私の気持ちを知らないカーラさんとトムさんは、仲良さそうに話を続けている。

「そうね。今からお食事を運ぶからその後にしましょう。イアン様がいらっしゃるから、お嬢様もすぐに笑顔に戻られるわ」

「そうだな。じゃあオレは準備を進めておくぞ。リアム様、失礼します」

トムさんは私に丁寧に頭を下げて行ってしまった。彼の態度に違和感を覚えたが、理由は分からない。

「それじゃあ、私も行きます。リアム様はパーティを楽しんで下さいね」

「ありがとう。カーラさん」

名前を呼ぶと、嬉しそうに微笑んでくれた。
イアンがエリザベス様の顔を見るだけで幸せになると言っていたが、その気持ちが分かった。

分かったのだが……どうやってアプローチしたら良いのか、さっぱり分からない。
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