だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第五章・帝国の王女

506.Main Story:Ameless

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「あれ、でも……攻撃は当たらないんじゃあ」

 先程のシュヴァルツの説明では、妖精は奇跡を起こし続けるから一切攻撃が当たらないとの事だったが……一体どうやって凍結させろというのか。

「いくら妖精と言えども、全てを奇跡的に回避する事なんざ不可能だ。だから、一度に回避しきれない程の攻撃を行い、そちらに奇跡力を使わせる事で隙を作る。ありふれた戦略だが、妖精共への有効打はこれしかないんだよなァ」
「つまり総力戦ってこと?」
「そうだな。少しでも奇跡が分散された方が、成功する確率は高くなるだろォさ」

 そう言うやいなや、シュヴァルツは私の手を放した。そして片手をズボンのポケットに突っ込んだまま、彼はぽぽんっと魔法を使う。
 地面に浮かぶ緑色の魔法陣からツタのようなものが伸び、穢妖精けがれの触手とジェジの隙間を縫って入り込んではそこに隙間を作り、ジェジの体が滑り落ちる。
 触手から解放されたジェジは脱兎の如くその場から離脱し、涙目でシャルに飛びついた。

「よし……イリオーデ、お前の馬鹿げた出力の風魔法で穢妖精けがれを一箇所に集めてこい。その方がアミレスも凍結させやすいだろ」
「それは構わないが、その間お前は何をするんだ」
「何ってそりゃァ……応援?」
「は?」
「おい睨むなオレサマとて好きで何もしないワケじゃねェから」

 イリオーデの真っ直ぐな侮蔑の視線に、シュヴァルツは眉を顰めてため息を零す。

「制約の影響で魔族オレサマは妖精に手ェ出せないんだよ。さっきのちょっとした干渉が限界だから、オレサマは何も出来ないってワケ。その代わり、アミレスに魔力を分けたりとかそういったサポートはするつもりだ」
「……ふん、ならばいい」

 興味無さげに呟くとイリオーデは地面を蹴って広場じゅうを駆け回り、散り散りになっていた穢妖精けがれを色んな方向から風魔法を使って一箇所に追いやっていった。
 その威力が相変わらず凄まじく、奇跡力を駆使していると思しき穢妖精けがれを石畳諸共ふっ飛ばしていく。
 その余波がこちらにまで来るので、暫く髪とドレスを押さえ続けていた。

「お待たせしました、王女殿下。ディオ達に例の作戦を共有しておきましたので、今すぐにでも総力戦を決行出来ます」

 やだ! なんて有能なのうちの騎士!
 青い長髪と団服のマントが、彼の放った風の残滓に弄ばれふわりと踊る。長剣ロングソードを鞘に納めながら悠然と歩く姿は、まさに物語の英雄のようであった。
 そんな彼を褒めちぎろうとしたのだが、

「──遅れてしまい申し訳ございません、主君。各部統括責任者殿が中々見つからず、時間がかかってしまいました」
「ルティ!」

 ここで随分とタイミング良くアルベルトが合流する。
 影から出たばかりの彼に早速現状を説明して、協力を得る事にした。
 イリオーデによって広場の中心に山のように積み重ねられた大量の穢妖精けがれを見て、流石のアルベルトもドン引きだったが、彼はあっという間に気持ちを切り替えたようで。

「かしこまりました。では、遅れてしまったぶんを取り返すべく先陣を切りましょう」

 そう言って歩きだしたアルベルトを、すれ違いざまにイリオーデが睨んでいた。その不満げな様子から、きっと活躍の場を奪われたような気分なのだろう。

「……イリオーデもありがとう。お陰で作戦を進めやすくなったわ。この後も頑張ってくれる?」
「っ、はい! 無論、死力を尽くさせていただきます」

 イリオーデは気を取り直して踵を返し、アルベルトの背を追いかけた。
 やがて横に並んだ彼等は軽く会話を重ね、攻撃に出る。
 アルベルトは影で作った弓を構え、同じく闇を織り重ねたような無数の矢を放つ。それと同時に、穢妖精けがれ目掛けて放たれるイリオーデの風の刃。
 総力戦が始まったと悟った私兵団の面々も、次々渾身の魔法を穢妖精けがれに向けて発動する。

「さァ、アミレス。オレサマの魔力も貸してやるから、お前もぶちかましてやれ」

 ニヤリと笑いながら彼は私の手を握った。
 そこから、じわじわと魔力が流れてくるのが分かる。

「分かったわ」

 軽く頷き深呼吸する。
 皆が穢妖精けがれから離れてくれているから、魔法に巻き込まなくて済みそうだ。……魔法というか、魔法未満のただの現象なんだけどね。

「皆! 巻き添えを食らわないようにもう少し離れてて!!」

 念には念をと、魔法を使う前に忠告する。
 すると彼等は何歩か後退り、穢妖精けがれから更に距離を取ってくれた。だが細心の注意をはらいつつ、魔力を放出する。
 雨のように降り注ぐ攻撃の数々を平然と受け流す穢妖精けがれの山を覆うように、水の魔力を浸透させ……

「──絶対零度!」

 一気にその温度を下げる! とは言いつつも、実際は絶対零度まで下げている訳ではない。私が弄れる水温なんてせいぜい氷点下五十度とかが関の山。しかしそれでも、規模が規模なだけに消費する魔力は凄まじい。
 前回は魔導兵器アーティファクトを覆う程度でよかったから、特に負担はなかったのだが……今回は正気度を削られそうな穢妖精けがれの山ときた。
 シュヴァルツが魔力を貸してくれていなければ、魔力を半分以上ごっそりと持っていかれていたことだろう。

「ふぅ……これでとりあえずはどうにかなったかな?」
「いやァ~~、マジでとんでもないなその魔法。あのクソ妖精共が即死じゃねェか」

 鋭く口角を釣り上げ、シュヴァルツは興奮したように話す。
 どうやら絶対零度により穢妖精けがれは即死したらしい。その名に相応しい一撃必殺の技ね。

「でもあの死体の山、どうする? すっごく邪魔だけど」

 あのような名状しがたき何かをオブジェとして残す訳にはいかないわ。

「……砕くしかないだろうな」
「嘘でしょ?」
「残念ながら本気で~す。粉々に砕いてそこらの下水にでも流しとけばなんとかなるだろ」

 揃って遠い目になる。
 その後、私達は剣や魔法で氷山と化した穢妖精けがれの骸を粉砕し、その作業は日没を通り越して日付が変わる寸前まで続いた。
 ある程度砕かれた何かを木箱に詰め込み、ディオ達が手分けして運んで下水に投入。
 全ての作業が終わると全員クタクタ。その日はもう家事なんてしたくないと皆が嘆いていたので、夜遅くまでやってる酒場に皆で行って、私兵団の面々にご馳走したとも。

 お酒の力でどんちゃん騒ぎとなった酒場の一角にて。そこで夕食を済ませつつ、これから先の事を考える。
 西部地区の復興作業もしないといけないし、この件の報告書も書かないと。親善の為の食事会をドタキャンした事についての申し開きもしなきゃ。

 はぁ……やることが多い────!!
 ミシェルちゃんに会う日が更に遠のいたと、私は一人深く肩を落としていた。
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