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「わたくしは稀有な妖精姫の血を引いていますの。この血を使って……ほら、この通りですわ」
粗末な扇を腕に引けばピッと蚯蚓脹れが走る。じんわりと滲んだ血は瞬くまに小さなルビーとなった。
「これがなにかお分かりですか?」
そう言って小さなルビーをカインハルトへと放り投げるとカインハルトは大袈裟なまでに飛び跳ねた。腕で庇うような仕草をしたが爆弾でもあるまいし、そんなに怯えなくてもいいと思う。
隣にいた近衛騎士がぱっとそれを掴む。カインハルトが犬のようにキャンキャンと吠えた。
「無礼だろう!!誰かこの女を不敬罪でひっ捕らえ」
「本物のルビーです。純正ですわよ」
「ああ!?」
もはや王子というのもおこがましい粗忽者へと身を落としたカインハルトが怒鳴る。私は扇で顔を仰ぎながら答えた。
「近年、我が国ではルビーの数が減少していますわね」
「な………また突然なんの話を」
「他国へ出荷している宝石は全てわたくしから生まれたもの。ついでにいえば王家もまた、公爵家へと莫大な借金をしている。…………お分かりかしら?」
「そんな戯言、」
「戯言だと仰るのならよほどの根拠があるんですわよね?殿下はこの国の関税が引き上げられた原因ももちろんご存知ですわよね。王太子殿下なのですから!」
「なっ……………こ、この女をひっ捕らえろ!!王族への冒涜行為だ!今すぐ殺せ!見せしめに首を落とせ!」
「まあ野蛮ですこと。まあいいわ。これだけ言いたかったの。ねぇ、カインハルト殿下ーーー」
私は扇を再度広げてまるで蝶を掴むようにその端を持った。そして指先でつまんだままーーーそれをまたカインハルトへとぶん投げる。
「わたくしが悪夢へとご招待させてあげますわ!!」
永遠のね!
カインハルトへと弧を描きながら扇が舞う。近衛がそれを取ろうとしたところでーーー扇が光る。金の粉が舞い、砂煙が上がる。
あの扇には元々仕掛けをしていたのだ。妖精姫の血はただ、自分の血や涙を宝石にするだけではない。簡単な魔術から禁忌とされている魔術まで、好きなように使いこなせるわけだ。
(以前は使えなかったけど、一度死んだら使えるようになった………)
もしかしてこれは、一度死んだせい?
湧き上がるどうしようもない怒りと復讐心によって使えるようになったのかもしれない。爆発的な感情が、コントロールの効かない想いが魔術回路をこじ開けたのかも。
そんな事を思いながら、ツィ、と指先で線を引く。砂煙で視界が効かない広間はてんやわんやだった。
だけどやがてその騒ぎも静かになり、誰ひとり話す者はいなくなる。
ーーー魔術が効いたのだ。
魔術に仕込んだのは「悪夢の術」。
粗末な扇を腕に引けばピッと蚯蚓脹れが走る。じんわりと滲んだ血は瞬くまに小さなルビーとなった。
「これがなにかお分かりですか?」
そう言って小さなルビーをカインハルトへと放り投げるとカインハルトは大袈裟なまでに飛び跳ねた。腕で庇うような仕草をしたが爆弾でもあるまいし、そんなに怯えなくてもいいと思う。
隣にいた近衛騎士がぱっとそれを掴む。カインハルトが犬のようにキャンキャンと吠えた。
「無礼だろう!!誰かこの女を不敬罪でひっ捕らえ」
「本物のルビーです。純正ですわよ」
「ああ!?」
もはや王子というのもおこがましい粗忽者へと身を落としたカインハルトが怒鳴る。私は扇で顔を仰ぎながら答えた。
「近年、我が国ではルビーの数が減少していますわね」
「な………また突然なんの話を」
「他国へ出荷している宝石は全てわたくしから生まれたもの。ついでにいえば王家もまた、公爵家へと莫大な借金をしている。…………お分かりかしら?」
「そんな戯言、」
「戯言だと仰るのならよほどの根拠があるんですわよね?殿下はこの国の関税が引き上げられた原因ももちろんご存知ですわよね。王太子殿下なのですから!」
「なっ……………こ、この女をひっ捕らえろ!!王族への冒涜行為だ!今すぐ殺せ!見せしめに首を落とせ!」
「まあ野蛮ですこと。まあいいわ。これだけ言いたかったの。ねぇ、カインハルト殿下ーーー」
私は扇を再度広げてまるで蝶を掴むようにその端を持った。そして指先でつまんだままーーーそれをまたカインハルトへとぶん投げる。
「わたくしが悪夢へとご招待させてあげますわ!!」
永遠のね!
カインハルトへと弧を描きながら扇が舞う。近衛がそれを取ろうとしたところでーーー扇が光る。金の粉が舞い、砂煙が上がる。
あの扇には元々仕掛けをしていたのだ。妖精姫の血はただ、自分の血や涙を宝石にするだけではない。簡単な魔術から禁忌とされている魔術まで、好きなように使いこなせるわけだ。
(以前は使えなかったけど、一度死んだら使えるようになった………)
もしかしてこれは、一度死んだせい?
湧き上がるどうしようもない怒りと復讐心によって使えるようになったのかもしれない。爆発的な感情が、コントロールの効かない想いが魔術回路をこじ開けたのかも。
そんな事を思いながら、ツィ、と指先で線を引く。砂煙で視界が効かない広間はてんやわんやだった。
だけどやがてその騒ぎも静かになり、誰ひとり話す者はいなくなる。
ーーー魔術が効いたのだ。
魔術に仕込んだのは「悪夢の術」。
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