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エリザベス嬢の突撃 3
しおりを挟む「ですが婚約となりますとわたくしの一存ではなんとも………」
「分かっております。ですからこのあと公爵閣下におあいする予定ですの。親書もございますのよ。国王陛下からお預かり致しましたの」
逃げ道がない…………!!
私は引きつった笑みを浮かべそうになりながらも断りの文句を探した。だけど一貴族である私と、現国王陛下の姪であるエリザベス嬢。結果など見えているものである。
「ですが………わたくしはこのとおり体が弱く、健康な子を産めるかがわかりません」
「それは存じ上げています。お体が弱いリーデハルト様にこのような重責を背負わせること、申し訳なく思います。ですが………どうかこの国のためにも、お考えくださりませんか?」
しゅんとしたエリザベス嬢になぜか罪悪感が刺激される。私は何もしていないはずなのになぜこうも申し訳ない気持ちになってくるのかしら………!?つい「何でもやります!」と言いたくなってくるが、しかしそれだけは出来ない。ユーリアス殿下の妻。それはこの国の王太子妃であることを指している。私が王太子妃………?考えただけでくらくらしてくる。
私が押し黙っていると、さらにエリザベス嬢は悲しげにまつ毛をふせた。見た目がとても整っている美女なだけに、そういう仕草をされるととても弱い。まるで女性慣れしていない男性の考えそうなことだとわれながら思ったが、しかし思ったところでどうしようもない。とりあえず今できることはこの場をどう収めるべきか言葉を探すだけだ。
「リーデハルト様はユーリアス殿下がお嫌いですか?」
「そんなことはございませんわ」
「いいのです。大事なのはリーデハルト様のお気持ちですから………。ユーリアス殿下が嫌いで生理的に受け付けない、結婚するくらいなら出死んだ方がマシだと、そう仰るのなら残念ですが今回の件は…………」
「思ってません!!そ、そんな大それたこと思っていませんから!私なんかがおこがましいくらいですわ!」
エリザベス嬢のあまりのいいようについ口を挟んでしまうと、彼女はニッコリと笑った。
あ、もしかして今のって。
「良かった!リーデハルト様は殿下がお嫌いではないのですね!むしろとてもよく思ってくださっている。これは…………婚約しても上手くいくと思いますの!」
嵌められたかもしれない………。
これが、昨日の話である。
そしてエリザベス嬢は帰っていった。どっと疲れたが、しかし親が決めてしまえば私に意義など唱えられるはずがない。両親に婚約話がいったらどう留めるか。そんなことを考えていたが、しかし公爵家として生まれた以上自分の役目を果たすべきかとも思った。貴族の令嬢に1番求められるのは婚姻だ。縁を結びたい相手の家に嫁入りし、縁を繋ぐ。貴族令嬢のいちばんの仕事と言ってもいい。時々マナーのなっていない紳士に「女はいいよな、嫁に行くだけでいいんだから。楽な仕事だ」と言われることがある。だけど結婚イコール人生の墓場だと個人的には思っている。残りの人生…………私は16だから、あと50年ほどかしら。それを共にする相手が勝手に決められてしまうのは結構苦しい思うの。相性もあるだろうし、何より人間性が最悪だったらどうしようもないわ。血も涙もない冷血漢だったり女を道具としか思わない方だったり。そんな方に嫁入りするのは私だったら絶対嫌だ。だけどそれにいややを唱えられないのが貴族社会。
今まで自由にさせてもらっていたのだから、いい加減私も貴族令嬢としての責任を果たさなければいけないかしら………。
そう思いつつ自室に帰りとりあえず寝不足だった私はベッドに潜った。次に目が覚めたのは夕暮れ時で、侍女に起こされた。
聞けば、両親が私を呼んでいると言う。ついに来たか。という気持ちと思った以上に早かったなという思いが巡る中、執務室に向かうとーーー
「王家から直々に婚約の打診が来た。お前にだ。リーデハルト」
やっぱり………。
苦々しい気持ちで両親を見る。青い草でも噛んでいるような気分でお父様を見ると、しかしお父様は難しい顔をしているのみ。組んだ手を机に乗せ、さらにその上に顔を乗せているお父様は重いため息をついた。
「まず、私としては断った方がいいと思う」
「えっ?」
「ユーリアス殿下はお前をお望みだと言うが、お前が王太子妃には………。少し、向いてないと思う」
お父様はとても言葉を選ばれたが、しかしその言葉の向かう先はひとつだった。堕落しきった娘に王太子妃なんて無理だ。つまりはそういうこと。衝撃で頭が真っ白になった。散々甘やかされてきたとはいえ、それくらいはできると言いたかった。
「出来ますわ!私にだって、貴族の娘としての責務くらい果たせます!そこまで不器量ではありませんわ!」
「しかしリーデハルト………」
「お父様はこの縁談をとてもいいものだと思ってらっしゃるのでしょう?わたくしもそう思います!ですから私は………王家に嫁ぎますわ!」
言ってから、あら?私は一体何を、と気がついた。最初は断るつもりだったのになぜこんなことに………。お父様にそこまで不甲斐ない娘ではないと言いたいがためにこんな発言をしてしまった気がする。だけど今さら言葉を覆せない。自分で言ったくせに自分の発言に狼狽えていると、お父様は長い溜息を吐いた。
「…………ユーリアス殿下のこともある。一旦、この話は保留にしよう」
「お父様…………」
「リーデハルト。私は父として、お前には愛のある結婚をして欲しいと思っている。ユーリアス殿下は少し………よくないと思うんだ」
「ユーリアス殿下に何が悪い噂が………?」
「いや…………」
お父様は迷う素振りをしてから、ややあって話し出した。
「婚約の話が出た以上、お前も知っておくべきかもしれんな。………ユーリアス殿下は………んん、極度の女性嫌いという噂がある」
「じょ、女性嫌い………ですか?」
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