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第二章
久しぶりの再会
しおりを挟む「久しぶりだね、リリア」
「お久しぶりですね、レスト様」
レスト様との対談は雨が降りそうな天気の中行われた。朝は晴れ渡っていたのに、お昼になるにつれどんよりと曇ってきたのだ。
スレラン家のご当主様とお父様は、別室にてお話されるらしい。私とレスト様は客間で互いの距離を詰めるようお父様に指示されている。距離を詰めるも何も、アホシュア様よりよっぽどレスト様の方にいい感情を持っていると言うのに。アホシュア様と比べたらレスト様に申し訳ないくらいに。
レスト様がカップをソーサーに置く音が静かに響く。
「今日はごめんね。多分、俺のせいだろうから」
「あ……天気のことでしょうか?」
「そう。朝は晴れていたけど、もう雨が降りそうだろ?多分俺のせいだ。そのせいで庭園も回れなくなってしまったし」
「そんな……お気になさらないでください」
レスト様は【雨】を司る家のものだからか、彼がどこかに出かけようとすると高確率で雨が降るのだ。驚異的な雨男。スレラン家でも一番【雨】の力が強く出てしまったレスト様は、出かける度に雨が降り、豪雨になり、帰れなくなることもしばしばなのであまり外に出ることをしたがらない。
今日は王城に呼び出されて婚約の場を改めて整える運びになったが、王族からの呼び出しであったためレスト様も断ることは出来なかったのだろう。
「ホシュアとのこと、残念だったといえばいいのか、良かったと言うべきか?」
レスト様がやや迷うようにしながら言う。
「良かったでいいのです!ようやく私、あの人から解放されましたもの」
「そう。……なら良かった」
「はい!」
レスト様は、私がアホシュア様に散々意地悪をされ、暴虐を尽くされてきたことを知っている。何より、私がアホシュア様に髪を切られた時に髪を魔法で何とかしてくれたのはレスト様なのだ。
髪を長くする魔法はいわゆる【無魔法】と呼ばれる属性に分類されるのだが、これがなかなか難しい。難易度が高い魔法なのだ。
それが出来なくてしくしく庭の隅で泣いていた私に声をかけてくれたのがレスト様だった。
「それで、リリア。俺たちの婚約のことだけど」
「はい。………レスト様と、婚約になるのですよね」
今まではアホシュア様との婚約破棄が一番の目標だったせいで、実感が伴わなかった。だけど今になってじりじりと実感が湧く。
(そう……。私、レスト様と婚約するのね)
「俺にとっても、いい話だったんだ。リリアも知ってると思うけれど、俺とケイトの仲は壊滅的だった。彼女は奔放だし、俺の話を全く聞かない。時々、強制される茶会はなにかの罰かと思うほどだったよ」
そ、そんなに酷かったのね………。
レスト様とケイト様の仲は冷戦もかくやというほど冷え切ってるとは聞いたけれど、ここまでとは。レスト様の瞳に嫌悪する色が映る。
レスト様とケイト様は、ケイト様が生まれてすぐ婚約を結んだという。それからずっとの付き合いになると思うけれどどうやら心底さめきっているようだ。
「だから、不謹慎だけど嬉しいんだよ。リリアと婚約を結べることが」
「レスト様………」
「いや、不謹慎じゃないかな。ケイトは自分の意思でホシュアとの仲を選んだわけだし、ホシュアもリスクを知っての上で関係を結んだわけだから。彼らの望むようになったわけだ」
望んでいたわけじゃないと思うけれど……。あ、でもホシュア様は喜んでたわ。ケイト様はどうなのかしら。
「ずっと、心配だったんだ。ホシュアはいつまでたっても変わらない。きみに対する態度も。だから、本当に良かった」
「良かった………?」
「リリアと婚約を結べて、だよ。………絶対大切にする」
「……!」
レスト様の真っ直ぐな言葉が胸に響く。大切にする、なんて初めて言われた。言葉に迷う私に、レスト様が笑みを浮かべる。
「次は、リリアがレスラン家に来てくれ。そうすればきっと晴れるから。その日は庭園を回ろう。母上が花が好きな人でね。うちの庭園はちょっとした作品のようになってるんだ」
「そ、そうですね………。以前、お聞きした覚えがあります」
アホシュアに髪を切られてさめざめ庭園の隅で泣いていた私に、声をかけてくれたのはレスト様だ。その日は五貴族揃っての顔合わせがあって、レスト様も来ていたのだった。
庭園の隅で泣く私を気にかけてくれた彼は、魔法で髪を直してくれたあとに自分の庭園の話をしてくれた。
『きっとリリアも好きになるよ』
優しい声で言われて、髪が元通り元に戻って、私は酷く励まされたのを覚えている。
「………ありがとうございます。レスト様。これから、よろしくお願いします」
髪を切られた時のことも含めて、お礼を言う。頭を下げると、レスト様には「こちらこそ」と言われた。私の最悪な婚約の日々は終わりを告げたようだ。
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