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31話 皇室の宴

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 ユミエル様の婚約の宴は、盛大に行われる。
 全ての貴族に招待状が出され、煌びやかな音楽、豪華な食事、素晴らしい内装――まるで夢のような世界が開かれる。
 この優雅な宴こそが、社交界特有な煌びやか世界を示すものの大きな一つ。

「お姉様、お待たせしました」

 ピンクの髪色に合わせたドレスに、長い髪を綺麗にまとめ、派手過ぎないお洒落なアクセサリーを身に付けたアンシア様は、元の可愛さも相まって、可憐な妖精が舞い降りたよう。

 可愛過ぎる……! アンシア様が元気でおられた時は、社交界に参加する度にダンスのお誘いが長蛇の列を成したと聞きましたが、納得の可愛さです!

 車椅子に乗ってはいるが、その可愛さは一つも損なわれていないと感じた。

「どうですかお姉様。私、似合ってますか?」

「とてもよくお似合いですよ」

「えへ。お姉様に褒められたら嬉しいな」

 何この可愛い生き物。

「アンシア、支度は終わりましたか」

 次いで、コリー様、フォルク様も、普段とは違い、正装した格好で現れた。

「こうして全員が揃って参加するのは珍しいですね」

「それは私の所為じゃなくて兄さんの所為だから! 兄さん、私が病気になる前からあんまり社交界に参加してなかったんだから!」

「す、すまない」

 何この見目麗しい兄弟、妹……同じ人間とは思えないくらい、全てが出来上がってる!

「ユミエル様の宴が開かれる場所までは馬車で数分です。ソウカさんはアンシアと同じ馬車に――」

「いいえ! 私、コリー兄さんと一緒の馬車に乗ります! だからお姉様は、兄さんと一緒の馬車に乗って下さい!」

「え?」

「私、最近調子が良いですし、さっき薬を飲んだところだし、全然大丈夫! それよりも、兄さんにはお姉様をきちんと守ってもらわないといけないから、私じゃなくて兄さんとずっと一緒にいて!」

「ま、まだ着いてもいないのにですか?」

 気が早過ぎるような……! それに、私、今日はアンシア様の薬師として宴に付き添うのに、当の本人であるアンシア様に付き添わなかったら意味がないのでは?

 何故か張り切って馬車の席替えを提案するアンシア様に、その後ろで頭を抱えるコリー様。そして私と同じように意味が分かっていないフォルク様。

「はぁ、アンシアは僕がみておくので、ソウカさんは兄さんと一緒に行って下さい」

「えっと」

「目的地までは数分ですし、何かあったら知らせるので大丈夫です。それよりも、妹と二人っきりで少し話をさせて下さい」

 な、何があったんですか?
 そのまま有無を言わさずコリー様に連行されるアンシア様。

「……よく分からないが、私達も行こうか」

「はい」

 二人に遅れ、私とフォルク様も、別の馬車に乗り込んだ。


 馬車を走らせること数分、到着した目的地を見て、私は息を飲んだ。

「あの……ここってもしかして……」
「皇宮だね」

(やっぱり――!)

「あの、ユミエル様ってもしかして……」

「皇帝陛下の娘、つまり皇女様だ」

 アンシア様のご友人ってまさかの皇女様だったんですね!? そりゃあ宴も盛大なハズです!
 皇女の婚約を祝う大きな宴会場には、ユミエル様の婚約を祝うために集まった目を見張るような人の多さと、煌びやかな世界が広がっていた。

(沢山の貴族が参加していると覚悟はしていましたが、これは圧巻です)

「アンシア様、私は傍で控えていますので、体調に異変を感じたらすぐに伝えて下さいね」

「……はぁい」

 先程までと違い、落ち込んだ様子で頷くアンシア様。馬車の中でコリー様に何か言われたのでしょうか? でも、またフォルク様と一緒にいてと言われなくて良かった。私の今日の役目は、アンシア様を見守ることですから。

 アンシア様の車椅子を押し、宴会場に入ると、すぐに一人の女性が、アンシア様に駆け寄った。

「アンシア!」
「ユミエル!」

 熱く抱擁を変わす二人。

「アンシア、良かった! 元気な姿が見れて嬉しい!」

「うん……心配かけてごめんね、ユミエル」

 アンシア様は、兄達だけでなく、友人に対しても、病気になってから素っ気ない態度を取っていて、お見舞いの申し出を断り、手紙の返信もしなかったと聞いた。でも、そんなアンシア様に最後まで離れず、ずっと手紙を送り続けてきてくれたのが、ユミエル様らしい。

「婚約おめでとう、相手はあの幼馴染でしょう? ずっと好きだったのものね」

「うん、そうなの。お父様がやっと彼を認めてくれて」

 この国の皇女であるユミエル様の婚約相手は、彼女の幼馴染である伯爵令息で、互いを愛し合う恋愛結婚だった。

「そっか、おめでとうユミエル!」

「ありがとう」

(アンシア様がこうしてまたお友達と会えて、仲良くお話がすることが出来て良かった)

「貴女がアンシアの薬師ね?」

 皇女様は、アンシア様の傍にいる私に気付くと、笑顔で声をかけた。

「は、はい。薬師のソウカと申します」

「アンシアやセントラル侯爵から話は聞いてるわ。アンシアを元気にしてくれてありがとう」

「そんな……もったいないお言葉です」

「お姉様は本当に素晴らしい薬師なんだから!」

「ふふ、アンシアは本当にソウカさんがお好きなのね。ソウカさん、これからもアンシアをよろしくお願いしますね」

「はい、勿論です」

 そのまま暫くの間、二人は会えなかった時間を補うように、会話に花を咲かせた。


「――大丈夫ですか、アンシア様?」

「……ううん、ちょっとしんどくなってきたかも」

 いつもとは違う環境下にいるのだから、いつもより調子が悪くなるのが早くても仕方が無い。

「少しテラスで休憩しましょう、後でお水を持ってきます」

「うん、ありがとうお姉様」

 人の溢れる宴会場を避けるために、アンシアを乗せた車椅子を操作し、テラスに向かう。

(……あ)

 その途中、沢山のご令嬢に囲まれているフォルク様の姿が目に入った。

 やっぱり、人気ですよね。セントラル侯爵家の当主で格好良くて優しくて強くて、更には優秀な薬師で……これでモテない方がおかしい。

「兄さん、普段社交界に中々参加しないから、ここぞとばかりに群がられてるのよ。コリー兄さんみたいに上手くあしらえばいいのに」

 貴族間では愛の無い政略結婚や、親同士が決めた結婚も多いが、社交界で知り合い、恋に落ちる恋愛結婚も存在し、貴族令息や令嬢は、自分に似合った結婚相手を探す目的で社交界に参加することも多い。その中でフォルク様は超優良物件とされ、貴族令嬢達の注目の的だった。

「兄さんにはお姉様を守るって使命があるのに、ちゃんと分かってるのかな!」

「ご令嬢の方々を無下にすることも出来ませんし、仕方ありませんよ」

 女性の中心で、私が知らない笑顔で会話をしているフォルク様。

「昔から兄さん目当てに私にすり寄ってくる人達もいたし、ほんっと迷惑だった」

 そう言えば、最初にアンシア様にお会いした時、兄目当てとか言われましたっけ。それはそういった方々が実際にいたからなんですね。
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