夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子

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28話 セントラル侯爵家の集い

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 薬の効果か、アンシア様の容態はとても安定していて、まだ歩くことは覚束ないが、車椅子でなら、ある程度の時間動くことが出来るようになった。

「どうだアンシア、特製の車椅子を用意したんだが」

「凄っ! 何この車椅子! こんなのあるの!?」

(無いです、普通は)

 アンシア様が歓喜されている車椅子は、フォルク様がアンシア様のために用意した特注の車椅子で、魔道具を組み込み、手元のレバーで動く事が出来る優れもの。
 フォルク様がアンシア様のために考案し、作成したものでしょう。

「まぁ便利ね。兄さんにしては、良い物を用意したじゃない」

「上からだな」

「アンシア、兄さんにちゃんとお礼を言わないと駄目ですよ」

「うるさいな! 私は別に頼んでないし!」

 コリー様に対しても冷たく返事をするアンシア様。
 アンシア様、本当はお兄様達の事が大好きなのに、どうしてそんな態度を取ってしまうのでしょう。反抗期というやつでしょうか?

「アンシア様、感謝を伝えるのは大切ですよ」

「ありがとう兄さん、すっごい感謝してる」

「……どういたしまして」

 素早い変わり身で感謝を伝えるアンシア様を、フォルク様は呆れたように受け入れた。

 本日はアンシア様の車椅子のお披露目を兼ねて、広いセントラル侯爵家の庭、研究所がある方とは違い、お茶が楽しめる素敵なテーブルや椅子が用意されている庭で、兄弟、妹が揃って、家族の時間を過ごされていた。

(そこに私がいるのが完全に違和感でしかないけど……!)

 テーブルに用意されたカップの数は四つ。
 美味しい紅茶を頂きつつ、見目美しい兄弟妹に囲まれ、居心地の悪さが半端ない!

「そう言えば、アンシアにお手紙が沢山来ていましたよ」

「ほんと? 誰からだろう」

 コリー様はそう言うと、テーブルの上にアンシア様宛の手紙の束を置いた。

「ふーん、皆、私がちょっと元気になったからって手紙を送ってきちゃって、馬鹿みたい」

「アンシア」

「だって本当だもの。ほら、この人なんて、私が元気な時は何度もデートに誘って来てたのに、病気になった途端、連絡も寄越さなかった人だし、こちらのご令嬢は、私と仲良くなりたいって言ってたのに、どうせ死ぬなら仲良くなっても無駄だって言った子よ」

「酷い……」

 病で苦しむ人に、どうしてそんな心無いことを言えるのだろう。

「大丈夫ですよお姉様! 私は何も気にしていないから」

 傷つかないはずがないのに、気丈に振る舞うアンシア様のことを、強い人だと思う。

「こんな虫以下の価値しか無い方々に何と思われようと、痛くも痒くもありません」

 ……あれ? まさか本当に傷ついて無いんですか?

「それらの手紙はさておき、アンシア、ユミエル様からも手紙がきていましたよ」

「ユミエルから!? どれ!?」

 コリー様が手紙の束の中から一枚の手紙を抜き取ると、アンシア様は急いで手紙の中身を見た。

「わぁ。ユミエル、婚約するのね!」

 嬉しそう……ユミエル様は、アンシア様の大切なご友人なんですね。

「婚約を祝う宴を開くそうですので、セントラル侯爵家を代表して僕が出席してきますね」

「コリー様が出席されるのですか?」

「はい。兄さんはこういった催しには殆ど出席しませんから」

「人の目に晒されるのは苦手だから、弟に甘えさせてもらってるんだ」

 本当に必要な催し以外、フォルク様は社交界にあまり顔を出さないと聞いたことがありますが、忙しさに合わせて苦手だからと言うのも理由なんですね。
 でも、セントラル候爵家の代表と言うのに、当主が出席しないのは良いのでしょうか?

「ユミエル様の家とは長い付き合いで、兄さんの性質を理解して下さっているので、心配しなくても大丈夫ですよ」

 それなら一安心ですね。

「……いいなぁ、私も、ユミエルをお祝いしてあげたいなぁ」

 口から自然と出てしまったように、ポツリと呟くアンシア様の囁き。

「アンシア様……」

「あ、勿論、私はいつ体調を崩すかも分からないし、車椅子だし、出席出来ないのは分かってるよ! だからコリー兄さん、私の分も、ちゃんとユミエルをお祝いしてきてよね!」

 なんてことないように笑顔を浮かべるアンシア様。

(お友達の婚約、直接お祝いしてあげたいですよね)

 自分の病気を理解し、普通なら出来ることを諦めているアンシア様の姿は、とても悲しくて――諦めさせたくないと、そう思った。

「……アンシア様、行きましょう!」

「え?」

 魔力病だからって全てを諦める必要なんてない! 私は薬師なんだから、アンシア様を傍で支えればいいのよ!

「今はアンシア様の容態も安定されていますし、もし体調が悪くなることがあっても、私が治療します」

「それって……お姉様が、一緒に行ってくれるってこと?」

「はい」

 ずっと寝たきりで、友人にも会えていなかったのだから、久しぶりに会って、お祝いを伝えたいと思うのは、当然のことです。
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