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27話 しっかり者の弟
しおりを挟むアンシア様の診察が終わり、今日はフォルク様が私に薬学について教えてくれる約束の日なので、意気揚々と庭に向かう。
あのフォルク様から直接教えを受けるなんて、なんて贅沢! 大切なお時間を奪ってしまっているのは申し訳ないけど、嬉しい。魔法は上達しない心苦しさもあって申し訳なさが強いけど、薬学は嬉しさがどうしても勝ってしまう。
「ソウカさん」
「コリー様」
庭に差し掛かり、研究所に向かう途中で、コリー様に呼び止められた。
「ソウカさん、申し訳ありません。兄が仕事の関係で少し遅れてしまうようなので、少し待っていて欲しいと伝言を受けました」
「そうなんですね、お伝え下さってありがとうございますコリー様」
フォルク様が薬師として活動されている時は、コリー様がフォルク様に代わって領主の責務やセントラル侯爵家の事業を色々と手伝っているようだが、普段コリー様は、本来、貴族夫人がすべき家の管理を任されていた。
結婚しておらず、夫人がいない貴族家では、その妹や母親など、一緒に住まう女性が補っていることが多く、セントラル侯爵家では本来、アンシア様が担当されるのが一般的だが、魔力病を患っているアンシア様では出来ないだろう。
「もし健康でも、妹はしないと思いますよ。妹は貴族令嬢だからと、家に入るのが嫌だと言っていますから」
女性は家庭に入るのが暗黙の了解の貴族社会で、アンシア様の夢は、兄の仕事を手伝うこと。
「理解されないのなら、一生独身でもいいそうです」
コリー様は呆れたように話されるけど、私は、決められた道を進もうとしないアンシア様を、格好良いと思ってしまう。
「だから、コリー様がセントラル侯爵家の管理をされているんですか?」
担当する女性がいない家では、執事や別の者に仕事として与えるのだが、セントラル侯爵家では、次男であるコリー様が担当していた。
「……僕は、こういったことをするのが好きなので」
俯きながら、まるで居心地が悪いかのように話すコリー様。
「そうなんですね。コリー様は器用で何でもこなせますから、家のことを任せても安心ですね」
フォルク様が不在時は仕事を任され、難なくこなし、セントラル侯爵家も、滞りなく円滑に進んでいる。私も、ジェイド様と結婚していた時にクレオパス子爵家の家の管理を任されたが、とても大変だったのを覚えている。
家のお手入れに使用人達の管理。
任される度合いは夫のさじ加減で変わったりするけど、コリー様は私の時と同様、全てを引き受けているように見える。
私の発言に、コリー様は何故か驚いた表情を浮かべ、俯いていた顔を上げた。
「……おかしいとは思いませんか? 男の僕が、普通、女性がするべきことをしているのが」
「? いえ、全く。こんなに大きな家の管理を全てされているなんて、凄いと思います!」
セントラル侯爵家より規模の小さなクレオパス子爵家だって私はてんてこ舞いでしたからね。それをコリー様お一人でされているなんて、頭が上がりません。
「コリー様のような方がもっと増えれば、アンシア様だって、結婚しようと思うかもしれませんね」
働きに出たいアンシア様に、家のことをしたいコリー様。
私も、結婚して薬師の仕事が出来なくなるなんて、今では考えられない。だから、コリー様のような方がいたら、とても助かります。
好きなことが出来ないって、苦しいですものね。
「……ソウカさんは、やっぱり、優しい人ですね。兄と似ています。兄も、僕がしたいことを止めませんでした」
「え?」
優しい? フォルク様は優しい方だと思いますが、私は特に変わったことを言った覚えが無いのですが……
「アンシア、お待たせ! ごめん、遅れて」
「フォルク様」
息を切らしながら駆け寄るフォルク様。
「それではソウカさん、僕は失礼します。兄さんをよろしくお願いしますね」
「? はい」
よろしくされているのは私の方なのですが……
「コリーと話していたのか」
「はい」
意味は分かりませんが、最後、悲しげな表情が消え、晴れやかになっていたので、何か悩みでも解決したのでしょうか? 良いことです。セントラル侯爵家の皆さんにはとてもお世話になっているので、皆さん、幸せになって欲しいです。
「じゃあ早速やろうか」
「よろしくお願いします」
こんなに良い人達に囲まれて、思う存分、薬師に打ち込めて、私は今、とても幸せです。お義母様。
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