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11話 悪夢再び
しおりを挟む助けて……助けて……! 嫌っ! 嫌!
「っ!」
バッと、目を覚まし、体を起こすと、私はすぐに、部屋中を見渡した。
(良かった……夢……)
気にしていないつもりでも、あの六年の結婚生活は、私に深い傷跡を与えたようで、情けないことに、今でも、夢に出てくるくらい、悪夢に怯えている。
ここでは無い、お義母様がいない別邸であのまま暮らしている自分――ジェイド様やミレイ様に、理不尽に暴言を吐かれ、暴力を受け、あの姉妹のためだけに馬車馬のように働かされる最低最悪の夢。
ベッドから飛び起き、辺りを見渡して、コルンにいることに安心して、お義母様の写真を握り締めて寝る。これの繰り返し。
(ぐっすり眠れる香草茶でもいれよう)
ベッドから足を下ろすと、私は近くに置いてあった白衣を着て、台所に向かった。
自分で言うけど、慣れた手つきで、香草茶をいれる。
こうやって悪夢にうなされるのは、初めてじゃない。週に一二回は、こうして悪夢にうなされる。
「ん、美味しい……」
自分がいれた香草茶は、自分で言うのもなんだが、美味しかった。
真っ暗な部屋の中、思い返すのは、いつも一緒に香草茶を飲んでいた、お義母様の姿。
「お義母様、私、初めて薬草を育てているんです。ヒナギクさんに種を貰って、毎日毎日お水を上げて、つい最近、芽が出たんですよ」
お義母様の写真立てに向かい、最近あった出来事を話すのは、悪夢を見た後の日課だった。
月見草を無事に手に入れて戻って来てから、私はまた、いつも通りの日常に戻った。
フォルク様が分けてくれた月見草を何に使おうか思案した結果、ヒナギクさんの腰痛の薬と、お義母様の時に作っていた、魔力病の薬に使った。
「……お義母様の時に、こんなに良い薬草で薬が作れていたら、もっとお義母様の負担を減らせたかもしれないのにね」
ただでさえ感染力が落ち、他の病気にもかかりやすいのに、魔力病は、時に強い痛みと苦しみを与える。お義母様は気丈に振る舞っていたけど、私は自分の無力さがいつも情けなかった。
思い返せば、あの時はこうすれば良かった。なんて後悔が多いけれど、私がいつまでも落ち込んでばかりいるのを、お義母様は決して喜ばない。だから、ちゃんと前を向いて、立派な薬師になった姿を、天国にいるお義母様達に見てもらうの。
そうしたら……きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね。
いつの間にか外には太陽が上がり、部屋の中に朝日が差し込むと、光はお義母様の写真を照らした。写真の中のお義母様が、微笑んでくれた気がした。
「やった! 花が咲きました!」
最近作った庭の薬草畑で、いつもの日課として朝、水をあげに来たら、一輪の花が咲いているのを発見して、思わず、ガッツポーズをしてしまった。
育てているのは、ヒナギクさんから種を貰った、タポンという、いわゆる初心者向けの薬草で、育て方も簡単。ミネラルやビタミンを含んだ、有能な薬草の一つ。
「嬉しいなぁ」
自分で丹精込めて育てた薬草は、ひと際恋しくて嬉しい。
これでどんな薬を調合しようかな? 香草茶にしてもいいし、栄養補助の薬にしてもいいし、風邪薬に混ぜてもいいし、迷うなぁ。ポーション、怪我の薬にしてもいいかも。強い効力は無いけど、ちょっとした怪我なら治せるし。
何の薬を作ろうかとワクワクしながら、根から丁寧に採取し、土だらけになった手で、汗を拭った。
「――なんだ、この汚い家は」
私は幸せだった。
あの、地獄のような家から出れて、駆け出しの薬師として、大好きなコルンで暮らせることが。
思う存分、薬師として時間を費やせて、誰かの役に立てて、感謝されて、誰も私に酷いことを言わず、痛い目に合わせない。
私は幸せだった。貴方がここに来るまでは――――
「ジェイド様……!」
もう二度と会いたくなんてなかったのに、どうして、ここに現れたのだろう。
私の幸せが、足元からガタガタと崩れ落ちる音がした。
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