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2話 熱があっても容赦はない
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「なんだか、今日はしんどいな……」
水での洗濯を終え、洗濯物を干していると、いつもとは違う体のダルさを感じた。
近くにある大きな石に腰掛け、自分で体温を測り、症状を確認する。三十八度二分、喉の痛み、倦怠感、鼻水――風邪かな。
本当の母親が最初に魔力病を発症した時、私はまだ六歳だった。魔力病を発症した患者は、他の病気にもかかりやすくなる。私はお母様を治してあげたくて、自然と、薬や病気の勉強をするようになった。おかげさまで、病気の判別も薬を調合するのも、大体自分で出来るようになった。
「風邪薬まだ残ってたかな」
別邸に戻って薬箱を確認しようか考えたけど、薬草が残り少なくなっているのを思い出した。例え薬の調合を知っていても、薬の材料となる薬草がなければ、薬は作れない。
最近森に行けていないし、買うにもお金がかかるし、お義母様のために薬は置いておきたい。薬を使ってしまうと、ジェイド様に『また無駄遣いをしたのか!』って怒られるのが目に見えていますしね。
大丈夫、これくらいなら、免疫力でなんとかなるはず。食事の支度や洗濯だけして、今日は大人しく休んでいれば――
「ソウカ様、ジェイド様がお呼びです」
――こんな時に限って呼び出されるんですよね。
「分かりました、すぐに向かいます」
本邸から私を呼びに来たメイドに返事をすると、私は自分の体に鞭打って立ち上がった。
一体何の用? 最近は無駄遣いしていないはずだけど……ジェイド様の呼び出しで良いことなんて一度も無い、大抵は最低。
今日は一体、どんな無理難題を押し付けてくるのでしょうね。
「明日、ミレイが帰ってくる」
「え?」
ミレイ様はジェイド様の血の繋がりのある妹君であり、私の義妹に当たる。
三年前に結婚されこの家を出て、それからは一度もこちらに帰ってこなかったのに、いきなり?
「里帰りですか?」
「違う。夫と離婚したから、こちらに帰ってくることになった」
「離婚!?」
「ああ、ミレイが少し浮気したくらいで拗ねて離婚を突きつけたらしい。器の小さい男だ、そんな男に可愛い妹は相応しくない」
浮気したくらいって……十分な離婚理由だと思いますけど。
「だから急いでミレイが帰ってくる支度をしておけ。ミレイの部屋の掃除やランチ、ディナーの指示。ああ、食事の内容は、ちゃんと妹が食べたいものを考えて料理人に伝えるのを忘れるなよ。後は新しく妹につける侍女を最低でも二人雇え、それと、部屋のベッドを新しい物に変えて欲しいと言っていたから、それも手配しておくように」
「ま、待って下さい! それを今日中にですか!?」
「文句があるのか?」
もっと早く言っておいてくれないと、一日でそんなに出来るはずがないじゃない! それに――
「私、体調が悪いんです。熱があって……」
さっきよりも熱が上がっている気がする。頭も痛いし、こんな状況で動くことなんて出来ない!
「何を甘えたことを! 家のことをするのは嫁の役目だろう! サボろうとするな!」
「どうしても無理なんです! 私、本当に気分が悪くて」
「五月蠅い! 僕に養われている分際で逆らうな! これ以上文句を言ったら離婚するぞ! いいのか? お前は両親がもう死んでいて、帰る場所なんて無いだろう!」
「そんな、離婚だなんて」
「僕はいつ離婚してもいいんだぞ? 僕と離婚して、平民に落ちて無様に生きるか? 何の取り柄も無い役立たずのお前は、一人で生きていけないだろうがな!」
「……申し訳ありませんでした。急いで手配します」
「分かればいいんだ! いちいち僕に逆らうな! ああ、罰として、ミレイのベッドの購入代金はお前達の来月の生活費から抜くからな!」
言いたいことだけ言い捨てたジェイド様は、大きな音をたて、扉を閉めた。
「……急がなきゃ」
時間が無い。お義母様の食事の支度もしなくちゃいけないし、薬の時間だってある。
健康な状態でもキツイのに、こんな時ですら、私を労わることはせず、酷使する。でも、離婚だけは嫌。だから何とか、やり切るしかない。
どれだけ体が悲鳴を上げても、辛くても、悲しくても。
後はもう、覚えていない。
必死に体を動かして、何とか全てやり切った気がする。偉いな、私。こんな状態でも、最後までやり切るんだもん。でも、別邸に入るまでの力は残っていなかった。
後一歩の所で力尽きて、そのまま、意識が飛んだ。
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