ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子

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91話 元・ファンファンクラン様の最後

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「さて、もう姿を現したらいかがですか?」

 ベールは紅茶の入ったティーカップに口をつけながら、望まぬ来訪者に向かって声をかけた。


「……おやおや、私の存在に気付いておられたんですね」

 庭にある木の陰から出て来たのは、元・ファンファンクラン子爵だった。
 以前までとは身なりが異なり、髭は伸び、髪の毛もボサボサ。お風呂に何日も入っていないのか、体臭が匂った。

「……」

 ベールもフィーリンも、元・ファンファンクラン子爵が勝手に庭に侵入し、突如現れたにも関わらず、椅子に座ったまま、微動だにしなかった。それを、元・ファンファンクラン子爵は、自分の出現に驚き、恐怖で固まっていると捉えた。

「お前等に直接的な恨みは無いが、ルーフェス様の所為で、私は全てを失ったーー!その責任は、ルーフェス様の最も大切にしている存在を奪うことで晴らしてやる!」

「……その大切な存在とは、ルエル様のことですか?」

 冷たい目で元・ファンファンクラン子爵を睨み付けるベール。

「ははは!まさか!ルエル様はただ子供が出来ない体というだけで選んだ、お飾りの妻でしょう?私はちゃんと情報を仕入れているんですよ!」

「……殺ーー」
「はいはい。ちょっと待ってねーベールちゃん」

 殺意を込めて魔法を繰り出そうとしたベールを、フィーリンが止めた。

「ルーフェス様は、自分の甥のシャイン様を大切にしているのでしょう?!その甥がいなくなれば、自分の跡継ぎがいなくなり、絶望するでしょう!そうなれば、少しは私の気も晴れるというものです!」

 実の息子。亡くなった夫の大切な忘れ形見であるシャインに危害を加えると口にし、あっはっはっは!と高笑いをする元・ファンファンクラン子爵を前に、フィーリンはそれでも、笑顔の裏に激しい感情を隠し、微笑みを絶やさなかった。

「元・ファンファンクラン子爵様。メト君が息子を大切に思ってくれているのは事実ですけどールエルちゃんがお飾りの妻だなんて、そのような作り話は一体どこでお聞きになったんですかー?メト君は、いまやー社交界で愛妻家として有名ですよー」

 こんな状況でも、のほほんとした口調で元・ファンファンクラン子爵に接するフィーリン。

「そんなことをお前に話す必要はありませんね!さぁ、シャイン様を大人しく差し出しなさい。そうすれば、お前達は見逃して差し上げます」

「まぁまぁまぁ。シャインに手を出せば、ルーフェス公爵家に喧嘩を売ることになりますよー随分、命知らずなんですねー」

「ふん。シャイン様を亡き者にしたあと、帝国外に逃亡しますから心配いりません。こんな国、もう何の未練も無い!」

 元・ファンファンクラン子爵は、剣を抜くと、二人に向かって構えた。

「女なんてただ子供を産む道具であればいいのに、妻の方が領主に相応しいだの、早く息子に爵位を譲れなどーーー私を本当に理解してくれた女性は、彼女だけです。ああ。最後に、貴女のためにも、シャイン様を亡き者にしてみせますーー」

「まぁまぁまぁ。その彼女とやらは、やっぱり教えて下さらないのかしらー?」

「当然です。彼女に迷惑はかけられません。彼女は、私の元・妻と違い、可憐で可愛い女性ですからね」

「そうですかー残念ですーーーでは、後で無理矢理、体に聞くとしましょう♪」

「ーーは?何を?」

 パッと、フィーリンがベールを止めていた手を放すと、ベールは我慢していた魔力を解放して、魔法の縄で元・ファンファンクラン子爵の体を何重にもグルグル巻きに縛り上げた。

「んー!んー!」

 口も塞がれ、声も出せずに地面に倒れこむ元・ファンファンクラン子爵。

「申し訳ございませんフィーリン様。フィーリン様に止めて頂かなければ、ついうっかり八つ裂きにしてしまう所でしたわ」
「まぁまぁまぁ、駄目よー。ちゃんと、誰の入れ知恵でこんな真似をしたのかを聞き出してからじゃなきゃー」
「んー!?」

 物騒なことを言われ、震え上がる元・ファンファンクラン子爵。

「女しかいないと思って油断されました?残念ですわね、私、女だからと舐めてかかる人種が一番嫌いですのよ。私は、ルーフェス公爵家に仕えるゼスティリア侯爵の娘です。舐めないで頂きたいわ」

「貴方の存在なんて、貴方がここに侵入して来た時からずーっと気付いていたわよー。でもね、ほら。シャインはまだ小さいしールエル様にあまり過激な場面を見せるのは嫌だしーって、ずーっと機会を伺っていたのよねー」

「メト様の恩情で命だけは見逃して頂いたのに……流石、自分の欲を優先して領民達を犠牲にした人は違いますわね。愚かにも程がある」

「んー!んー!」

 魔法で口を塞がれ、言葉を言えずにいるが、その目からは、必死で命乞いをしているように聞こえた。
 だけど、もう遅い。もう、二度目の温情は無い。


「お気の毒様……早く殺してくれーーーそう思ってしまうくらい、辛い目にあうでしょうね。でも自業自得ですわ。貴方は、メト様を完全に怒らせたのですからーー」

 ベールの台詞に、自分の悲惨な行く末を悟った元・ファンファンクラン子爵の表情は、絶望に染まったーーー




「ここって温室なの?」

 シャインに案内されて着いた場所は、普段は立ち入らない、花が沢山咲き誇った温室のような場所だった。

「うん、そうだよ」
「こんな所があったんですね」

 天井はガラス張りで、空が綺麗に見える。光が差し込んで綺麗。でも、壁はガラスじゃなくて、真っ白の壁紙が貼られていてーーここからだと外は一切見えない。

「とても静かな場所ですね」
「うん。完全防音だから」
「完全防音?」

 何故、温室に防音機能??

「ルエルお姉ちゃん、これ見てーキレイ。でしょ?」

 温室の中を歩き周り、色々な花を見せてくれるシャイン。
 可愛い可愛い可愛い可愛い!天使と手を繋いで、こんなに綺麗な花を見せて頂けるなんて、ここは天国なの?!幸せ!!

「とても綺麗ですね」

 平常を装いつつ、返事をする。

 私はそのまま、外で何がおこっているのか気付かないまま、シャインとの幸せな時間を堪能したーーー。
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