【完結】聖女様にいじめられていたら、大大大推しと急接近したんですが~ていうか私”も”聖女ってどういう意味?~

神無月りく

文字の大きさ
8 / 40

第一章――⑥(ユマ視点)

しおりを挟む
 後ろ髪を引かれる思いで倉庫をあとにし、ユマは一人ため息をついた。

「強情だな……どうしたものか……」

 前々からアリサがあの侍女を踏み台にして、周囲の評価を上げているのは知っていた。

 男が女同士の諍いごとに首を突っ込むべきではないし、聖女という窮屈な立場に無理矢理収めているのはこちらだから、少しくらいはと甘い気持ちで見逃してきたが、さすがにここのところ目に余る行動が増えてきた。

 なので何度か「聖女らしく慎み深い行動を」と注意を促したが、しらを切り通された挙句「私が醜いから信じてもらえないのね」と泣かれた。
 その現場を完全に彼女の虜となっている騎士たちに目撃され、「教育係でもアリサを泣かせるのは許さない」と、逆に糾弾される立場になってしまった。

 
 ほとほと困り果てている。

 仕方なく被害者である侍女に訴えてもらう方針に切り替えたが、彼女は一言も助けを求めずユマを遠ざけた。土下座を強要されていた時も、自力で必死に抵抗していた。

 以前の彼女は気弱で儚げで、何かあれば泣いて謝ってばかりいたのに。
 だから、こちらから歩み寄れば泣きついてくるはずだと思ったのだが、今は強い意志を感じるというか、分をわきまえながらもきっちり自己主張をする。

 逆境の中で一皮むけた、というよりもまるで別人だ。

 不思議に思う一方でその変化を――前より今の彼女の方が好ましいと感じている自分がいる。
 あの心の強さと潔さには敬意を表してもいい。なんならアリサよりも聖女にふさわしいとすら思う。

 でも、もう少し甘えてくれてもいいのでは……などと考えながら黙々と歩き、使用人棟と邸宅を繋ぐ中庭まで出てきた。うららかな日差しを浴び、新鮮な空気を大きく吸い込んで気持ちを切り替えていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 振り返らずとも分かる。アリサだ。

「ユマ。どこに行ってたの? 探してたんだから」
「悪い。少し散歩していた」
「わざわざ使用人棟に? 好きな子でもいるの?」

 茶化すような口調だが、腹の内を探るような鋭い目を羽扇の隙間から覗かせている。

 変わったといえば、アリサもすっかり変わってしまった。
 この世界に来たばかりの頃は、オドオドしながらも相手と真摯に向き合う優しさを持っていたはずなのに、いつの間にか巧みに人心を操る術を身に着け、他人を支配することに喜びすら感じている節がある。

 聖女としての役割は果たしているが、資質に問題があると言わざるを得ない。

 念のため女神には奏上しているが、具体的な対策を取ったとは聞かされていない。
 それどころか定期的にくるはずの啓示がなく、彼の報告がきちんと届いているかさえ怪しい。

 はどうもうまくいかないことが多い。誤差の範囲ではあるががたびたび狂う傾向があるし、の破綻の予兆でなければいいのだが。

「……女神の使徒に色恋は許されない。知っているだろう」

 考え事をしつつ、アリサに無難な対応をする。

「今はまだ無自覚ってだけかも。恋はするものじゃなく落ちるものって言うし」

 後ろ暗いことは何もないのだが、なんとなく彼女との関係を知られたくなくてそっと話題をすり替える。

「俺の事よりあんたはどうなんだ? 騎士たちと随分親しくしているようだが」
「まあ、変な勘繰りはやめて。大切な仲間として仲良くしてるだけよ」

 確かに特定の誰かに恋愛感情を持っているようには見えない。
 だが、相手に恋心を抱かせようとしているようには見える。
 そして、その矛先が自分に向いていることも薄々感じていた。

「そんなことよりもユマ。新しく覚えた魔法がうまく使えなくて困ってるの。みんなの前で恥ずかしい思いしたくないっていうか、あっと驚かせたいから、秘密の特訓に付き合ってほしいんだけど……ダメかしら?」

 さりげなく距離を詰めて肉感豊かな体をこちらに寄せ、上目遣いで尋ねてくる。
 使徒として色恋とは縁のない人生を送ってきたが、これが色仕掛けだということくらいは察せられる。だが、仕掛けられてゾッとするとは想像もしてなかった。

 別に彼女の容姿が一般的に見て劣っているせいではない。
 熱っぽくこちらを見つめているようで、瞳の奥は計算高く冴え冴えとしているし、体臭に合わない香水の匂いは吐き気すら覚える。
 どうしてこれで騎士たちはあんなに夢中になれるのか、ユマにはまったく理解できない。

「……特訓は構わないが、あまり俺を頼り過ぎるな。教育係といっても四六時中共にいられるわけじゃない」
「でも、ユマの教え方はうまいし、傍にいてくれると安心するの。早く一人前になるから、もう少しだけ頼らせてね」
「おだてても何も出ないぞ」

 何気ない風を装って触れてこようとするアリサの手をやんわりと避け、ユマは手早く約束を取り付けて別れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...