【完結】聖女様にいじめられていたら、大大大推しと急接近したんですが~ていうか私”も”聖女ってどういう意味?~

神無月りく

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プロローグ

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 私は横山羽里#__はり__#。あと五日で三十路突入の二十九歳。

 真面目だけが取り柄の派遣社員にして、生きがいは一人カラオケと乙女ゲーム。

 合コン? 婚活? リアルの男に興味はありません。
 正社員? 資格? ゲームと睡眠の時間は一分たりとも削れません。
 意識高い系の趣味も興味ないし、ファッションにお金をかける気もない。

 地味で根暗なオタク喪女。それが私のアイデンティティだ。

 そんな私を両親はとっくの昔に見放し、年の離れた妹(血が繋がってるのか疑うくらい才色兼備の優等生)を溺愛している。
 だから、私が死んだとしても誰も悲しまない――とはいえ、いきなり殺されるのはごめんこうむりたいのだが。

「ぶぎやああっ……!」

 女子としてあるまじき悲鳴が漏れる。

 腹に刃物がぶっ刺さっている。日本刀だ。模造品ではない、本物の刀。これまで感じたことのない激痛が走り、熱と血が傷口からとめどなく流れ出ていくのを感じる。

 目の前が赤いのは今が夕暮れ時だからか、それとも私が流した血のせいか。

 どうしてこんな目に逢っているのか、ゆっくりと頭の中で時間が巻き戻っていく。

 私は仕事を終え、ルンルン気分で退社しようとしていた。
 今日はずっと楽しみにしていた『聖魔の天秤』という乙女ゲームの発売日なのだ。

 ビジュアルノベルとやり込み型RPGの融合作で、異世界に召喚された現代女子高生が女神の代行者“聖女”となり、選ばれしイケメンの“騎士”たちと共に、“魔王”が招く世界の危機に立ち向かうというありがちなストーリー。

 元々スマホゲームだったタイトルだが、『無課金でもエンディングまで遊べる』というキャッチコピーで幅広いユーザーから支持を受け、コミック化やアニメ化もした人気作。大幅なシナリオ増量や攻略対象の追加など様々なバージョンアップが施され、携帯ゲーム機用ソフトとして移植された代物である。

 私はスマホ版で全シナリオをコンプリートしたが(そこに至るまでの課金額は秘密)、非攻略対象だった大大大推しキャラのルートが開通した事実を知り、購入を即決した。

 今日だけは節約のための自炊をやめて、コンビニ飯を頬張りながら久しぶりに『聖魔の天秤』の世界に浸ろうと思って会社のエントランスホールを通りかかった時、事件は起きた。

 竹刀袋を抱えたジャージ姿の男が自動ドアから入ってきたかと思うと、警備員が制止する間もなく袋の中からむき身の日本刀を取り出し、狂気じみた表情でそれを振り回し始めたのだ。

 彼が何故この会社を訪れ暴れているかなど分からなかったが、警備員も迂闊に近寄れないみたいだし、警察の到着を待つしかない状態だった。早く帰りたいのにとか、どうして今日に限ってとか、いろいろと苛立ちは湧き上がるが、立ち向かうだけの勇気も根性もない。

 仕方なくエントランスの隅っこでおとなしくしてようとしたが、突然背中をドンと押されてたたらを踏み、日本刀男の前に押し出された。
 正気を失いギラつく目が私を捉える。ぞっとして足がすくみ思考が止まる。その瞬間を狙ったかのように男の白刃が私の腹を突いた。

 そして今に至る。

 漠然とこの傷じゃ死ぬなぁと悟った時、私の脳裏に浮かんだのは家族のことではなく『聖魔の天秤』のことだった。我ながらあきれるほどの乙女ゲー魂だ。
 ああでも……ずっと楽しみにしてたのに……プレイできないなんて辛すぎる。

「ユマ……」

 愛してやまなかった推しキャラの名前が口をついて出る。
 遠くで誰かが私の名前を呼んだ気がしたが、あっという間に意識が暗転した。
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