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陽のあたる場所
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しおりを挟むのぼせそうなほど顔が熱い。何だかまずいことになりそうだから、話を無理やり変えた。
視線を戻すと先輩はあからさまに頬を染めて照れていた。ムカつくけど可愛い。
「ホテルにいた、あの性欲爆発してるサラリーマン? それとも……」
「誰でもいいだろ。お前は俺のことより自分のことを考えろ。……それに」
先輩はなにか言いかけて、また口を閉ざす。そして苛々した顔で俺の腹をどついてきた。けっこう痛かった。
「お前がそんな弱音吐いてウジウジしてると気持ち悪いっていうか、ムカつくんだよ! いつもみたいに堂々と、クソ生意気にかまえてろ。……分かったらさっさと柊の家に行くぞ」
力強い視線を受け、目を離せなかった。
良くも悪くも、こんなにも真正面から見てくれた人は初めてかもしれない。
「……っ」
先輩の有無を言わさぬ態度に、その場は従うしかなかった。
くそ、先輩のくせに……。
痛む前頭部をおさえながら、結局柊先輩の家に行くことになった。
彼の家は学校の最寄り駅から六つ目、住宅街の中にある、まだ新しそうな一軒家だった。
「幼なじみってことは、一架先輩もこの近くなの?」
「まぁな。じゃ、呼んでみるか」
一架先輩は躊躇いなくインターホンを押した。怖々待っていると、少し掠れた声が返ってきた。開けるからちょっと待ってて、という、柊先輩の声。
一架先輩がそれに返事したけど、声が聞こええなくなるとまた猛烈に不安になる。
「う、やっぱり俺帰ろうかな」
「お前な……冗談も休み休み言えよ」
「だって……」
どんな顔して柊先輩に会えばいいのか、未だに分からない。
不安と恐怖で胃痛がする。確かに、俺はいつからこんな弱くなったんだか。……思い出せない。
以前なら誰に嫌われたって構わないと思っていた。だから痛くも痒くもなかったのに。
後ろへ一歩下がって、足元のコンクリートに視線を落とす。
「柚。お前、柊のこと好きだろ」
「はっ!?」
一架先輩の質問に、今日一番の大声を出してしまった。
だって、突然過ぎだ。話がぶっ飛んでる。
「は、は。そんなわけ……よりによって、す、好きとか。俺はただ、当たり障りない関係でいたいだけで」
「柊に嫌われたくないんだろ。それってつまり、あいつのことが好きだからだろ」
先輩の視線が突き刺さる。
何だこれ。心を掻き乱される。
その眼から、言葉から逃げる気はなかったけど、とにかく反論しなきゃと思って口を開いた。
「別に柊先輩のことは好きじゃない!!」
そう叫んだと同時に開くドア。
二人一斉に振り返ると、そこには目を丸くした柊先輩が立っていた。
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