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陽のあたる場所
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しおりを挟む最悪過ぎるタイミングに、本気で神を呪いたくなった。
どっどうしよう。
今の台詞だけは聞かれたくなかった。気まず過ぎて目を泳がせてると、一架先輩が急に笑いだして。
「あぁ~、そうなんだ? でも、俺は柊が大好きだよ」
「え……えっ?」
重い場をぶち壊すような明るい声音で、彼は柊先輩を抱き寄せた。
「お前がいらないって言うなら、柊は俺がもらっていいんだな?」
「は!?」
絶句した。
風邪気味で顔が赤い柊先輩に、一架先輩はぴったりくっついている。突然イチャつかれて、こっちは混乱しかない。
「何でそうなんだよ! つうか一架先輩、柊先輩のことそういう目で見てたわけ!?」
「別に。でも柊はお前にはもったいないぐらい良い奴だからな」
「……!」
あからさまな嫌味を言われ、唇を噛む。
強引に連れてこられたことも納得してなかったのに……彼に対し、初めて怒りを覚える。
かといって自分が彼らの仲をとやかく言う資格も、割り込む力もない。
むしろ場違いなのは自分の方だ。
今すぐにでもここから立ち去るべきだと思い、踵を返そうとした。けど後ろから襟を掴まれ、苦しさに呻く。
「……ま、お前みたいに拗らせてる奴を何とかできるのは、俺が知る限り柊ぐらいだと思うよ」
彼は茶化してるけど、不思議なことに声だけは力強い。
一架先輩の台詞は、怖いぐらい柊先輩という人間を説明していた。
「柊は昔っから面倒くさい奴を手懐けるの上手いからなー」
それは俺も知ってる。
柊先輩が度を越したお人好しだってことぐらいは。
本当、ちょっと付き合っただけで分かるんだ。
「あ、あのさ……! ひとつ確認したいんだけど、さっきから何の話してんだ。お前ら俺の見舞いに来たんだよな?」
それまで汗ダラダラでやりとりを見守っていた柊先輩が、ようやく口を開いた。俺は黙ってたけど、代わりに一架先輩が質問に答える。
「そうだよ。でも思ったより元気そうで安心した。明日は学校来れそう?」
「おう。とりあえず熱は下がったから」
柊先輩が笑顔で言うと、一架先輩はここに来るまでに買った見舞用の果物を俺に手渡した。
「それじゃ俺はもう帰るから、そいつのことよろしく」
「えっ? ちょっ、一架先輩!」
慌てて止めようとしたけど、先輩はスタスタと先に帰ってしまった。やっぱり酷い。
「……あいつ家近いから、来ようと思えばいつでも来れるんだよ。だから放っといていいと思う」
柊先輩は苦笑しながら俺に視線を移し、家のドアを開けた。
「柚はせっかく来てくれたんだし、上がっていってよ」
「い、いや……具合悪い時にそれはちょっとアレだし、俺ももう帰ります! これどうぞ、お大事に!」
自分でも何を言ってるのか分からない。ただパニックになって、見舞品を彼の胸に押し付けて帰ろうとした。でも同時に腕を掴まれてしまう。
「気まずいのは分かるけど、そんなわかりやすい避け方すんなよ。さすがに傷つくぜ?」
柊先輩は、秘密を打ち明けるような声で囁いた。
「ちょっとでいい。……ちょっとだけ、一緒にいてよ」
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