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第1章 とにかく普通と平穏を 騒がしいのはお断り!

11.なんでこんなのばっかり⁈俺、何かした?????③

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鋭い金属音と風を感じた。
俺とユーグの顔スレスレ、柱に短剣がぶっ刺さる。
ビィィンと鈍い振動音を立てて震えるそれに、顔から血の気が下がる。
あ、あぶね!!

「ユーグ!何をしているの⁈それは誰!私ともあろう者がいて、そんなのを相手に何をしているのよッ!」

怒りに声を震わせ、突如、現れた美女が金切り声をあげる。
真っ赤な真紅のドレスに、唇も真っ赤な口紅が引かれた美女が、眼光鋭く俺たちを睨みつけてくる。
褐色の髪に真紅の薔薇に真珠を散りばめた出で立ちは、彼女の美しさを際立たせているが……

キツい。

一言で言えばそれだ。美人だが、受ける印象が強すぎる。

「ナターシャ」

戸惑う俺とは打って変わり、ユーグが慌てることもなく、ゆったりと覆い被さろうとした俺から離れた。
とりあえず、少し体が離されたことに安堵し息を吐く。

「会場に居ないと思えばこんな場所で!またなの⁈どこの馬の骨ともしれない者と!」
「……………………」

これは怒ってもいいもの、、、だよな?
”それ”、”そんなの”に続き、”馬の骨”ときた。
俺は一応皇子だ。王族の末席で端くれ。扱いはよろしくなくとも、そんなのや馬の骨呼ばわりされていいものではない!……………………はず?
眉根を寄せるが、ユーグも現れた美女も、俺を綺麗に完全スルーだ。
平凡普通は愛するが、ボッチになりたいわけじゃねぇ!
無視すんな!と、内心プンプンする俺に構わず2人の会話が続く。

「皇子殿下だ。不敬になるぞ?」
「皇子殿下?私はそんなの見た事もないわ!一体、どこのなの?」

どうやら、俺の扱いは『そんなの』で決まりらしい。
腹は立つが、言うのももはや疲れる。
まぁ、下手に騒いで、ユーグに続いてこの厄介そうな美女の相手はしたくない。
黙って成り行きを見よう。

「第13皇子、カナデ殿下だ」
「13………そう。8…」

何に納得したのか、美女がフンと小さく鼻を鳴らす。貴族(だよな?)の令嬢にしては行儀悪いが、気の強い彼女には妙にしっくりくる。
居住まいが正され、優雅にお辞儀をされた。

「ナターシャ=デラレッツァと申します。ご機嫌麗しゅう、13弟殿下」
「え、、、、、っと??」

手の平返されてヘコヘコされても困るが、貴族然と優雅に構えられても困る。
立場はどうあれ、俺の気質はど庶民だ。
俺には王族として、お貴族様に挨拶対応するスキルは持ち合わせがない。

「さすがは引きこもりで大人しいが取り柄とお噂の13弟様ですわ。顔を見た事もない、いずれ義姉あねになるだけの女には挨拶もする必要がない、と?」
「え、、、、、っと??これは……ディスられて、る?」
「?????なんですの?」

俺も分からないが、美女、ナターシャも分からないらしく、キツい目元を更にキツく顰めさせた。
うっかりあちらの言葉が出てしまった。
ただでさえ目覚めてから言動がおかしいと言われてる。

「………義姉って?」

話を逸らすべく、それについて質問した途端、ナターシャの視線がキリキリと吊り上がる。
美人の迫力半端ねぇ……!
思わずタジタジになる俺に、ナターシャが真っ黒な笑みを浮かべた。
こ、こあい……!!

「そう……そんな態度なのね?」
「は??あなたまで……って?」
「白々しいわ!!」

いや……ほんと、意味分かんないんですけど?
突きつけられた因縁いんねんの意味が分からない。まるで、射殺いころしそうなナターシャの視線が怖すぎる。
マジで勘弁して欲しい。
俺が望めば望むほど、平穏が遠ざかっていくのは何故だ⁈

「人の異母弟を貶めるのはやめて欲しいな?」
「!?」

背後から腕を首元に回され、そのまま背中から引かれた。柔らかな、それでいてザワザワする香りに体が包まれる。思い至るそれに、ゲンナリした。
次から次へと……今日は厄日か??
そっと伺うように背後にずらした視線がそれを捉えた。
いっそ涼やかと言える青銅色の瞳が、どこか楽しそうに俺を映す。
よりによって、なんでなわけ?
ハァ~ッと重苦しい溜め息をはき、渋々口を開いた。

「…………………………………………………カレス」








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