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第39話 親父の長いカオスな一日 ②

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「あのバッグはずっと大事にしてる。わたしの見た目だと、ちょっと? かなり? 大人っぽいけど、でもすごく大事なもの……
 あと、あのときのプラモは、デンドロビウムの次くらいに作りがいがあった……あれはいいものだった……」

 ピノアはプラモデルのことを思い出して嬉しそうにしていた。
 父はプレゼントが苦手で、特にサプライズの才能が皆無だった。
 相手が欲しいものを事前に入念にリサーチするか、直接相手と買いに行くかの二択しかなかったので、おそらくはサトシにピノアが欲しがっていたものを聞いていたのだろう。


 ついつい、人生で五本の指に入るカオスな1日を思い出してしまったが、城のバルコニーから見える景色は本当にきれいだった。

「ここは一週間前に、わたしがリバーステラに転移させられた場所なんだ。
わたしの中では17年前だけどね」

 ピノアは、ナユタの手を握った。
 その小さな手をナユタは握り返した。

「向こうに17年もいたのに、こっちに帰ってきたら一週間しか経ってないとか、笑えるっていうか、笑えないっていうか。ほんと、どうなってるんだろね」

 ま、サクラがわたしよりおばさんになってなかったからいいや、とピノアは言って笑った。
 わたしは老けないけど、あの子はあの性欲お化けの力に目覚めなかったら老けるだけだったろうからね、と。

 性欲お化けて。
 と思ったが、あれは本当に性欲お化けだった。

「匣はね、72個だけじゃなかったんだ。
 リバーステラにもたらされてたのが、72個だっただけ。
 わたしやステラのお母さんは、匣のことに詳しい人だったの。
 リバーステラで、匣を全部手に入れた国が作った組織が、10番目のテラでわたしたちのお母さんになった人を生み出したんだって。
 お母さんは最初、サタナハマアカみたいな感じだったみたい。どっちかっていうとソラシドみたいな感じかな」

 ナユタはソラシドという存在を知らなかったが、エウロペの飛空艇に搭載されている魔法人工頭脳だという。
 サタナハマアカが持つ身体は、この国にかつていた魔装具鍛冶職人が作り、その魔法人工頭脳は、同じ魔法人工頭脳であるソラシドが、より人間に近い思考を持つように生み出したのだという。


「テラは大厄災が10回も起きて、その度に人の歴史が作り直されてきたけど、リバーステラもね、三回作り直されてるんだよ。
 二回はレンジ。三回目はタカミ」

 知らなかった。
 父が作り直した世界が今のリバーステラだということにナユタはただただ驚かされた。

「お母さんは、レンジが最初に生まれた世界でレンジに出会って、組織を裏切ってレンジが世界を作り直す手伝いをしたみたい。
 レンジのことが大好きだったの。
 何にも知らなかったのに、ステラもわたしもレンジを好きになるとか、血は争えないよね。
 でも、作り直した世界にも、組織が存在して、ふたりはまた世界を作り直した。
三回目の世界にも組織がいて、テラを作った。レンジをこの世界に転移させたりとか、めちゃくちゃした。
 タカミは、その組織だけが存在しない、それ以外は三番目の世界と変わらない今のリバーステラを作ったんだ」

 父は本当にすごい人だったのだな、と思った。
 プラモデルのエピソードとのギャップが酷かった。


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