33 / 123
第33話 ラ・ムー大陸
しおりを挟む
「魔装具に魔法を込めるように、外界から見えないよう、そして私達のような侵入者には普通の大陸にしか見えないよう、インビジブルの魔法が込められています」
このような場所があると知っていたら、レンジたちをあちら側に転移させなくてもよかったかもしれなかった。
ここに自分たちが導かれたのは、おそらくはサクラの存在が大きいのだろう。
結晶化したエーテルが、人よりもエーテルに近い存在となった彼女を招いたのか、彼女が無意識にこの地に飛ばしたのかまではわからなかったが。
「前の世界では、ブライ・アジ・ダハーカだけがこの大陸の存在に気づいていたようですね。
ここに魔王城ともいうべき城を建て、ダークマターに完全に汚染された秋月サトシ様を魔王としてではなく、ダークマターの管理システムとして扱おうとしていたようですが、現在は月の審神者の根城になっているようです」
それはまた厄介な場所に飛ばされてしまったものだなと思った。
「ねー、早くエウロペに帰ろ?
わたし、またナユタくんとせっくすしたいんだ。きもちよかったなぁ……」
「二度とするな」
イルルは言った。
サクラは彼女にそんな口調で叱られたことはなかったから、とても驚いた。
「ボクにとってピノアは、前の世界でも今の世界でも最も尊敬する女性だ。
ずっと彼女の幸せを願っていた。
彼女を二度と悲しませるようなまねをしないでくれ」
「わたしもピノアちゃんのこと大好きだけど、イルルさんもピノアちゃんのこと好きだったの?」
「キミがピノアを好きという気持ちと、ボクがピノアを好きという気持ちは、全く違う。
ボクは彼女のためなら、キミを殺せる。
たとえキミがレンジとステラの娘であったとしてもだ。
ピノアの幸せがボクの幸せだ。
たとえ、ピノアやレンジやステラにどれだけ憎まれたとしても、キミがピノアを悲しませる存在ならばボクはキミを殺すよ」
サクラは、ふーん、と言った。
「ピノアちゃんはいいね。
お父さんには選ばれなかったけど、でもちゃんと家族として愛されてる。
今はナユタくんがいる。
お母さんからも愛されてて、イルルさんもサタナハマアカも、エウロペのみんなも、みんなみーんなピノアちゃんを愛してる。
おまけに、アンフィス・バエナ・イポトリルやアベノ・セーメー、精霊たちからも愛されて、溺愛されて、甘やかされてやりたい放題。
きっと異世界でもモテモテだったんだろうね。
わたしね、ピノアちゃんが小さい頃から大嫌いだった」
「キミは、ピノアのことを何もわかってない」
「わかってるよ?
男にこびへつらうのがうまい、あざとい女でしょ。
だから、お母さんしか同性で仲のいい人がいない。お母さんも妹だからしかたなく仲良くしてるだけ」
「黙れ。それ以上ピノアを愚弄するなら、本当に殺す」
「やってみたら?
たぶんね、たとえば今、イルルさんがわたしを殺そうとしてきたら、わたしはあなたが魔法を放つよりも早く、あなただけじゃなくて、サタナハマアカも殺せちゃうと思うよ。
あ、サタナハマアカは殺すじゃないね。壊すだね」
「彼は生きている。命がある。そんなこともわからないのか?」
「どっちでもいいし、そんなの」
イルルが本当にサクラに対して殺意を抱いているのが、サタナハマアカにはわかった。
「イルル様、私でしたら大丈夫です。
人にはいろんな価値観があります。
イルル様やステラ女王様やピノアお姉さまやレンジ様のように、私を人として扱ってくださる方がいらっしゃるだけで私は充分ですから」
「健気なマキナだよね、ほんと。
早く壊して、ピノアちゃんに見せてあげたいな」
サクラは本当に変わってしまった。
「キミのことを、ボクやサタナハマアカも、ピノアやステラやレンジのように、みんなが愛していた。
キミには、それが伝わっていなかったんだね……」
「なにそれ。散々殺すとか言っといて。
意味わかんない。むかつく。
ふたりともすぐに壊してあげる」
そして、サクラは、
「迦具夜ちゃん、ムスブくん、連れてきたよ」
と、信じられない言葉を言った。
月の審神者・月読迦具夜と、ナユタに良く似た少し大人びた青年が、サクラのそばに現れた。
「ナユタくんとピノアちゃんは連れてこれなかったけど、とりあえずふたりつれてき」
サクラの首をナユタに良く似た青年が、手刀ではねた。
「…たよ。あれ? あれれ?」
彼女は首のない自分の身体の手足がバラバラになりながら崩れ落ちるのを見ながら不思議そうにそう言った。
その身体はまるで人形のようだった。
「ナユタとピノアを連れてくるのがお前に与えた仕事だったよな?
誰だよ、こいつら。
まじで使えない人形だな。だから壊されるんだよ」
ナユタに良く似た青年は、サクラの頭を踏み潰し、
「ナユタとピノアをすぐに呼べ。
雨野ムスブが、お前たち救厄の聖者とアンサーや銀河間戦争を結んでやるために来てやったとな。
譲り受けた力ではなく、生まれもった那由他を超える不可思議の力を持って、世界の理を変えにきた。
そう伝えろ」
イルルとサタナハマアカにそう言った。
このような場所があると知っていたら、レンジたちをあちら側に転移させなくてもよかったかもしれなかった。
ここに自分たちが導かれたのは、おそらくはサクラの存在が大きいのだろう。
結晶化したエーテルが、人よりもエーテルに近い存在となった彼女を招いたのか、彼女が無意識にこの地に飛ばしたのかまではわからなかったが。
「前の世界では、ブライ・アジ・ダハーカだけがこの大陸の存在に気づいていたようですね。
ここに魔王城ともいうべき城を建て、ダークマターに完全に汚染された秋月サトシ様を魔王としてではなく、ダークマターの管理システムとして扱おうとしていたようですが、現在は月の審神者の根城になっているようです」
それはまた厄介な場所に飛ばされてしまったものだなと思った。
「ねー、早くエウロペに帰ろ?
わたし、またナユタくんとせっくすしたいんだ。きもちよかったなぁ……」
「二度とするな」
イルルは言った。
サクラは彼女にそんな口調で叱られたことはなかったから、とても驚いた。
「ボクにとってピノアは、前の世界でも今の世界でも最も尊敬する女性だ。
ずっと彼女の幸せを願っていた。
彼女を二度と悲しませるようなまねをしないでくれ」
「わたしもピノアちゃんのこと大好きだけど、イルルさんもピノアちゃんのこと好きだったの?」
「キミがピノアを好きという気持ちと、ボクがピノアを好きという気持ちは、全く違う。
ボクは彼女のためなら、キミを殺せる。
たとえキミがレンジとステラの娘であったとしてもだ。
ピノアの幸せがボクの幸せだ。
たとえ、ピノアやレンジやステラにどれだけ憎まれたとしても、キミがピノアを悲しませる存在ならばボクはキミを殺すよ」
サクラは、ふーん、と言った。
「ピノアちゃんはいいね。
お父さんには選ばれなかったけど、でもちゃんと家族として愛されてる。
今はナユタくんがいる。
お母さんからも愛されてて、イルルさんもサタナハマアカも、エウロペのみんなも、みんなみーんなピノアちゃんを愛してる。
おまけに、アンフィス・バエナ・イポトリルやアベノ・セーメー、精霊たちからも愛されて、溺愛されて、甘やかされてやりたい放題。
きっと異世界でもモテモテだったんだろうね。
わたしね、ピノアちゃんが小さい頃から大嫌いだった」
「キミは、ピノアのことを何もわかってない」
「わかってるよ?
男にこびへつらうのがうまい、あざとい女でしょ。
だから、お母さんしか同性で仲のいい人がいない。お母さんも妹だからしかたなく仲良くしてるだけ」
「黙れ。それ以上ピノアを愚弄するなら、本当に殺す」
「やってみたら?
たぶんね、たとえば今、イルルさんがわたしを殺そうとしてきたら、わたしはあなたが魔法を放つよりも早く、あなただけじゃなくて、サタナハマアカも殺せちゃうと思うよ。
あ、サタナハマアカは殺すじゃないね。壊すだね」
「彼は生きている。命がある。そんなこともわからないのか?」
「どっちでもいいし、そんなの」
イルルが本当にサクラに対して殺意を抱いているのが、サタナハマアカにはわかった。
「イルル様、私でしたら大丈夫です。
人にはいろんな価値観があります。
イルル様やステラ女王様やピノアお姉さまやレンジ様のように、私を人として扱ってくださる方がいらっしゃるだけで私は充分ですから」
「健気なマキナだよね、ほんと。
早く壊して、ピノアちゃんに見せてあげたいな」
サクラは本当に変わってしまった。
「キミのことを、ボクやサタナハマアカも、ピノアやステラやレンジのように、みんなが愛していた。
キミには、それが伝わっていなかったんだね……」
「なにそれ。散々殺すとか言っといて。
意味わかんない。むかつく。
ふたりともすぐに壊してあげる」
そして、サクラは、
「迦具夜ちゃん、ムスブくん、連れてきたよ」
と、信じられない言葉を言った。
月の審神者・月読迦具夜と、ナユタに良く似た少し大人びた青年が、サクラのそばに現れた。
「ナユタくんとピノアちゃんは連れてこれなかったけど、とりあえずふたりつれてき」
サクラの首をナユタに良く似た青年が、手刀ではねた。
「…たよ。あれ? あれれ?」
彼女は首のない自分の身体の手足がバラバラになりながら崩れ落ちるのを見ながら不思議そうにそう言った。
その身体はまるで人形のようだった。
「ナユタとピノアを連れてくるのがお前に与えた仕事だったよな?
誰だよ、こいつら。
まじで使えない人形だな。だから壊されるんだよ」
ナユタに良く似た青年は、サクラの頭を踏み潰し、
「ナユタとピノアをすぐに呼べ。
雨野ムスブが、お前たち救厄の聖者とアンサーや銀河間戦争を結んでやるために来てやったとな。
譲り受けた力ではなく、生まれもった那由他を超える不可思議の力を持って、世界の理を変えにきた。
そう伝えろ」
イルルとサタナハマアカにそう言った。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!
京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。
戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。
で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる