私立探偵と男達の愛

いちみりヒビキ

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(05) 宗近 4 変わりゆく気持ち

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「社長、オレ、事務所辞めます」

宗近の言葉に社長は葉巻きを落としそうになった。
社長は、40代後半の男で、その容姿の特徴は禿げ上がった頭に小太りの体型。
その社長は、いつになく真剣な表情の宗近に焦りながら答えた。

「な、どうした宗近? アイドルになりたくないのか?」

宗近は真顔で答える。

「ええ、オレは別の道を歩みます」

社長は葉巻きを置き、宗近の傍らまで近寄ると宗近の頬を触った。
猫撫で声で言う。

「バカを言うな。ほら、今度のメディアミックス社のアイドルユニットにエントリーしようとしていたところだ」

宗近は、またか、と小声で呟く。
そしてため息をついた。

いつもの手。
しかし、宗近はこの手に何度も何度も引っかかってきた。

「社長、長い間、お世話になりました」

構わずに頭を下げた。
お世話になった事など無かったけどな、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

社長は、どうやら宗近の意思は堅そうだ、と感じたようだ。
振り返り、宗近に背中を見せた。

「そうか、アイドルは諦めたか……」

宗近は社長の言葉にホッとしていた。
これなら案外穏便に辞められそうだ。

「それでは、これで失礼します」

宗近がそう言った瞬間、社長は醜悪な微笑みを浮かべ、宗近の手首を握った。
そして、ねじるように腕を背中に回す。

「なら、ワシの専属秘書にしてやろう! ほら、早速契約を交わそうではないか? 体でな、ひひひ」
「や、やめろ!……やめ……てくれ……」

社長室には宗近の悲鳴が虚しく響いた。


****


今まで幾度となく嬲られた場所。
本革の応接セットのソファ。

宗近は、そのソファの上に四つん這いにさせられ、社長はバックからのしかかる。

社長は、ギンギンに固くした男根を宗近の秘部にあてがうと、容赦なく挿入した。
メリメリとめり込む。

「はぁ、はぁ……たまらねぇなぁ……」
「うっ……ううう」

目をギュッと閉じて、歯を食いしばる宗近。
痛み。そして、吐き気を催す不快さ。

しかし、宗近はぐっと堪える。

(これで手切れだと思えば安い。だから、耐えるんだ。嵐が過ぎ去るのを……)

社長はしばらくの間、やりたい放題でピストン運動をしていた。
が、ふと宗近の体の異変に気が付いた。

「う、う、すげぇぞ、宗近。肉壺がねっとりと絡んできやがる。そんなに嬉しいか? ワシの専属秘書になるのが? ひひひ」
「う、う、くそっ……」

宗近は、自分の体が小刻みに痙攣してしまうのを必死に耐えようとした。
しかし、抗えない。

(畜生! あいつだ! 拓海のせいだ!)

今までどんな屈辱にまみれても、自分の意思の範疇にあった。
それが、拓海と交わり、男同士の気持ちのいいセックスを覚えてしまった体は、全く言う事を聞いてくれない。

相手が憎らしい社長だというのに、自らも気持ちよくなろうと男のモノを積極的に受け入れ求めてしまう。
これでは盛りの付いたメスそのもの。

「くそっ、どうして社長なんかに、くそっ、くそ……」

悔しくて涙が溢れる。

「何だ、宗近。口の割にお前、感じているんじゃないか? ビクビクと小刻みに震えるのがペニスに伝わって来るぞ? そんなにいいか、ワシのは? ガハハ」
「うっ、うっ……」

「それにしてもお前のケツ膣は最高だな。ワシがこんな最高の体をそう易々手放すと思うか? お得意様からもまた是非3Pをって引き合いが多くてな。ヒヒヒ」
「や、やめろ! やめろ!」

泣き叫ぶ宗近。
社長は、構わずに腰を振り続ける。

「泣くほど気持ちいいのか、そうか、そうか。お前は本当に可愛い奴だ。ワシがしっかり調教してやっただけの事はある」

社長は長い舌をベロッと伸ばし、頬を無理矢理舐めた。

宗近は、脚がピーンと張るのを感じた。
メスイキの前兆。
しかも、飛び切り気持ちがいいやつ。

(このままいってはダメだ……)

社長に犯され絶頂を迎えてしまう。
そんな屈辱を味わってしまったら、もう二度と立ち直れない。
今日まで何年もの間、我慢して、我慢して耐え忍んできた全ての事が水の泡になる。

「うっ、うう、ダメだ……い、いきそうだ……誰か、助けてくれ……」
「ほら、いけよ、宗近。安心しろ。今日は特別サービスで何度でもいかせてやるからよ。ヒヒヒ」

「誰か、誰か……」

蚊の鳴くような小さい声。
最後の声を振り絞る。

「拓海……」

(せっかく、お前に出会えたのにな……)

急に、真っ白な世界が宗近を包み込む。

夢の中? 

宗近は手探りで前に進む。

誰かいるのか?

目の前には人影。
よく見れば、それはにっこりと微笑む拓海。
手を伸ばし、宗近の頬を触る。

『宗近……大丈夫だよ』

拓海の手の温もり。
宗近は、その手を取ると、大事そうに自分の頬に押し付けた。

(ありがとう、拓海。最後に会いにきてくれて……)


バコン!


その時、物凄い大きな鈍い音がした。

宗近は、ハッとして我に返った。
と、同時にアナルからヌルッとペニスが抜ける感覚を覚えた。

後ろを振り返ると、そこには……。


「た、拓海!」


ツナギ姿の拓海が、腹を抱えてうづくまる社長を見下ろしていた。

「な、なんでお前が!?」

拓海は、宗近にウインクすると、まぁ待てと唇に人差し指を当てた。
社長の胸ぐらを掴み低い声で言う。

「情報を洗いざらい出せ……」
「情報? 何の事だ?」

「双頭の蛇、と言えば分かるか?」
「な、双頭の蛇だと!? その名をどこで?」

狼狽える社長。
拓海は社長の視線が一瞬壁の絵に向かうのを見逃さなかった。

「オーケー、もう答えなくていいぜ。ゆっくりお休み」

バキッ!

拓海の鉄拳が社長の顔面に炸裂した。
社長は、鼻から盛大に血を吹き出しながらテーブルの上に吹き飛んだ。

拓海は、社長が白目をむいているのを確認すると、自分の手をグッ、パッしながら上下に振った。

「おー、いてて……あーあ、顔は潰れちまったかぁ……まぁ、あまり変わってないからいいか。あははは」

呆気に取られていた宗近だったが、ようやく声を取り戻した。

「拓海、どうしてここに? オレを助けに来てくれたのか?」

拓海は、そんな宗近の声が届いていないかのように独り言を言った。

「……むっ! おー、あった、あった。こんなところにあったのか!」

拓海は壁掛けの絵の後ろから、お目当てのモノ、USBメモリーを探り当てた。
嬉しそうに確認している。

宗近は、このデジャブのような光景に堪りかねて言った。

「おい! 拓海!」
「ん? おー、宗近か、元気だったか?」

明らかにわざとらしい拓海の態度。
宗近は、かっとなった。

「お前な! ふざけるのもいい加減にし……えっ?」

拓海は、怒鳴ろうとしていた宗近にスッと近づくと間近に顔をよせた。
拓海の黒く深い瞳。

その澄んでいる目を見ると、容易に目を逸らすことができない。
拓海にアゴをクイっと持ち上げられた。

「よく分かったな……お前を助けに来た。待たせたな、宗近……」

優しく囁く拓海。
意外な言葉、いや期待していた通りの言葉に宗近の胸は踊った。

そして、そのまま自然に唇が合わさった。

「ん、んん……」

気持ちがすうっと軽くなり、心が安らぎを覚えていく。
宗近は、ゆっくりと目を閉じた。


拓海とキス。
宗近の胸にずっとモヤモヤしていた感情。
その正体が今やっと分かった。

(オレは拓海に恋をしてしまったんだ……)

きっと初恋。
なまじ体で愛し合う事を早くに知ってしまった宗近だったから、気持ちで通じ合う愛を知らずにいたのだ。



長いキス。
やがて、ゆっくりと離れる顔。
半開きの唇から唾液の糸が引く。

もっとキスしていたい。
男らしい精悍な顔。
愛する男の顔。

宗近は、頬をほんのり赤らめて物欲しそうに拓海を見つめた。
まだキスしたりない。

そんな宗近をよそに、拓海は一転して悪戯っ子のような笑顔で言った。

「バーカ! 嘘だよ! お前を助けに来たなんてさ。騙されるなよ、宗近。あははは!」
「な、な、拓海!」

「俺の目当てはコイツさ……この間は見つけられなかったからな」

拓海はUSBメモリを片手に言った。

(……オレはからかわれた)

宗近は顔が真っ赤になっていた。
自分を助けに来てくれた、などという発想自体、悲劇のお姫様気どり。
そして、愛する王子様が……なんて。

(やばい……オレはなんて恥ずかしい事を言ってしまったのだ)

自業自得なのだが、恥ずかしくて、恥ずかしくて仕方ない。
身悶えて体が震える。

「お、お前、ふざけんなよ! 拓海、絶対に許さないぞ!」

宗近は、思いっきり、ポカポカと拓海の胸を叩いた。
拓海は両手を上げて後ずさった。

「痛いって! やめろよ、宗近!」
「うるせぇ! 黙って殴られろ!」

駄々っ子。
拓海は、呆れたように顔をしかめた。

宗近は、そんな拓海の表情を読み取り、しまった、と思った。

このままでは拓海に嫌われてしまう……。

恋を覚えたばかりの臆病な男の姿。
宗近は気が動転し、それで、つい余計な事を口走ってしまった。

「……な、なんだよ! い、いいか! オレはお前のせいで体が変になったんだぞ!」

「ん? どう変になったんだ?」
「え!? そ、それは……」

宗近は、動揺して口ごもった。
目を泳がせて声をうわずらせる。

「お、女のようにだな……」

そこまで言って、恥ずかしさに耐えきれず黙りこくった。
だって、だって、としゅんとして小さくなる。
完全に墓穴を掘ってしまった。

そんな今にも泣き出しそうな宗近に、拓海は微笑みながら、全く別の事を言った。

「でも、良かったよ。宗近は自殺しなかったんだな?」
「へ?」

自己嫌悪で憔悴しきっていた宗近だったが、拓海の思いがけ無い言葉に、ぱぁっと視界が開けたような気がした。

(オレの事を心配をしていてくれた!? 嘘!?)

輝ける未来。
そんな、幸せの予感。

しかし、宗近は喜びの感情は抑えて答えた。

「……ああ、そうだな……まぁ、死んでも仕方ないしな……」

(第一、お前にも会えなくなるしな……)

宗近はモジモジしながら拓海の事を上目遣いでチラッと見た。

「え?」

宗近は驚きで言葉を失った。
拓海は宗近にそっと近づくと、宗近の頭をポンポンと撫でたのだ。

「いい選択をしたな、宗近。いい子だ」

(えっ、そ、そんな……嘘だろ? 頭を撫でてくれるって……褒められたのか、オレ? や、やばい……めちゃめちゃ嬉しい……)

涙が込み上げる。
好きな人に優しくされる。
そんな当たり前の初めての体験に、宗近は心から感動していた。


****


「さてと……じゃあ、俺はこれで……」

拓海は、踵を返した。

「え! 嘘だろ!? もう行ってしまうのか?」

宗近の体はすぐに反応していた。
拓海の腕にしがみつく。

「拓海! まだ、行くな!」

立ち止まる拓海。

宗近は自分の口から出た言葉に驚いた。
でも、言ってからスッキリした。

素直な自分の気持ち。
宗近は勇気を振り絞り続けた。

「……拓海、またオレを抱けよ!!」

一時の間。
宗近は祈るような気持ちで拓海の言葉を待った。

(どうか……神様……)

拓海は、振り向いて言った。

「なぁ、宗近。また俺のコイツをちゃんと悦ばしてくれるんだろうな?」

宗近は一瞬躊躇したが、すぐにニヤッとして言い返した。

「ああ、任せておけよ。前よりももっといい思いをさせてやるって!」

二人、目が合うとニッコリと笑った。
宗近は、心の中で付け加える。

(オレは、お前だけのアイドルになってやるぜ。そして、お前を喜ばせ続ける。拓海、覚悟しろよ!)


****


今度のセックスは、今までとは全く違ったものだった。
宗近にとっては初の体験。

正面から繋がった二人は、互いの目を片時も離さずに愛の営みを続ける。
快楽で潤む瞳。
その瞳にはまた快楽に溺れた自分自身の姿が映っている。

ギュッと握られた手。
合わさる胸、腹筋、乳首。
汗が滴り落ちては混ざり合い、吐く息が交差して喘ぎ声となって心地よく漂う。

体全体で互いを感じ合う。
手から、目から、耳から、そして男の性感帯から……。

(ああ、なんて気持ちがいいのだろう? これが恋人同士のセックス……というのものなのか?)

押し寄せる快感の波。
宗近は、抗うことなく身を任せ漂う。

(幸せだ……オレは今、最高に満たされている……)

拓海は腰の振りを激しくさせた。
それに合わせて、固くておっきい拓海のペニスが体の芯に突き刺さる。

痛い。でも、不思議と不快では無い。
それは、激しい中にも、相手を敬う愛しみが込められている。それが分かるからだ。

だから、その痛みもすぐに快感に変わっていく。
社長によって開発され尽くされたかと思われた体も、まだまだ気持ちよくなれる余地が存分に残っているのだ。

愛する男の手によって性感帯を開拓されていく……。
見知らぬ自分。
新しい自分。

(最高じゃ無いか……くそ! オレはこいつに出会うのが遅すぎた)

宗近は、拓海の唇を貪る。
そして、拓海の体をギュッと抱きしめ、小さなメスイキで悶え狂う体を必死に抑えようとした。

拓海は、宗近の耳元で囁いた。

「なぁ、宗近。俺はもういきそうだ。いっていいか?」

低くてゾクっとするような甘い声。
宗近は答える。

「……ああ、オレもいきそうだ。オレの中に沢山ぶちまけてくれ。お前の思いを全部……」
「分かったよ……ちゃんと受け取れよ」

間もなく二人は絶頂を迎えた。
二人は繋がったまましばらくの間抱き合っていた。
お互いが一つのものになったかのように……。


****


数日後。
宗近は、メディアを通じ所属事務所が廃業した事を知るのだった……。


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