射手の統領

Zu-Y

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射手の統領071 俺の言い分

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射手の統領
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№71 俺の言い分

 朝イチで、ガハマのユノベ副拠から、アベヤのキノベ副拠へ、「3日後にセプト一行が到着するのでよろしく。一行にはタヅナ姫もいる。」との早馬を出した。

 俺たちは朝餉を摂って、家来たちに見送られながら、予定より1日遅れでガハマを発ち、湖船を使って夕刻には西都に入った。
 山髙屋西都支店で、アキナと、山髙屋移動店舗証明書により、西都織の反物と千枚漬を大量に原価で仕入れ、タヅナとキノベ陸運営業所特別優遇利用許可証で、キノベ陸運西都営業所に北斗号を預け、曳馬の世話と補給を頼んだ。
 ここでも補給代は原価だ。証明書と許可証は非常に大きな力を発揮する。この2枚を得るきっかけになった次ノ宮殿下にはしっかり御礼をしないとな。

 営業所近くの宿屋を取って西都ギルドに向かった。西都ギルドで流邏石2個を登録し、アキナとタヅナに渡す。残りは7個か。あとで道具屋に寄って購入しとこう。

 ギルドに入ると、濃紺でお揃いの外套のせいで人目を惹く。受付のチフユが俺たちに気付き、目を丸くした。チフユは受付カウンター内から飛び出して来て、巨乳をプルンプルンさせながら、俺たちに駆け寄って来る。
「よう、チフユさん、久しぶりだな。」と声を掛けた俺の横を素通りして、ガバっとキョウちゃんズをまとめて抱きしめた。
「サキョウちゃん、ウキョウちゃん、お帰り。あー、もう、心配してたのよ。大丈夫?ケガはしてないわよね。しばらく西都でゆっくりするわよね。あら、少し背が伸びたかしら。」
「「ふーちゃん、ただいま。」」
 声を掛けた俺は放置かい!ちょっと切ないなー。泣

「感動の再会に水を差す様で申し訳ないが、サンキさんに取り次いでくれないか?」
「あら?アタルさん、お久しぶり。ちょっと待っててくださいね。」チフユは奥に引っ込んで行った。
「ぞろぞろ行ってもなんだし、皆はホールにいてくれよ。カウンターでなんか頼んで寛いでて。」

 チフユが迎えに来てギルマスルームに案内され、サンキと再会して挨拶を交わした。サンキとチフユに東都土産の佃煮を渡して喜ばれ、チフユが受付業務に戻って行った。
「サンキさん、次ノ宮殿下から聞いたけど、ダイワを懲らしめた件、殿下に取りなしてくれたそうでありがとう。」
「いやいや、大したことあらへん。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。この仕草、相変わらずだ。笑

「俺たちはこれからトリトへ橙土龍攻略に向かう。」
「聞くところによると、橙土龍はトリトの大砂丘を根城にして、最近ちょくちょく暴れてるそうやで。目撃情報も仰山あるで。」
「暴れてると言うと?」
「地震を起こしよるんや。あの辺一帯の民は難儀しとるようやな。」
「明日出発して、トリトには5日で着く予定だ。着いたら数日で狩ってやる。民はそれまでの辛抱だ。」
「そら頼もしいの。でも今回は寝込みを襲う訳やない。油断したらあかんで。」
「忠告ありがとう。確かにその通りだ。油断は禁物だな。」

「ところでな、キョウちゃんズは元気にしとるか?」
「ああ、相変わらず元気一杯だぞ。ただ、何かの拍子に不安になるようでな。そういうときは、涙ぐんでまとわり付いて来るな。」
「さよか。わしもチフユも心配しとったんやが、元気にしとるならまずはひと安心やな。まぁ、たまに不安になるときがあるんはしゃーないやろ。」
「チフユさんと言えば、さっき俺たちがギルドに到着するなり、キョウちゃんズを抱き締めて来たぞ。」
「まぁ、そのくらい心配しとったっちゅーこっちゃ。
 ところでの、頼まれてた件やが、先日オミョシ分家の権座主が来よったで。これを預こうとる。」
 サンキは、金貨2枚を出した。

「なんだこれは?」
「ふたりが世話になっとった費えやそうや。」
「こんなの受け取れる訳ないだろ。」
「やはりの、アタルならそう言うと思うとったわ。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
「当然だ。」俺はむっとして腕を組んだ。

 サンキは、机の引き出しから、何やらメモのようなものを取り出した。
「権座主の言い分や。落ち着いて最後まで聞くんやで。
 えーっとな『古来よりのオミョシの掟やさかい、家来どもの手前もあるよって、勘当の体にはしたのやが、勘当にする気など毛頭あらへん。これを機に武者修行させるつもりやった。西都では、護衛に影の者も付けておったし、ギルマスのサンキはんにも内々に頼んどったのがその証や。
 此度、ユノベはんの元におれば、陰陽士になれる言う話をシエンから聞き及び、西都に上がってサンキはんから陰陽士になる詳細な条件を聞かせてもろた。誠に残念やが、この条件では陰陽士にはできん。ふたりの嫁ぎ先はすでに決めておるよって、早々にお返し願いたい。
 些少ではあるが、この間の費えを用意したよって、これで穏便に納めとくなはれ。』と、まぁ以上や。伝えたで。」

「今更、よくも抜け抜けと。」
「しかしなぁ、断ると拗れるで。」
「構わんよ。もともと橙土龍を攻略した帰りにはアーカに寄って、権座主をぶん殴ってやるつもりだったからな。」
「また、そないなことを。本気やないやろ?」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
「逆に聞きたいが、オミョシ分家は本気なのか?ユノベは、トノベ、ヤクシ、タテベ、キノベと同盟しているんだぞ。さらに山髙屋も提携している。しかもただの同盟や提携ではない。分家は本家の了解を取り付けているのか?5武家と山髙屋相手に拗れたら、本家は手を引くんじゃないか?分家は孤立するぜ。」
「さぁ、どうやろの?」

「受け取るつもりはなかったが、この金貨2枚は預かる。トリトの帰り際に、アーカに乗り込んだときに、権座主の面に叩き付けてくれるわ。」
「アタル、ちょっと冷静になりぃな。」
「サンキさん、俺は冷静だぜ。冷静に分析して負ける戦じゃないと踏んでるのさ。徹底的に分家を壊滅させて、権座主の首を取るか、助命しても遠流にすれば分家はどうなる?」
「シエンが継ぐやろの。」
「そうだ、そして俺はシエンとは仲がいい。しかもシエンはシスコンで、そのふたりが俺の手元にいるのだぞ。権座主を除けば、シエンが継いで、オミョシ分家も最終的にはユノベの同盟に入ることになろうよ。」
「そう思い通りに行くかの?」

「さあな。思い通りに行くか、と言えば、権座主はサキョウとウキョウを政略結婚に使うつもりのようだが、それはもう思い通りに行かんぞ。」
「なんやて?アタル、お前まさか?」
「すまんな。俺はロリコンの性癖に目覚めてしまったようだ。サキョウとウキョウのせいだな。」
「おのれは鬼畜か?」サンキが激怒して立ち上がった。
「サンキさん、ちょっと冷静になりぃな。」俺は先程のサンキの台詞と口調を真似た。
「なんやと!…けっ。小憎らしいほど肝が据わっとるやないか。」

「まぁ考えてもみろよ。ふたりは物凄くかわいいのだぞ。それが向こうから俺の布団に潜り込んでくるのだ。ふたりが幼児体型のうちは見向きもしなかったんだがな、初潮を迎えてから背も伸びて来たし、丸みが出て来てな。
 俺はもともとチフユのような巨乳は好まん。小振りが好きなのだ。俺の大人嫁たちを見れば分かるだろう?今のふたりは、俺には、どストライクとまではいかないが、十分守備範囲だ。
 しかもふたりは、俺の大人嫁たちに手ほどきを受けてな、ドラゴンのあしらいが上手いのだ。マイドラゴンもすっかりふたりに懐いておる。」
「ド、ド、ド、ドラゴンやと?この外道が、抜け抜けとよう言いおったな!それを聞いたらシスコンのシエンは何と言うやろの!」
「陰陽士になるためにふたりが選んだ結果だ。嫁に迎えて男としての責任は取る。と言ってやるだけだな。」

「話にならんがな!わしを敵に回したら、公家衆が敵に回るで?その覚悟はあるんか?」
「おいおい、公家は何があっても帝家を守るのが本分だろう?俺は権座主と事を構えるが、帝家との関係は頗る良好だぞ。次ノ宮殿下には、サキョウもウキョウもすでに俺の嫁として紹介しているからな。分家に肩入れし過ぎるとサンキさんこそ、公家衆から浮くぞ?大丈夫か?」
「なんでわしが、お前から心配されにゃならんのや!」
「そりゃ、俺がサンキさんに世話になってるし、サンキさんのことを、一目置いているからなんだがな。言っとくが、俺の敵は分家ではなく、権座主だけだ。シエンは味方だし、サンキさん、あんたも味方だ。」
「くー。抜け抜けとほざきよったわ。」

「なぁ、権座主に言ってくれよ。ふたりはあきらめろとな。俺にベタ惚れだぜ。その原因を作ったのは権座主の勘当だ。勘当されて、まわりからもろくな扱いされないで、不安でどうしようもないときに、たまたま俺はふたりを高く評価した。それからというもの、俺にベッタリだ。
 分家で欠点とされた単一能力も俺は高く評価したし、その上、ライとウズから陽の術の才能があると言われ、陽の術を得る代償が俺から抱かれることだと言われたんだぞ。陰陽士になって分家を見返したい。そのためには何でもやる。と思うのは想像に難くない。
 どこに嫁がせるつもりだったかは知らんが、ふたりが俺の嫁になったことを利用してユノベと組んだ方が得だと言ってやれ。こちらからの条件はひとつ。権座主が隠居し、シエンに跡を取らせることだ。隠居と遠流とどちらがいいか、権座主に聞いてみよ。」
 サンキの表情から怒りが徐々に引いていく。合点がいったのだろう。

「ふぅ、敵わんなぁ。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
「まぁよろしく頼むわ。俺がアーカに行ったとき、権座主が隠居してなかったら俺はとことん暴れるぜ。そしたら権座主はよくて遠流、悪けりゃこれだ。」
 俺は首を切る仕草をした。
「そりゃ無茶やで。時間がないわ。」
「ダイワも最初はそう言ったな。それで古都ギルドの壁と宝物殿の外塀がああなったんだがな。結局、俺の要求した時間内に、金剛鏑をきっちり用意したぜ。用意できなかったら、宝物殿はなくなってただろうよ。」
「ほんま、容赦なさ過ぎやで。」

「サンキさん、いろいろ世話を掛けるな。権座主には、とっとと隠居しろと引導を渡してやってくれ。掟に縛られて本質を見抜けぬ無能に、権座主は荷が重かろう。率いられる家来衆がいい迷惑だ。」
 サンキは大きく溜息をついてソファーにどっぷり身を沈め、片手を上げた。了承の意味だろう。

 ちなみに、俺はキョウちゃんズを抱いた。とはひと言も言ってない。サンキがそう思うように仕向けはしたがな。笑
 ついでに言うと嘘もまったくついてない。
 ・俺はロリコンの性癖に目覚めてしまったようだ。
 ・ふたりは物凄くかわいいのだぞ。
 ・向こうから俺の布団に潜り込んで来るのだ。
 ・幼児体型のうちは見向きもしなかったんだがな、
 ・俺はもともとチフユのような巨乳は好まん。小振りが好きなのだ。
 ・ふたりはドラゴンのあしらいが上手いのだ。
 ・俺のドラゴンもすっかり懐いておる。
 これらは、全部本当のことだ!ちなみにロリコンについては、「ようだ」を付けたので、後から実は違うと主張しても差し支えはない!
 さて、権座主はどう出るか?
 俺は、金貨2枚を受け取ってギルマスルームを後にした。

 ホールに戻ると、嫁たちは1つのテーブルを囲んでお茶していた。
 皆でギルドを出て、装備屋に向かう。サジ姉の装備をもう一式追加するためだ。薬師の杖と典医の薬嚢を購入した。高級装備なので、大金貨2枚とかなり値は張るが、必要経費だ。
 今までの薬師の杖の握皮は白だったので、新しい薬師の杖の握皮は黒にしていた。回復の白に状態異常の黒、イメージぴったりだ。典医の薬嚢の口紐も、白と黒で色分けした。
 薬の入れ替えと整理は、宿に戻ってからするそうで、サジ姉は頗るご機嫌だ。笑

 その後、道具屋にも立ち寄って、流邏石20個を購入した。

 夕餉は満場一致で西都懐石になった。以前、チフユに紹介してもらった西都懐石の店を再び訪れると、女将が俺たちを覚えていたのには驚いた。
 座敷に通され、西都懐石を堪能する。出汁を効かせて素材の旨味を引き出す西都懐石は、よく薄味と言われるが、決してそうではない。色が薄いのと味が薄いのを、よく知りもしない連中が混同しているだけだ。
 そして西都懐石には和酒が合う。酔い潰れない程度に、皆で軽く呑んだ。

 夕餉の最中に、俺が今日のサンキとのやり取りを、皆に詳しく語って聞かせた。もちろんキョウちゃんズにもだ。
「その言い方だと、サンキどのはアタルがキョウちゃんズに手を付けたと誤解しているだろうな。それがそのまま権座主に伝わるな。」
「誤解するように仕向けたのだ。ただし俺は、抱いたとか手を付けたとかは一切言ってないし、嘘も言ってないからな。これで、ふたりを政略結婚に使うのはあきらめるだろうよ。」

「勘当と言っておいてぇ、実は武者修行だったとかぁ、政略結婚に使うから返せとかぁ、随分身勝手な言い分よねぇ。」
「その通りだ。権座主の真意はどうでも、この間、サキョウとウキョウがとても辛くて心細い思いをしてきたことには変わらぬ。」
 食事の際の定位置で、俺の隣にいたキョウちゃんズが、左右からギュッと俺の手を握ってきたから、握り返してやった。
「お金で…片を…付けようと…する…心根が…嫌い…。」
「そうだな。この金は、橙土龍の攻略後にアーカの分家本拠に乗り込んで、権座主の面に叩きつけてくれるわ。」

「しかし、権座主は素直に隠居するでしょうか?」
「しなければ分家を叩き潰すまでだ。派手に暴れてやろうぜ。そして権座主は遠流だ。
 シエンに、無傷の分家を継がせるのとボロボロの分家を継がせるのとどちらがいいか、そして自分自身は隠居と遠流のどちらがいいか、権座主も冷静に考えたら分かるだろうよ。」
「アタル、本気でやるのね?」
「ああ、やるよ。俺は身内のためなら何でもやる。」
「「身内!」」キョウちゃんズが眼をキラキラさせている。か、かわいい。
「ああ、サキョウもウキョウも大事な身内だ。ここにいる皆もな。」

 その後、宿に帰った。俺は外に抜け出し、首からぶら下げている小さな笛を取り出して吹く。音は鳴らない。しばらく待つと3人の忍の者が現れ、片膝をついた。
「これに。」
「いつも陰ながらの護衛、大儀。
 此度、オミョシ分家の権座主と事を構える。権座主を隠居させ、世継のシエンに継がせるよう、西都ギルマスのサンキを通して圧力を掛けた。
 ついては、世継のシエンへの密使を頼みたい。アーカにいると思う。文はなし。口伝でな。権座主は影の者を使うが、密使は可能か?」
「私が。」ひとりが前に出た。可否の返事はせずに、自分が行くと言う。実に頼もしい。俺は、その忍の者に侵入のための工作費も含めて金貨5枚を渡した。

「では口上だ。『水と土のふたりは元気だが、ときどき権座主の仕打ちを思い出して泣く。俺は権座主とは徹底的に敵対するが、シエンが継いだら同盟を所望。俺の目的は権座主の隠居。10日後、俺がアーカに行くまでに、権座主を隠居させ、シエンが継いでることを期待する。』以上だ。」
 そのひとりは復唱して、姿を消した。

「先程も言ったように、権座主は影の者を使う。サキョウとウキョウはもちろんだが、他の嫁の護衛も厳重に頼む。もし、さらいに来たら、忍の者と影の者で同士討になる前に、なんとか相手を引かせるよう取り計らってくれ。」
「お気遣いは無用。」
「シエンが継げば、影の者も味方になるのだ。」
「承知。」
「すまぬ。世話を掛ける。」俺は警戒厳重化の資金として大金貨2枚を渡した。残っていたふたりは、無言のまま一礼して姿を消した。

 まさか忍の者を直接使うことになるとはな。忍の者の存在は知ってはいたが、正式に統領が内定してから、代行の叔父貴たちより引き合わされた。
 直接使うときは忍笛を用いる。吹くと、超音波という人には聞き取れない高音が出るそうで、忍の者が持っている忍耳という道具が超音波に共鳴して振動する仕組みだそうだ。
 正直、忍笛を吹いて、忍の者が現れるまでは半信半疑だったが、心強い味方がいることに安心したな。

 アタルは部屋に戻ると、キョウちゃんズが一緒に寝てくれと言う。夕餉の際にオミョシ分家の話が出たので、勘当からの辛い期間を思い出したのだろう。昨夜に見せた妖艶な大人の顔とは打って変わって、今夜は心細げな子供の顔をしている。
 大人嫁たちも頷いたので、左右に寝かせて両腕でふたりを抱え込み、頭を撫ぜ続けていると、じきに寝息に変わっていたが、ふたりとも涙ぐんでいた。

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設定を更新しました。R4/6/5

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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