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しおりを挟む夜会の会場に到着した。
規模としては中程度のもので、騎士団の関係者が多く出席しているという。
武家と名高いプライセル公爵家の令嬢として、騎士団関係者と縁を結ぶことが必要だということで、参加が決まったらしい。
祖父と母親もそれぞれ別の夜会に少しだけ顔を出してから、こちらに来るということだ。
エリアーシュのエスコートを受けてダンスホールへと移動する。
ちょうど曲が始まろうとしたところで、エリアーシュがセシリアを見た。
「踊っていただけますか?」
「えぇ、もちろん」
微笑みを交わし合うと、ダンスの輪へと加わった。
すぐに曲が始まる。
「練習したの?」
「母親相手にね。スパルタだったよ」
ふざけて尋ねた言葉には、苦笑が返る。
セシリアの母曰く、騎士団長を尻に敷くオフィリア子爵夫人は、特に男性相手に厳しい人らしい。
性格上、軟弱な男が嫌いなのよ、と母は笑って言っていたが。
「だから大丈夫、絶対に足を踏まないから」
「そんなこと心配してないわ。上手よ、とっても」
「お世辞でもうれしいな」
ふざけたことを話しながらも、セシリアの心臓は激しく跳ね回っていた。
無言だったら余計に緊張していただろうから、このふざけた会話もありがたい。
下からちらりと見上げると、エリアーシュと目が合う。
数秒見つめ合って、どちらからともなく、ぎこちなく視線を逸らした。
セシリアは頬に熱が集まるのを感じながら──相手の頬にも朱が差したように見えたのは見間違いだろうかと、悶々としていた。
そして、そうじゃなかったらいいと、こっそりと願った。
長かったようで短い曲が終わり、二人はホールの端の方に寄った。
どちらも何も口を開けなくて、しばらくむずがゆい沈黙が流れる。
「おっ!エル!」
そんなところに、声がかかった。
同じくらいの年頃の青年たちのグループの一人だった。
「ちょうどよかった!あの話だけど──お?どうしたんだよ、そんな美人と!」
「なにぃ⁉︎」
その言葉に、談笑していた他の青年たちが一斉に振り向く。何やら一気に騒がしくなった。
それを見てエリアーシュが苦々しそうな顔になる。
「⋯⋯ごめん、セシリア。ちょっと話してくる」
「大丈夫よ。私も友人を捜そうと思っていたから」
それは本当だ。
騎士を婚約者にもつマルティナも、この夜会に参加するらしいと聞いていたのだ。
エリアーシュはひどく不服そうな顔で、同僚らしき騎士たちの方に行ってしまった。
その際に何やらはやし立てられており、珍しくもエリアーシュが声を荒げていた。
それで彼らは黙ったものの、今度はセシリアの方にチラチラと意味ありげな視線を送ってくる。
結局、エリアーシュがあっちで話そうとばかりに、彼らの背中を押してどこかに連れ去ってしまった。
その様子を、セシリアは微笑ましく眺めていた。
エスコートやら何やら、完璧以上にしてしまうエリアーシュの年相応な面を見られた気がして、うれしかったのだ。
その後ろ姿を見送り、さて自分もマルティナを捜そうかと歩き出そうとしたときだった。
「──あの、セシリアさま」
ふとかけられた声に、振り向いた。
その先、自分よりも少し年下の少女が胸元に手を当てながら立っていた。
「⋯⋯お話があるのですが、少しだけよろしいでしょうか?」
少女──アイリス・ティレット伯爵令嬢は、ひどく緊張した面持ちでそう告げた。
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