【完結】断罪を終えた令嬢は、まだ恋を知らない。〜年下騎士から好意を向けられている?対処の仕方がわかりません⋯⋯。

福田 杜季

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それから二度、エリアーシュとセシリアは"デート"をした。

まずは前回行き損ねた古本屋に行き、もう一度あの行商人夫婦の店に行った。
今度は夫婦で出迎えてくれて、試飲という名目のもと、珍しい茶葉で淹れた紅茶を何杯かご馳走になった。

帰り際、エリアーシュはセシリアの気づかぬ内に買ったらしい小物を贈ってくれた。
中心に向かって濃くなる深い青のガラスには、星空を閉じ込めたように金銀の粉が舞う──とても美しいガラス製のペーパーウェイトだった。
セシリアは一目で気に入って、自室の机の上に飾っている。
勉強で疲れたとき、落ち込んだときは、そのガラスを光に透かして眺めると、不思議と心が落ち着くのだ。

次の"デート"は、観劇に行った。
エリアーシュがチケットを取ってくれたもので、演目はもともと小説として刊行されたものを劇化したものだ。
いつぞやの手紙で、セシリアはその小説がおもしろかったことに触れていたのだ。エリアーシュは覚えてくれていたものらしい。

一つひとつは小さなことだ。
それでも、それが何度も積み重なることで、エリアーシュはセシリアの胸中をあたたかな何かで満たしてくれる。

セシリアとエリアーシュは、そうやって交流を続けていた。



「──お母様、変ではありませんか?」

あっという間に半月後の夜会当日を迎え、セシリアは鏡の前で何度も回るだけでは足りず、わざわざ母親であるシンシアのもとに赴いて感想を求めた。

「愚問ね。とっても素敵よ、セシリア」

にっこりと笑って言ってくれたその言葉で、やっと少し安心できた。
本日のドレスは、夜空色の布地に金の刺繍が入ったとっておきのものだ。胸元には母から譲り受けたブルーダイヤモンドの首飾りが輝く。

「エリアーシュは屋敷まで迎えに来てくれるの?」
「はい。そこまでしなくてもいいと断ったのですが⋯⋯」
「ふふ。随分と大切にされているのね」
「えっ⋯⋯!」

楽しそうに笑うシンシアの一言に、セシリアの頬に朱が走る。
あまりにわかりやすいその反応に、母の笑みが深まった。

「あら、図星?」
「エ、エルが来るかもしれないのでもう行きます」
「まぁ!もう愛称で呼んでいるの?いいわねぇ~」
「し、失礼します!」

これ以上長居してもボロを出すだけだと、早々に撤退を選択する。
後ろからシンシアがまだ何かかしましく騒いでいる声が聞こえたが、気持ちの上で耳に蓋をした。


「──おや、お嬢様。まだお時間には早うございますが」
「し、支度が早く終わったのだけれど、部屋で待つのはなんだか落ち着かなくて」

迎えの到着に備えて玄関ホールに待機していたらしい老執事が、セシリアに気づいて声をかける。
彼女が逃げてきたように慌てていたことには、気づいただろうが触れないでくれた。

「左様でございますか。では、お約束の時間には少々早いですが、そういうことならお呼びいたしましょうか」
「呼ぶって⋯⋯何を?」

今回の夜会へは、エリアーシュが子爵家の馬車で迎えに来て、そのまま一緒に行くのだ。公爵家の馬車を呼ぶ必要はない。

「いえ、どうやらお時間まで待ち切れなかった方がもうお一方いらっしゃるようですので」
「⋯⋯どういうことかしら?」
「いえいえ、独り言でございます」

からからと笑った老執事は、何やら従僕に声をかける。
かけられた従僕は、外に出て行ってしまった。

しばらくすると馬の蹄と車輪の音がして、出て行った従僕が正面の玄関扉を開けて戻ってきた。
彼に続いてこの半月ですっかり見慣れてしまった青年も入ってくる。

「申し訳ありません。約束の時間には少し早かったのですが⋯⋯」

夜会服に身を包んだエリアーシュだった。
ここしばらくは平民と変わらない簡素な格好だったため、華やかなその姿にセシリアは思わず見惚れた。
彼もそんな彼女に気づき、微笑みながら近づいてくる。

「お迎えにあがりました、セシリア嬢。今宵の貴女は、夜の女神もかくやとばかりに本当にお美しいですね」
「お、大げさです」
「そんなことありません。貴女をエスコートできるだなんて、本当に光栄です」

本当に大げさすぎると思うのだが、エリアーシュは至って真面目にそう言うのだ。どうしても頬が熱くなる。
エリアーシュに促されて、差し出された手に手を重ねた。

「お嬢様をお預かりいたします」
「行って参ります」
「いってらっしゃいませ」

いつの間にやら集まってきていた使用人たちが見送ってくれる。
そんな中、老執事がにっこりと笑って、何やらエリアーシュにこそこそ耳打ちしていた。


「次からは、早くお着きになっても外でお待ちになどならず、すぐお越しになってください。おもてなしさせていただきますので」
「⋯⋯やはり気づかれていたか。いや、どうにも気が急いてしまって⋯⋯次はもっと落ち着いて来よう」

二人がそんなやりとりをしていたことなど、セシリアは知らなかった。
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