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過去を乗り越えて
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今日で私は二十歳になった。
これで堂々とバーに行ける。
何度か深呼吸して、『ダークムーン』の木製のドアに手をかけた。
「こんばんは!」
ドアベルが鳴り、一歩足を踏み入れるとカウンターの席に三人の男性が座っていた。
その中の一人はよく知っている後ろ姿で思わず顔をしかめた。
でも、それは一瞬だけ。
私は嬉々としてバーの中へ入って行った。
背後から近付いてくる気配に気づいたのか、その人は振り返って一言。
「ゲッ。梨音……」
私の姿を視界に捉えると、あからさまに嫌そうな顔をした。
妹の顔を見てその反応はないでしょ。
というか、私も顔をしかめたのでお互い様か。
まあ、兄妹ってそんな感じだよね。
「あれ?梨音は響也からここ出入り禁止って言われてなかったっけ?」
バーのカウンターの中に立っていた顎髭のバーテンダーの朔ちゃんが首を傾げる。
響也とは、私の五歳上のお兄ちゃん。
バー、『ダークムーン』は、お酒を提供するので未成年は出入り禁止だとお兄ちゃんに言われていた。
いとこがいるんだし、お酒を飲むわけじゃないのにって反抗したんだけど、鬼兄は許してくれなかった。
『言うこと聞かないと親父たちにチクるぞ』なんて脅されて、渋々それを受け入れて我慢していた。
でも、今日は違う。
私は得意気な顔をしてお兄ちゃんに言い放つ。
「ふふん。私、今日で二十歳だからここに来るの解禁だもん。ということで、朔ちゃん。カシスオレンジちょうだい」
もう未成年だから出入り禁止なんて言わせない!
いつにも増して強気な私は、前から気になっていたお酒の名前を口にした。
「そうか、今日が誕生日か。おめでとう」
朔ちゃんに笑顔で言われ、顔が綻ぶ。
「ありがとう」
誕生日におめでとうと言ってもらえるのは嬉しいものだ。
「梨音、もしかしてまだ諦めてなかったのか?」
「そうみたいだな」
ため息をつきながらお兄ちゃんが隣に座っていた人に話しかけると、その人は苦笑いする。
「諦める訳ないでしょ」
「俺は断ったと思うんだけど……」
「でも、昴くんは私が二十歳になったら考えてくれるって言ったよ」
「お前、梨音にそんなこと言ったのかよ」
お兄ちゃんは呆れたように言うと、その人は首を傾げた。
「言ったかな?」
「言ったよ!」
思わず、大きな声を出してしまう。
私は十六歳の時、電車で見かける同い年ぐらいの人に恋をした。
だけど、私の初恋は告白する前にあっけなく散った。
なぜなら、その男性の彼女がいるという事実を偶然知ったからだ。
その時のことを教訓に、次の恋は全力で気持ちをぶつけていくと決めていた。
そして、私は二度目の恋をした。
その相手とは、槙田昴くん。
お兄ちゃんの友達だ。
今日で私は二十歳になった。
これで堂々とバーに行ける。
何度か深呼吸して、『ダークムーン』の木製のドアに手をかけた。
「こんばんは!」
ドアベルが鳴り、一歩足を踏み入れるとカウンターの席に三人の男性が座っていた。
その中の一人はよく知っている後ろ姿で思わず顔をしかめた。
でも、それは一瞬だけ。
私は嬉々としてバーの中へ入って行った。
背後から近付いてくる気配に気づいたのか、その人は振り返って一言。
「ゲッ。梨音……」
私の姿を視界に捉えると、あからさまに嫌そうな顔をした。
妹の顔を見てその反応はないでしょ。
というか、私も顔をしかめたのでお互い様か。
まあ、兄妹ってそんな感じだよね。
「あれ?梨音は響也からここ出入り禁止って言われてなかったっけ?」
バーのカウンターの中に立っていた顎髭のバーテンダーの朔ちゃんが首を傾げる。
響也とは、私の五歳上のお兄ちゃん。
バー、『ダークムーン』は、お酒を提供するので未成年は出入り禁止だとお兄ちゃんに言われていた。
いとこがいるんだし、お酒を飲むわけじゃないのにって反抗したんだけど、鬼兄は許してくれなかった。
『言うこと聞かないと親父たちにチクるぞ』なんて脅されて、渋々それを受け入れて我慢していた。
でも、今日は違う。
私は得意気な顔をしてお兄ちゃんに言い放つ。
「ふふん。私、今日で二十歳だからここに来るの解禁だもん。ということで、朔ちゃん。カシスオレンジちょうだい」
もう未成年だから出入り禁止なんて言わせない!
いつにも増して強気な私は、前から気になっていたお酒の名前を口にした。
「そうか、今日が誕生日か。おめでとう」
朔ちゃんに笑顔で言われ、顔が綻ぶ。
「ありがとう」
誕生日におめでとうと言ってもらえるのは嬉しいものだ。
「梨音、もしかしてまだ諦めてなかったのか?」
「そうみたいだな」
ため息をつきながらお兄ちゃんが隣に座っていた人に話しかけると、その人は苦笑いする。
「諦める訳ないでしょ」
「俺は断ったと思うんだけど……」
「でも、昴くんは私が二十歳になったら考えてくれるって言ったよ」
「お前、梨音にそんなこと言ったのかよ」
お兄ちゃんは呆れたように言うと、その人は首を傾げた。
「言ったかな?」
「言ったよ!」
思わず、大きな声を出してしまう。
私は十六歳の時、電車で見かける同い年ぐらいの人に恋をした。
だけど、私の初恋は告白する前にあっけなく散った。
なぜなら、その男性の彼女がいるという事実を偶然知ったからだ。
その時のことを教訓に、次の恋は全力で気持ちをぶつけていくと決めていた。
そして、私は二度目の恋をした。
その相手とは、槙田昴くん。
お兄ちゃんの友達だ。
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