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過去を乗り越えて
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立花さんに偽装恋愛解消を告げてから一ヶ月が経とうとしていた。
自分から言い出したくせに、ことあるごとに立花さんのことを思い出していた。
毎日のようにやり取りをしていたメッセージがなくなった。
私の部屋でご飯を食べたり、お弁当を作ることもなくなった。
それが寂しいと思ってしまう自分自身に嫌気がさす。
何をするにも張り合いがなく、心にポッカリと穴が開いたみたいだ。
偽装恋愛する前の自分は何をやっていたのか思い出せないぐらい、立花さんは私の生活の中に入り込んでいた。
そんな状態だったので会社で立花さんに会ったらどうしようなんて思っていたけど、その心配は全くなかった。
というのも、今、立花さんは海外にいる。
立花さんの前の部署、海外事業部のヘルプで三週間ほど海外出張に行っているらしい。
医務室での出来事の翌週、用事がありドキドキしながら営業部に行くと立花さんの姿がなかった。
ふとホワイトボードに目を向けると、立花さんのところには海外出張の出発日時などが書かれていた。
それを見ると、私との偽装恋愛を解消してすぐに海外に行ったことになる。
「……ん、梨音てば!」
「へっ?」
「何度も呼んでるのに上の空なんだけど。どうかしたの?」
呼ばれたことにも気がつかずに考え事をしていたので、舞が心配そうに聞いてくる。
「ごめん、ごめん。ちょっと考え事してた」
謝罪し肩を竦めた。
今日は舞と『ダークムーン』に来ていた。
舞が深刻な感じで『話がある』と連絡してきたのは木曜日。
土曜の夜ならお互いに時間が作れるので会う約束をした。
以前、舞に好きな人が出来たという話を聞いていたので、きっとそのことなのかな?とうっすら思っているんだけど。
「で、今日はどうしたの?」
「あのね、この前……好きな人が出来たって言ってたでしょ」
「うん」
「それでね、その人と付き合うことになったの」
頬を赤らめ恥ずかしそうに言う舞がすごく綺麗に見えた。
いや、実際も綺麗なんだけど。
それより親友のおめでたい話に私まで嬉しくなる。
「そっか。おめでとう!相手はどんな人が聞いてもいい?」
「同じ会社で働いている人で……名前は槙田昴さんて言うの」
舞は一度躊躇した後、静かにその名前を言った。
え、今なんて言った?
聞き覚えのある名前に言葉を失った。
そんな偶然はあるわけないよね。
もしかしたら同姓同名かも知れない。
きっとそうだ、と自分に言い聞かせていたら舞が申し訳なさそうな表情で口を開く。
「梨音、ごめんね」
「どうして謝るの?」
「だって……」
そう言って舞は口ごもる。
何で舞が謝罪の言葉を口にするのか、私には理解できなかった。
その時、ハッと気が付いた。
もしかして、舞は私と昴くんのことを知っているんだろうか。
ドクリと心臓が嫌な音を立てる。
動揺しているのを悟られないよう平静を装いながら確認のために口を開いた。
「舞、もしかして私と昴くんのこと……知ってるの?」
私の問いかけに舞は唇をキュッと噛み、静かに頷いた。
やっぱりそうなんだ。
槙田昴……懐かしい名前に様々なことが蘇ってくる。
私は、二十歳の誕生日に起こった出来事を思い出していた。
自分から言い出したくせに、ことあるごとに立花さんのことを思い出していた。
毎日のようにやり取りをしていたメッセージがなくなった。
私の部屋でご飯を食べたり、お弁当を作ることもなくなった。
それが寂しいと思ってしまう自分自身に嫌気がさす。
何をするにも張り合いがなく、心にポッカリと穴が開いたみたいだ。
偽装恋愛する前の自分は何をやっていたのか思い出せないぐらい、立花さんは私の生活の中に入り込んでいた。
そんな状態だったので会社で立花さんに会ったらどうしようなんて思っていたけど、その心配は全くなかった。
というのも、今、立花さんは海外にいる。
立花さんの前の部署、海外事業部のヘルプで三週間ほど海外出張に行っているらしい。
医務室での出来事の翌週、用事がありドキドキしながら営業部に行くと立花さんの姿がなかった。
ふとホワイトボードに目を向けると、立花さんのところには海外出張の出発日時などが書かれていた。
それを見ると、私との偽装恋愛を解消してすぐに海外に行ったことになる。
「……ん、梨音てば!」
「へっ?」
「何度も呼んでるのに上の空なんだけど。どうかしたの?」
呼ばれたことにも気がつかずに考え事をしていたので、舞が心配そうに聞いてくる。
「ごめん、ごめん。ちょっと考え事してた」
謝罪し肩を竦めた。
今日は舞と『ダークムーン』に来ていた。
舞が深刻な感じで『話がある』と連絡してきたのは木曜日。
土曜の夜ならお互いに時間が作れるので会う約束をした。
以前、舞に好きな人が出来たという話を聞いていたので、きっとそのことなのかな?とうっすら思っているんだけど。
「で、今日はどうしたの?」
「あのね、この前……好きな人が出来たって言ってたでしょ」
「うん」
「それでね、その人と付き合うことになったの」
頬を赤らめ恥ずかしそうに言う舞がすごく綺麗に見えた。
いや、実際も綺麗なんだけど。
それより親友のおめでたい話に私まで嬉しくなる。
「そっか。おめでとう!相手はどんな人が聞いてもいい?」
「同じ会社で働いている人で……名前は槙田昴さんて言うの」
舞は一度躊躇した後、静かにその名前を言った。
え、今なんて言った?
聞き覚えのある名前に言葉を失った。
そんな偶然はあるわけないよね。
もしかしたら同姓同名かも知れない。
きっとそうだ、と自分に言い聞かせていたら舞が申し訳なさそうな表情で口を開く。
「梨音、ごめんね」
「どうして謝るの?」
「だって……」
そう言って舞は口ごもる。
何で舞が謝罪の言葉を口にするのか、私には理解できなかった。
その時、ハッと気が付いた。
もしかして、舞は私と昴くんのことを知っているんだろうか。
ドクリと心臓が嫌な音を立てる。
動揺しているのを悟られないよう平静を装いながら確認のために口を開いた。
「舞、もしかして私と昴くんのこと……知ってるの?」
私の問いかけに舞は唇をキュッと噛み、静かに頷いた。
やっぱりそうなんだ。
槙田昴……懐かしい名前に様々なことが蘇ってくる。
私は、二十歳の誕生日に起こった出来事を思い出していた。
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