君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~

松本ユミ

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「どうぞ」

「お邪魔します」

ソワソワしながら玄関に足を踏み入れる。
靴を脱ぐと副社長が用意してくれたスリッパを履いて玄関から真っ直ぐに伸びた廊下を歩く。

リビングに通され、私は視線を巡らせた。
広々とした空間にはモノトーンで揃えられた家具、高級そうなソファにはワイシャツやネクタイなど無造作に置かれている。
これって脱ぎ散らかしているってこと?
唖然として一瞬、固まってしまった。

「あ、ごめん。片付け苦手なんだよね」

気まずそうにソファに置いていた服を手に抱える。
散らかっている部屋や応接室を見た限り、副社長は片づけが苦手っぽいから、社長は副社長のお世話を頼んだんだろう。

さすがデザイナーということもあり、部屋のインテリアとかお洒落でスタイリッシュだ。
壁にはセンスのいい絵画が飾られているけど、こんなに散らかっていてはもったいない。
今日は下見と言われていたけど、この状況を見たらやらざるを得ない。
ここへきて使命感がふつふつとわいてきた。

「あの、とりあえず洗濯してもいいですか?」と言って副社長に許可を取り、私は動き出した。

さっき、副社長が抱えていた服を受け取る。
シャツや靴下は洗濯できるけど、ワイシャツとかはクリーニングに出した方がいい。
私の下手くそなアイロンを披露するわけにはいかないので、洗濯するものとクリーニングに出すものと分けていく。

洗面所に行くと、ドラム式の乾燥機一体型の洗濯機が置かれていた。
高層マンションは外観が損なわれるとかで外に洗濯物が干せないのかな。
靴下やシャツ、タオルなどを洗濯機に入れた。

「ワイシャツは帰るときにクリーニングに出しますね」

「いや、こっちで出すから大丈夫だよ。フロントのスタッフに預ければいいから」

「そうなんですね」

さすが高級マンション、至れり尽くせりなんだ。

部屋の汚れが気になり掃除を……と思ったけど、時間も時間だから晩ご飯の方が先かもしれない。

「副社長、ご飯はどうします?何か食材があれば作りますけど」

「食材……ね。残念だけどうちには何もないよ」

「そうなんですか?じゃあ、買ってきますね」

「いや、今日はいいよ。せっかくだから何か食べに行かない?」

突然の誘いに状況がのみ込めず、数回瞬きした。

「伊藤さん、おーい!どうしたの?」

副社長が私の目の前で手をヒラヒラさせる。

「すみません。えっと、なんでしたっけ」

「だから、今からご飯食べに行かない?」

「それは私と副社長がですか?」

「そうだけど。何か問題でもある?」

副社長は苦笑いしながら言う。
問題は大ありだ!

「いえ、特に問題はないんですけど……」

だけど、私の口から出た言葉はなぜか反対のものだった。
予想だにしない展開で動揺している。
こんなことがあってもいいんだろうか。

副社長の衣食住のお世話をするというのを仕事だと割り切ればどうにかやれる。
だけど、一緒に食事となれば話は別だ。

「だったら行こうか。食事の後に家に送るから」

「そこまでしてもらうことは出来ません」

「俺がしたいんだから気にしないで。さあ行こうか」

キッパリと断ったけど、背中を押され玄関へと促された。
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