天狐様のお袋の味

立花立花

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1章:思い出の筑前煮

5話:料理する前にエプロンを身につけましょう。

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「で!エプロンはどこじゃ?」
「え、エプロン?」
「そうじゃ!料理をするのに必須じゃと敬一郎がいっておったぞ?」
「父さんが!?」

そういえば小さい頃お手伝いしたときエプロンを着たかも…。
でもエプロンなんてどこにあるんだ?

「なんじゃ?ないのか?」

そう残念そうな声が聞こえてくる。

「多分、あると思う」
「おぉ!どこじゃ!」
「でも場所が分からないんです」
「なんじゃと!?」
「父さんがいつも使ってたものだし、入院してからはエプロンを見ることもなくなったし…」

そっか。
僕って父さんのこと何にも知らないんだな。

「うむ。しょうがないのお!」

落ち込んでいる俺をよそに天狐様が大きな声をあげる。
そのままズカズカと父の部屋に入っていき、襖を勢いよく開けた。

「え、ちょ、ちょっと!?何やってるんですか!?」
「さーてどこにあるかのぉ~」
「ちょっ!?」
「敬一郎のことじゃどうせこの辺りに…」

四つの尻尾を揺らしながら襖の奥から割烹着を取り出す。

「ほれ!あったぞ!」
「え?」
「これじゃ!これ!」

それは僕が見たこともない割烹着だった。

「そ、それ誰の…?」
「ん?叶子かなこのものじゃ」
「母さん…?」
「そういえば叶子はどうしたんじゃ?」

そうか天狐様は目覚めたばかりだから母さんのことも。

「それに敬一郎も夕飯時だというのに何をしとるんじゃ!全く!」

父さんのことも知らないんだ。
なら僕が天狐様に伝えないと。

もうあの二人は。

「…父さんも母さんも死んだよ」

ここにいないって━。

僕の言葉に天狐様は驚いたのか目を見開いた。
その後少し寂しそうな目になり、耳と尻尾が下がった。

「相変わらず時が経つのは早い」

天狐様は持っている割烹着を見つめながらそう呟いた。

「おぬし名は?」
「社新汰です」
「新汰かいい名じゃ」
「…ありがとうございます」
「二人の分も新汰は長生きしんといかん」
「そうですね」

しんみりとした空気のまま僕は天狐様を見つめる。
そうだ。僕は二人のためにも長生きしないといけない。
見えない未来を必死につかみ取るように手に力が入る。

「だからこそあんな食事じゃいかん!!!」

その瞬間天狐様の声が響きわたる。

「ふぇっ!?」

その勢いのまま僕に割烹着を押し付け、僕の手を引きながら再度台所に連れてこられる。

「ほれ!料理をする前にエプロンをするんじゃ!敬一郎の言葉じゃぞ!おぬしが実行せんでどうする!」
「でも割烹着の着方なんか…!」
「なんじゃと!新汰は本当に世話が焼けるな!」
「え、ちょ、て、天狐様!?」

僕から割烹着を奪うと、天狐様は僕に割烹着を着せ始めた。
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