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44 ザ・断罪・ショウ③
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※若干、下品な表現あり※
「はっ………………」
アンドレイ様の顔が強張った。ナージャ子爵令嬢も気まずい様子で隣の恋人を見ている。
「わたしが知らないと思っているのですか?」と、わたしは冷笑を浮かべる。
「オディール……」
アンドレイ様の敵意の帯びた視線がわたしに激しくぶつかる。国王陛下に似た強い双眸は、まだ若い彼でもなかなかの迫力があった。
でも、わたしも負けない。こんなもの、弾き飛ばしてあげるわ。
しばらく無言で互いに威嚇しあったあと、
「証拠はあるのか? 私たちが恋人同士だと証明してみろ」
アンドレイ様は鼻で笑いながら挑発するように言った。
証明する以前に子爵令嬢のドレスやさっきの二人のやり取りであらかた察しはつくのに、自ら墓穴を掘るようなことを言ってこの人はなんて愚かだろうと、わたしは唖然として彼を見た。
わたしが黙っているのを証明不可能だと思ったのか、アンドレイ様は勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
「出来ないのだろう!? 私はお前たちと違って疚しいことなどないのだからな! 王子の側近が良い物を身に着けるのは当然のことだ! それを私自らが与えてなにが悪い? それに、平民たちの功績とやらも最終的には彼女自身が中身を確認をして実行した。だから結果は彼女のものだ! なにも問題ない!」
彼はまたもや滅茶苦茶なことを得意げに言い出した。
王子のあまりに身勝手で愚かな発言に国王陛下は頭を抱え、観客からは嘲笑の混じった忍び笑いや落胆のため息が聞こえてきた。この王子は駄目だ……と、諦念の混じった囁き声が重なり合う。
「殿下、わたしが沈黙していたのは、どこから話そうかと逡巡していたからなのです」わたしは静かに反撃を開始する。「お二人が利用していた宿泊所や密会場所も裏を取っていますが……もう面倒なのでいきなり恋文からいきますか」
わたしが合図をすると、王宮の官吏がいくつかの書簡の入った箱を丁寧に持ち上げながら、こちらへ運んで来る。わたしはビロードが張られた文箱から一通の手紙を取り上げて、おもむろに広げた。
「お前……まさか!?」
「ちょ、ちょっと! まさか、あれ……!?」
にわかに二人は焦り出した。
わたしは彼らを黙視して、訴えかけるように全体をゆっくりと見回す。
「ちなみに、こちらの手紙は筆跡鑑定も行っているわ。では、これより拝読いたします。――愛するアンドレイ……」
少し読んだところで眉をひそめて黙り込んだ。
ざわつく貴族たちを困ったように少し見やってから、
「あら、どうしましょう。下品過ぎてわたしには読めないわ」
「私が読もう。貸してくれ、侯爵令嬢」と、レイが手紙をひょいと取り上げた。
そして、文面を見るなり眉根を寄せて大仰に嘆く。
「困ったな。男の私でも憚られる内容だ。なんて品のない!」
「では、僭越ながらあたしが……」
いつの間にか隣に来ていたガブリエラさんが、王太子の持つ手紙を摘んで大声で朗読を始めた。
「えぇっと…………、愛するアンドレイ。昨日はとっても良かったわ。侯爵令嬢に見つからないように近くでするのは最高ね。口で受け止め切れなかったときは焦っちゃったわよ。それでも、あの子はお馬鹿だから全然気付かなくて、本当に可笑しかったわね。あなたの言う通り、次はあの子の側で◇◇◇しても大丈夫そうね。スリリングでとっても楽しそうだわ。あんな間抜けで面白味のない子と早く婚約破棄が出来るといいわね。心から愛しているわ。……あなたの虜のシモーヌ」
「………………」
「………………」
「………………」
底冷えするような静寂がホール中を押し潰すように包み込んだ。
その高貴な身分にそぐわない卑猥な内容に誰もが驚愕し、呆れ返り、軽蔑、嫌悪、失望……どす黒い負の感情を王子と子爵令嬢に突き刺すように注いでいる。
非難の中心のアンドレイ様は真っ白な顔をして茫然自失と立ち尽くしていた。
子爵令嬢のほうはもじもじしながら頬を赤く染めて、なんだか興奮しているような……ちょっと嬉しそう? え……なに、この人。変態なのかしら。彼女の感覚がよく分からないわ。
わたしは二人を見なかったように素知らぬ顔で続ける。
「では、ガブリエラさん。二通目、どうぞ」
「愛するアンドレイ――」
「止めろおぉぉぉぉぉっ!!」
顔を真っ赤にさせたアンドレイ様がガブリエラさんに飛び込むように手を伸ばす。
しかし彼女からさっと避けられて、つんのめった。どっと笑い声が起こる。
「くっ……お前ら……俺を誰だと思っているんだ。この国の王子だぞ……俺は次期国王なんだ……!」
彼の恨み節は笑い声に掻き消された。
「どうです、殿下? これでも子爵令嬢はあなたの恋人ではない、と?」
わたしは倒れ込んだアンドレイ様の眼前に威圧するように堂々と立って、冷たく見下しながら言った。彼はぷるぷると身体を震わせながら、今にも襲ってきそうな苛烈な悪意が内包された視線を打ち当ててくる。
そしておもむろに上半身を起こしてから、目を剥き出しにして叫んだ。
「調子に乗るなよ、このクソ女がぁっっっ!!」
彼の地鳴りのような叫び声がホールの外まで響く。
「つまらねぇんだよ、お前みたいな女はっ! 侯爵令嬢だかなんだか知らないが、いつもいつも澄ました顔をしやがって! 俺はなぁ、初めて会ったときからお前なんか大嫌いなんだよっ! ブスだしグズだし、身分しか取り柄のない馬鹿女が! それを王子の俺が相手にしてやったのだから光栄に思えっ!!」
王子の醜い断末魔の叫びが響き渡る。国王陛下は再び無表情になり、貴族たちは王子の馬鹿の極みような開き直りに慄いた。
レイが眉を吊り上げてアンドレイ様になにか言おうとしたが、目配せをして制止する。彼は不服そうにこちらを見ていたが、わたしは頑なに首を横に振った。
ここは、自分自身が決着をつけないといけない場面だから。
とは言え……思い通りに事が運んで、わたしはほくそ笑んだ。断罪まであと一押しだ。
ついに本性を表したわね。ここには国中の貴族が集まっている。彼に立太子をする資格があるか今一度問われることでしょう。
……まぁ、そんな機会も与えないけどね。
「――それで」わたしの冷たい声音が静かに響いた。「侯爵令嬢と違うそこのつまらなくない子爵令嬢と楽しむ遊びは、一緒に犯罪を行うこと? それが殿下のつまらなくないことなのですか?」
「……あ?」
「持って来なさい」
わたしが合図をすると、王宮の侍従たちがぞろぞろと会場内に入って来た。どの者も手には荷物を掲げている。
それは、アンドレイ様が違法で入手した数々の美術品だった。
「はっ………………」
アンドレイ様の顔が強張った。ナージャ子爵令嬢も気まずい様子で隣の恋人を見ている。
「わたしが知らないと思っているのですか?」と、わたしは冷笑を浮かべる。
「オディール……」
アンドレイ様の敵意の帯びた視線がわたしに激しくぶつかる。国王陛下に似た強い双眸は、まだ若い彼でもなかなかの迫力があった。
でも、わたしも負けない。こんなもの、弾き飛ばしてあげるわ。
しばらく無言で互いに威嚇しあったあと、
「証拠はあるのか? 私たちが恋人同士だと証明してみろ」
アンドレイ様は鼻で笑いながら挑発するように言った。
証明する以前に子爵令嬢のドレスやさっきの二人のやり取りであらかた察しはつくのに、自ら墓穴を掘るようなことを言ってこの人はなんて愚かだろうと、わたしは唖然として彼を見た。
わたしが黙っているのを証明不可能だと思ったのか、アンドレイ様は勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
「出来ないのだろう!? 私はお前たちと違って疚しいことなどないのだからな! 王子の側近が良い物を身に着けるのは当然のことだ! それを私自らが与えてなにが悪い? それに、平民たちの功績とやらも最終的には彼女自身が中身を確認をして実行した。だから結果は彼女のものだ! なにも問題ない!」
彼はまたもや滅茶苦茶なことを得意げに言い出した。
王子のあまりに身勝手で愚かな発言に国王陛下は頭を抱え、観客からは嘲笑の混じった忍び笑いや落胆のため息が聞こえてきた。この王子は駄目だ……と、諦念の混じった囁き声が重なり合う。
「殿下、わたしが沈黙していたのは、どこから話そうかと逡巡していたからなのです」わたしは静かに反撃を開始する。「お二人が利用していた宿泊所や密会場所も裏を取っていますが……もう面倒なのでいきなり恋文からいきますか」
わたしが合図をすると、王宮の官吏がいくつかの書簡の入った箱を丁寧に持ち上げながら、こちらへ運んで来る。わたしはビロードが張られた文箱から一通の手紙を取り上げて、おもむろに広げた。
「お前……まさか!?」
「ちょ、ちょっと! まさか、あれ……!?」
にわかに二人は焦り出した。
わたしは彼らを黙視して、訴えかけるように全体をゆっくりと見回す。
「ちなみに、こちらの手紙は筆跡鑑定も行っているわ。では、これより拝読いたします。――愛するアンドレイ……」
少し読んだところで眉をひそめて黙り込んだ。
ざわつく貴族たちを困ったように少し見やってから、
「あら、どうしましょう。下品過ぎてわたしには読めないわ」
「私が読もう。貸してくれ、侯爵令嬢」と、レイが手紙をひょいと取り上げた。
そして、文面を見るなり眉根を寄せて大仰に嘆く。
「困ったな。男の私でも憚られる内容だ。なんて品のない!」
「では、僭越ながらあたしが……」
いつの間にか隣に来ていたガブリエラさんが、王太子の持つ手紙を摘んで大声で朗読を始めた。
「えぇっと…………、愛するアンドレイ。昨日はとっても良かったわ。侯爵令嬢に見つからないように近くでするのは最高ね。口で受け止め切れなかったときは焦っちゃったわよ。それでも、あの子はお馬鹿だから全然気付かなくて、本当に可笑しかったわね。あなたの言う通り、次はあの子の側で◇◇◇しても大丈夫そうね。スリリングでとっても楽しそうだわ。あんな間抜けで面白味のない子と早く婚約破棄が出来るといいわね。心から愛しているわ。……あなたの虜のシモーヌ」
「………………」
「………………」
「………………」
底冷えするような静寂がホール中を押し潰すように包み込んだ。
その高貴な身分にそぐわない卑猥な内容に誰もが驚愕し、呆れ返り、軽蔑、嫌悪、失望……どす黒い負の感情を王子と子爵令嬢に突き刺すように注いでいる。
非難の中心のアンドレイ様は真っ白な顔をして茫然自失と立ち尽くしていた。
子爵令嬢のほうはもじもじしながら頬を赤く染めて、なんだか興奮しているような……ちょっと嬉しそう? え……なに、この人。変態なのかしら。彼女の感覚がよく分からないわ。
わたしは二人を見なかったように素知らぬ顔で続ける。
「では、ガブリエラさん。二通目、どうぞ」
「愛するアンドレイ――」
「止めろおぉぉぉぉぉっ!!」
顔を真っ赤にさせたアンドレイ様がガブリエラさんに飛び込むように手を伸ばす。
しかし彼女からさっと避けられて、つんのめった。どっと笑い声が起こる。
「くっ……お前ら……俺を誰だと思っているんだ。この国の王子だぞ……俺は次期国王なんだ……!」
彼の恨み節は笑い声に掻き消された。
「どうです、殿下? これでも子爵令嬢はあなたの恋人ではない、と?」
わたしは倒れ込んだアンドレイ様の眼前に威圧するように堂々と立って、冷たく見下しながら言った。彼はぷるぷると身体を震わせながら、今にも襲ってきそうな苛烈な悪意が内包された視線を打ち当ててくる。
そしておもむろに上半身を起こしてから、目を剥き出しにして叫んだ。
「調子に乗るなよ、このクソ女がぁっっっ!!」
彼の地鳴りのような叫び声がホールの外まで響く。
「つまらねぇんだよ、お前みたいな女はっ! 侯爵令嬢だかなんだか知らないが、いつもいつも澄ました顔をしやがって! 俺はなぁ、初めて会ったときからお前なんか大嫌いなんだよっ! ブスだしグズだし、身分しか取り柄のない馬鹿女が! それを王子の俺が相手にしてやったのだから光栄に思えっ!!」
王子の醜い断末魔の叫びが響き渡る。国王陛下は再び無表情になり、貴族たちは王子の馬鹿の極みような開き直りに慄いた。
レイが眉を吊り上げてアンドレイ様になにか言おうとしたが、目配せをして制止する。彼は不服そうにこちらを見ていたが、わたしは頑なに首を横に振った。
ここは、自分自身が決着をつけないといけない場面だから。
とは言え……思い通りに事が運んで、わたしはほくそ笑んだ。断罪まであと一押しだ。
ついに本性を表したわね。ここには国中の貴族が集まっている。彼に立太子をする資格があるか今一度問われることでしょう。
……まぁ、そんな機会も与えないけどね。
「――それで」わたしの冷たい声音が静かに響いた。「侯爵令嬢と違うそこのつまらなくない子爵令嬢と楽しむ遊びは、一緒に犯罪を行うこと? それが殿下のつまらなくないことなのですか?」
「……あ?」
「持って来なさい」
わたしが合図をすると、王宮の侍従たちがぞろぞろと会場内に入って来た。どの者も手には荷物を掲げている。
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