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17 不機嫌の理由と本音
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「それで、一体何が嫌だったんだ?」
秋良が落ち着いたところで、改めて問いかける。
秋良は少し戸惑う素振りを見せたが、きゅっと目に力を込め、覚悟を決めたように話し始めた。
「おじさん、みっちゃんたちと遊んでたでしょ?」
「うん。公園で、秋良もいっしょに遊んで楽しかったな」
「……楽しかった。楽しかったけど、いやだった」
「うん?遊んでるときに、嫌なことがあったのか?誰かに何かされた?」
「ちがう。遊ぶのは楽しかったし、誰にもいやなことされてない」
「じゃあ、何が……?」
肝心なところで、秋良が言い淀む。
じれったいが、堪えて秋良が口を開くのを待つ。
「……ママとパパが……」
「うん」
「ママとパパがっ……いないのが、いやだ……。みっちゃんたちのパパはいっしょに遊んでくれるのに、僕のパパもママも帰ってこないのがいやだ……!」
「……うん」
「おじさん、ママとパパ、いつ帰ってくるの?もうずっと帰ってこないの?なんで死んじゃったの?!」
「……秋良のママとパパは、交通事故に遭ったんだ。寂しいけど、もう帰ってくることはない」
「なんで!なんで僕のママとパパだったの?!僕、もっとママにぎゅっとしてほしかったのに!パパと遊びたかったのに!なんで……なんで……!」
秋良が声を上げて泣き始める。
いつかの夜泣きのときのように、心を抉るような悲痛な声で。
俺は秋良の背中をさすりながら、兄に視線を向ける。
兄は涙を流しながら、秋良を見つめていた。
繰り返し自分たちを呼びながら泣き続ける秋良を見るのは、どれほど胸が痛むことだろう。
「ママとパパに会いたいっ!!もう会えないなんていやだ……!」
ひたすら泣き続ける秋良は、ずっと我慢していたのかもしれない。
思い返してみれば、秋良から両親の話題が出ることは極端に少なかった。
俺自身が避けていたのもあるが、秋良は両親の話題を出すことを俺が嫌がると思ったのだろう。
あるいは言葉に出すことで、両親の死を実感するのが怖かったのかもしれない。
俺はずっと、ただ生活を整えることだけを考えていた。
秋良が健やかに成長するためには、環境を整えることが先決だと。
だからこそ、秋良の抱えている不安に気づくことができなかった。
本当はもっと早く、秋良の心に寄り添うべきだった。
兄がいるから、兄の言葉に従っていればそれで大丈夫だと思考を止め、秋良自身を見ていなかった自分を反省する。
ひっく、ひっくと秋良がしゃっくりを上げる。
まだ何か話したいようだが、言葉にならないらしい。
俺は「ゆっくりでいい、時間はたくさんあるから」と囁く。
呼吸を少し整えて「それから……」と秋良が話を続ける。
「それから?」
「そ、それから……おじさんが、みっちゃんたちと仲良くするの、いやだった」
「……え?」
予想外の言葉に、思わず固まる。
友だちを取られるのがいやだったのだろうか?
秋良の本心がわからず、俺はただ「ごめんな」と呟いた。
そんな俺を見上げ、秋良が必死で語り掛ける。
「僕はまだ、おじさんと仲良しになれてないのに……みっちゃんたちが先に仲良しになるのはいやだ……!」
まっすぐ俺を見上げるその姿があまりにいじらしくて、俺は思わず秋良を抱きしめた。
つまりそれは、秋良がやきもちを焼いてくれたってことだ。
友だちを取られたくないんじゃなくて、俺を取られたくなかったのだ。
「おじさん、苦しい……!」
秋良の声にはっとして、力を緩める。
「ごめんな。つい、嬉しくて」
「……うれしい?」
「うん。秋良が俺と仲良くしたいって思ってくれていたことが、すごく嬉しい」
「……そっか……」
そう言って泣きながら笑った秋良も、心から嬉しそうだった。
一緒に暮らすようになってから、秋良との距離はずいぶん縮まっていた気になっていた。
しかし、秋良からするとずっと不安だったのだろう。
壁を感じる叔父と邪魔者の自分。
そんな風に思いながら、必死に嫌われまいとしていたのかもしれない。
「なあ、秋良。俺たち、もっと話をしよう」
「話?」
「そう。俺は秋良が大切だから、秋良のことをもっとよく知りたい。秋良のことを一番よく知っているのは秋良だろ?だから秋良のこと、たくさん教えてほしいんだ」
「……うん、いいよ。おじさんも、おじさんのこと、もっと教えて」
「うん、約束」
指切げんまんをして、笑いあう。
たくさん泣いてすっきりしたのか、秋良の表情は晴れやかに見えた。
秋良が落ち着いたところで、改めて問いかける。
秋良は少し戸惑う素振りを見せたが、きゅっと目に力を込め、覚悟を決めたように話し始めた。
「おじさん、みっちゃんたちと遊んでたでしょ?」
「うん。公園で、秋良もいっしょに遊んで楽しかったな」
「……楽しかった。楽しかったけど、いやだった」
「うん?遊んでるときに、嫌なことがあったのか?誰かに何かされた?」
「ちがう。遊ぶのは楽しかったし、誰にもいやなことされてない」
「じゃあ、何が……?」
肝心なところで、秋良が言い淀む。
じれったいが、堪えて秋良が口を開くのを待つ。
「……ママとパパが……」
「うん」
「ママとパパがっ……いないのが、いやだ……。みっちゃんたちのパパはいっしょに遊んでくれるのに、僕のパパもママも帰ってこないのがいやだ……!」
「……うん」
「おじさん、ママとパパ、いつ帰ってくるの?もうずっと帰ってこないの?なんで死んじゃったの?!」
「……秋良のママとパパは、交通事故に遭ったんだ。寂しいけど、もう帰ってくることはない」
「なんで!なんで僕のママとパパだったの?!僕、もっとママにぎゅっとしてほしかったのに!パパと遊びたかったのに!なんで……なんで……!」
秋良が声を上げて泣き始める。
いつかの夜泣きのときのように、心を抉るような悲痛な声で。
俺は秋良の背中をさすりながら、兄に視線を向ける。
兄は涙を流しながら、秋良を見つめていた。
繰り返し自分たちを呼びながら泣き続ける秋良を見るのは、どれほど胸が痛むことだろう。
「ママとパパに会いたいっ!!もう会えないなんていやだ……!」
ひたすら泣き続ける秋良は、ずっと我慢していたのかもしれない。
思い返してみれば、秋良から両親の話題が出ることは極端に少なかった。
俺自身が避けていたのもあるが、秋良は両親の話題を出すことを俺が嫌がると思ったのだろう。
あるいは言葉に出すことで、両親の死を実感するのが怖かったのかもしれない。
俺はずっと、ただ生活を整えることだけを考えていた。
秋良が健やかに成長するためには、環境を整えることが先決だと。
だからこそ、秋良の抱えている不安に気づくことができなかった。
本当はもっと早く、秋良の心に寄り添うべきだった。
兄がいるから、兄の言葉に従っていればそれで大丈夫だと思考を止め、秋良自身を見ていなかった自分を反省する。
ひっく、ひっくと秋良がしゃっくりを上げる。
まだ何か話したいようだが、言葉にならないらしい。
俺は「ゆっくりでいい、時間はたくさんあるから」と囁く。
呼吸を少し整えて「それから……」と秋良が話を続ける。
「それから?」
「そ、それから……おじさんが、みっちゃんたちと仲良くするの、いやだった」
「……え?」
予想外の言葉に、思わず固まる。
友だちを取られるのがいやだったのだろうか?
秋良の本心がわからず、俺はただ「ごめんな」と呟いた。
そんな俺を見上げ、秋良が必死で語り掛ける。
「僕はまだ、おじさんと仲良しになれてないのに……みっちゃんたちが先に仲良しになるのはいやだ……!」
まっすぐ俺を見上げるその姿があまりにいじらしくて、俺は思わず秋良を抱きしめた。
つまりそれは、秋良がやきもちを焼いてくれたってことだ。
友だちを取られたくないんじゃなくて、俺を取られたくなかったのだ。
「おじさん、苦しい……!」
秋良の声にはっとして、力を緩める。
「ごめんな。つい、嬉しくて」
「……うれしい?」
「うん。秋良が俺と仲良くしたいって思ってくれていたことが、すごく嬉しい」
「……そっか……」
そう言って泣きながら笑った秋良も、心から嬉しそうだった。
一緒に暮らすようになってから、秋良との距離はずいぶん縮まっていた気になっていた。
しかし、秋良からするとずっと不安だったのだろう。
壁を感じる叔父と邪魔者の自分。
そんな風に思いながら、必死に嫌われまいとしていたのかもしれない。
「なあ、秋良。俺たち、もっと話をしよう」
「話?」
「そう。俺は秋良が大切だから、秋良のことをもっとよく知りたい。秋良のことを一番よく知っているのは秋良だろ?だから秋良のこと、たくさん教えてほしいんだ」
「……うん、いいよ。おじさんも、おじさんのこと、もっと教えて」
「うん、約束」
指切げんまんをして、笑いあう。
たくさん泣いてすっきりしたのか、秋良の表情は晴れやかに見えた。
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