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鯉釣り編
プロローグ
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朱色に染まる山景色、羽根の如く澄んだ空に舞い散る紅葉とトンボ。
「……」
少年は黄金色に輝く草木を掻い潜り、身を潜める。
「……」
目の前には岩と岩の間を縫うように細い川が流れている。滝や茂の多いところからは、うねりを上げて水飛沫が燦爛となる。
少年は4.5mほどの渓流竿を伸ばし、浮きもない針とガン玉の仕掛けを水草と水草の隙間に流し込む。餌は現地調達のバッタとミミズを使い分けている。
「……っ来た!」
竿は弓形に弧を描き、ヒュンと風を裂く音が鳴る。
掛かった魚は頭を激しく振るい、それに合わせて竿も左右に揺れ動く。水中を走り終えた……と思いきや、今度は激しい水音とともに3回跳ね上がり50cm程の魚体が宙を舞う。
「ふう……」と少年は息を整えて、心を落ち着かせる。
釣りの経験が無い人も理解はできるだろう?早く釣って魚を目にしたいという逸る気持ち。しかし大物の駆け引きの最中は感情を抑えなければならない。命のやり取りなのだ、不要なものに気を取られた方が負け。
岩や茂に潜り込まれないよう巧みに竿を捌き、自分より魚が下流に行かないよう適切な位置に移動する。焦らずじっくりと弱らせ浅瀬に追い込む。
「はあ……疲れたぜ」とタモですくい上げ、清々しい顔をする。
釣り上げたのは、頬と体側に鮮やかな桃色の帯がある46cmのニジマスだが、背の緑色も消えかかっておりスチールヘッドにも見えなくはない。回遊性の性質を持っているため、自然界で育った個体の引きは一級品。
少年は「ありがとさん」と言い、ニジマスを水につけ、徐々に回復するのを待ちリリースする。ニジマスは勢い良く深場に戻った。
満足な釣果で浮足気味に帰路する。
周囲一帯畑が広がる農業地帯。家はコテージ風の洒落た一軒家。
「ただいま、じっちゃん!」
「お帰り渓太」と祖父は返す。
10年前事故で両親を亡くし、渓太は祖父と二人で暮らしている。いつもの茶の間には、祖父と見知らぬスーツを着た20代半ばの男性が座っている。
「こんにちは渓太君」とスーツの男性は紳士的に軽くお辞儀をし、名刺を渡す。
「はぁ~……こんにちはっす……」と受け取る……そこには『フィッシングアカデミア日本支部 副講師 相沢 魚影』と書かれている。
「ここに居る君の祖父、流 渓介。そして他界した父親、流 渓斗。過去に淡水魚を対象にし、アングラー(釣り人)に夢を与えたプロ釣り師ってのはご存知かな?」
「まあ……それくらいのことなら知ってるが、それがなした?」
「釣りという魔物に憑りつかれた血縁。実は先ほど、君の釣りを覗かせってもらったが、どれも素晴らしかった。季節に対応した餌の選択、狙うポイント、そして見事な竿裁き……」
「そりゃあどうも」と渓太は不愛想に返す。
「高校卒業まで半年、進路は決まったか?」
「……いや全然」
「ふっ……なら丁度いい……フィッシングアカデミアに入学してみてはどうだろうか?」
男性はフィッシングアカデミアのパンフレットを差し出す。大体ではあるが、こういった内容だ。
【ようこそフィッシングアカデミアへ!】
フィッシングアカデミアは日本、アメリカ、中国、ヨーロッパ諸国の全釣り具メーカー様が沖縄本島約3倍の面積を所持する孤島を購入いたしました!(経緯は語りません)
世界地図には載っておらず、島の周辺には釣りの対象魚が回遊しております。他にも広大な自然の湖、川、池、沼などが存在し、トラウト、バス、鯉、鮒、鯰と言ったゲームフィッシングも楽しめます。
私たち釣り人(アングラー)の楽園であることから、『夢国島』と命名しました!
3年制であり、短大卒の学歴を修得出来ます。
【目次】
・夢国島地図
・クラス分けについて
・寮生活における暮らし方、設備紹介
・週単位での平均時間割、授業日数
・年間行事予定表
・就職情報
・講師紹介
……等々
「どうだろうか?」
「行ってみんさい渓太、ここの釣りだけってのも寂しいじゃろ」祖父も笑顔で勧める。しかし……
「いいや、俺行かね。じっちゃん腰さ痛いのに、この先の農作業どーすんだ?」と渓太は断る。
「大丈夫だ、動けなくなっても蓄えはしっかりある……それに……」貴重品のある引き出しの戸を開け、通帳を取り出す。祖父に渡され渓太は顔面蒼白。そう、彼の父親の名義『流 渓斗』の……通帳だった。
「なんだよこれ……!」そこには1億6千万程の貯金が記載されている。
「これは、お前さんが自分のために使え。と両親からの遺言じゃ……」
「こんな大金どうしろと……!」戸惑う渓太の肩に魚影は優しく手を置く。
「君はフィッシングアカデミアに入学しなければならない……。何故なら『夢国島』で君の両親の行方が分からなくなったからだ……それも釣りの最中に……」
「嘘は止めな」信じられない、といった表情で渓太は拳を握りしめる……。
「嘘じゃないさ。学園長から君に渡したい物があると……それを見れば君は事実を受け止め、フィッシングアカデミアに入学するしか道が無くなる……」
「どうしても俺を入学させたいわけだな……魚影さん」
「君にはそれしかないからさ。とりあえず冬休みまでには『夢国島』に行く荷造りをしてくれ。学園長に会わなければ話が進まんだろう?」
「わかったさ……」
「……」
少年は黄金色に輝く草木を掻い潜り、身を潜める。
「……」
目の前には岩と岩の間を縫うように細い川が流れている。滝や茂の多いところからは、うねりを上げて水飛沫が燦爛となる。
少年は4.5mほどの渓流竿を伸ばし、浮きもない針とガン玉の仕掛けを水草と水草の隙間に流し込む。餌は現地調達のバッタとミミズを使い分けている。
「……っ来た!」
竿は弓形に弧を描き、ヒュンと風を裂く音が鳴る。
掛かった魚は頭を激しく振るい、それに合わせて竿も左右に揺れ動く。水中を走り終えた……と思いきや、今度は激しい水音とともに3回跳ね上がり50cm程の魚体が宙を舞う。
「ふう……」と少年は息を整えて、心を落ち着かせる。
釣りの経験が無い人も理解はできるだろう?早く釣って魚を目にしたいという逸る気持ち。しかし大物の駆け引きの最中は感情を抑えなければならない。命のやり取りなのだ、不要なものに気を取られた方が負け。
岩や茂に潜り込まれないよう巧みに竿を捌き、自分より魚が下流に行かないよう適切な位置に移動する。焦らずじっくりと弱らせ浅瀬に追い込む。
「はあ……疲れたぜ」とタモですくい上げ、清々しい顔をする。
釣り上げたのは、頬と体側に鮮やかな桃色の帯がある46cmのニジマスだが、背の緑色も消えかかっておりスチールヘッドにも見えなくはない。回遊性の性質を持っているため、自然界で育った個体の引きは一級品。
少年は「ありがとさん」と言い、ニジマスを水につけ、徐々に回復するのを待ちリリースする。ニジマスは勢い良く深場に戻った。
満足な釣果で浮足気味に帰路する。
周囲一帯畑が広がる農業地帯。家はコテージ風の洒落た一軒家。
「ただいま、じっちゃん!」
「お帰り渓太」と祖父は返す。
10年前事故で両親を亡くし、渓太は祖父と二人で暮らしている。いつもの茶の間には、祖父と見知らぬスーツを着た20代半ばの男性が座っている。
「こんにちは渓太君」とスーツの男性は紳士的に軽くお辞儀をし、名刺を渡す。
「はぁ~……こんにちはっす……」と受け取る……そこには『フィッシングアカデミア日本支部 副講師 相沢 魚影』と書かれている。
「ここに居る君の祖父、流 渓介。そして他界した父親、流 渓斗。過去に淡水魚を対象にし、アングラー(釣り人)に夢を与えたプロ釣り師ってのはご存知かな?」
「まあ……それくらいのことなら知ってるが、それがなした?」
「釣りという魔物に憑りつかれた血縁。実は先ほど、君の釣りを覗かせってもらったが、どれも素晴らしかった。季節に対応した餌の選択、狙うポイント、そして見事な竿裁き……」
「そりゃあどうも」と渓太は不愛想に返す。
「高校卒業まで半年、進路は決まったか?」
「……いや全然」
「ふっ……なら丁度いい……フィッシングアカデミアに入学してみてはどうだろうか?」
男性はフィッシングアカデミアのパンフレットを差し出す。大体ではあるが、こういった内容だ。
【ようこそフィッシングアカデミアへ!】
フィッシングアカデミアは日本、アメリカ、中国、ヨーロッパ諸国の全釣り具メーカー様が沖縄本島約3倍の面積を所持する孤島を購入いたしました!(経緯は語りません)
世界地図には載っておらず、島の周辺には釣りの対象魚が回遊しております。他にも広大な自然の湖、川、池、沼などが存在し、トラウト、バス、鯉、鮒、鯰と言ったゲームフィッシングも楽しめます。
私たち釣り人(アングラー)の楽園であることから、『夢国島』と命名しました!
3年制であり、短大卒の学歴を修得出来ます。
【目次】
・夢国島地図
・クラス分けについて
・寮生活における暮らし方、設備紹介
・週単位での平均時間割、授業日数
・年間行事予定表
・就職情報
・講師紹介
……等々
「どうだろうか?」
「行ってみんさい渓太、ここの釣りだけってのも寂しいじゃろ」祖父も笑顔で勧める。しかし……
「いいや、俺行かね。じっちゃん腰さ痛いのに、この先の農作業どーすんだ?」と渓太は断る。
「大丈夫だ、動けなくなっても蓄えはしっかりある……それに……」貴重品のある引き出しの戸を開け、通帳を取り出す。祖父に渡され渓太は顔面蒼白。そう、彼の父親の名義『流 渓斗』の……通帳だった。
「なんだよこれ……!」そこには1億6千万程の貯金が記載されている。
「これは、お前さんが自分のために使え。と両親からの遺言じゃ……」
「こんな大金どうしろと……!」戸惑う渓太の肩に魚影は優しく手を置く。
「君はフィッシングアカデミアに入学しなければならない……。何故なら『夢国島』で君の両親の行方が分からなくなったからだ……それも釣りの最中に……」
「嘘は止めな」信じられない、といった表情で渓太は拳を握りしめる……。
「嘘じゃないさ。学園長から君に渡したい物があると……それを見れば君は事実を受け止め、フィッシングアカデミアに入学するしか道が無くなる……」
「どうしても俺を入学させたいわけだな……魚影さん」
「君にはそれしかないからさ。とりあえず冬休みまでには『夢国島』に行く荷造りをしてくれ。学園長に会わなければ話が進まんだろう?」
「わかったさ……」
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