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XII 窮屈なアフタヌーンティー

III

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「……ルイ、凄く怖い顔してる。そんなにピアノの件嫌だった?」

「別に、そうじゃないわ」

 レイの手にあるのは、ピンク色のギモーヴ。
 ギモーヴは、確かフランスで親しまれているお菓子だと本で読んだ事がある。それがどこからか英国に伝わり、この国のアフタヌーンティーでも出されるようになったのだとか。
 特別興味があった訳では無かったが、レイの小さな口に吸い込まれていくギモーヴを見ていると、何故だか無性に食べてみたくなった。
 ケーキスタンドに積まれた白とピンクのギモーヴから、彼女と同じピンクを選んで摘まみ上げる。
 指で触るとしっとりとしていて、直ぐに崩れてしまいそうな程に柔らかい。不思議な感触に少々躊躇ためらいながらも口に運ぶと、とろける様にふわりと崩れ、ベリーの酸味と甘みが口内に広がった。
 独特な食感である為、非常に好き嫌いが分かれそうなお菓子だ。私は比較的好みの部類ではあったが、レイはそうでは無かったらしい。食べた直後に僅かに顔を歪め、砂糖もミルクも淹れていない紅茶を呷っている姿を見るに、口に合わなかったのだろう。

「――ピアノ、習うの?」

「習わないわよ。そんな分かりきった事を訊いて何になるの?」

「うわぁ辛辣。さっき私と話し合って決めるって言ってたじゃん」

「あんなの出任せに決まっているじゃない」

「じゃあ、アイリーンに家庭教師ガヴァネスは付けなくていいって言わないとだ」

「余計な事しないで頂戴。こういうのは自然に任せて忘れてくれる方が、都合がいいのよ」

 ふうん、とレイが曖昧な返事をして、再びティーカップに口を付けた。それを見て、自身も紅茶を口に含む。
 このアフタヌーンティーは、毎日行われるものなのだろうか。紅茶も決して不味くは無く、出される軽食も気軽につまめる為良い習慣ではあると思うのだが、アイリーンがこうして常に扉の前に控えているのは頂けない。
 もし明日も同じようにアフタヌーンティーを行うとしたら、席を外して欲しいと頼んでみるとしよう。せめて、部屋の中では無く外に居てはくれないかと。
 そう思いながら、ティーカップの底に残った紅茶を飲み干した。
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