DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXV それぞれの思い-I

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「マリアちゃんの幼馴染と、同じステージに立つ事になったぁ!? なにそれ!」

 職場のホールに自身の怒声が響き渡ったのは、セドリックとエルが結婚して約半年が経過した、4月の事だった。
 突如セドリックから聞かされた話。それはとても簡潔なものだったが、自身を動揺させるには充分すぎるものであった。
 
 6日後に行われる、世界的歌姫アリス・ブランシェットのミニコンサート。街の小さな劇場で行われるらしく、新聞にも大々的に掲載されていた。しかしどうやら、そのコンサートのピアニストを務める筈だった演奏家が高熱で倒れてしまったらしく、急遽代わりのピアニストを劇場のオーナー――名は確かジャックと言っただろうか――が探さなくてはいけなくなったらしい。そして血眼になって探した結果、彼はセドリックを見つけ、ピアニストの代理を押し付けた。

 それだけなら、何も問題は無い。彼は小さな頃からそのオーナーであるジャックと面識があり、ピアニストの代理も何度か務めた事があったそうだ。細かな事は知らないが、彼が劇場に足を運んでいる姿は過去に見かけた事がある。
 しかし、問題はその歌姫だ。歌姫、アリス・ブランシェットは、今は亡き私の大切な友人、マリア・ウィルソンの幼馴染なのだ。

「いや! ちょっと! 流石に駄目でしょ!」

「もう引き受けた話だ。今更無しには出来ない」

「なんでもうちょっと、深く考えなかったかなぁ! 情報は何処から漏れるか分からないんだよ!」

「そんな事分かってる! ただ、エルを危険に晒さない為にはこうするしか無かったんだよ!」

 勿論最初は、セドリックもその頼みを断ったらしい。しかしジャックは諦めが悪く、暫く押し問答が続いたそうだ。そんな2人を見て、エルが「自分がピアニストの代理をやる」なんて突拍子の無い事を言い出した。
 確かに、彼の言い分は分かる。元貴族令嬢であり、屋敷を抜け出した身であるエルを、誰が見ているか分からないコンサートのステージになど立たせる訳にはいかない。
 しかし、セドリックとマリアは過去に仕事で取引をした仲であり、完全な無関係では無いのだ。私ならともかく、仕事でマリアと関わったセドリックがアリスに接触するのは危険すぎる。
 人間の言動程、当てにならないものは無い。幾ら気を付けていても、些細な所で綻びが出る。
 アリスとマリアの現在の交流は分からないが、マリアの事を探している可能性が0だとは言い切れない。もし万が一、セドリックがマリアを知っている事がアリスに気付かれた時、アリスから質問攻めに合う事も充分にあり得るのだ。そうなった場合、どれだけ取り繕ってもアリスの性格次第では全てに勘付かれてしまう。

 セドリックの本業であるブローカー業が知られてしまう分には、然程大きな問題は無い。勿論、きちんと口封じをする必要はあるが。
 しかし何より問題なのは、取引した相手を知られる事だ。ブローカー業において、“取引した人間は、外部に決して知られてはいけない”が絶対的なルールなのだ。このルールを1度でも破れば、契約違反にもなり、更には情報漏洩にも繋がる。
 故に、絶対に避けなければならない事だ。

「有り得ない、ほんっと、有り得ないんだけど」

 溜息を吐き、ふらふらと後退り倒れ込む様にソファに座る。

「セディは良くも悪くも素直だから、隠し通せるとは思えない」

「素直じゃねぇよ。何年この仕事してると思ってんだ。ボロは出さない」

「そういう事言う人が一番ボロ出すんだって! その歌姫がどんな性格してるかとか、マリアちゃんと歌姫の交流とかが分かってたらある程度事前に防げる事もあるんだけど、本当に何も分からない訳でしょ? その歌姫が良い性格してれば、最悪仕事の取引があった事はバレてもどうもならないと思うけど……それでも、規則は規則、絶対的ルールなんだよ。それに、マリアちゃんは故人なの。出来れば、それも知られたくない」

「……故人だって事は、別に隠すべき事では無いと思うけどな。ただ、マリア・ウィルソンは最後の日、アリスの話をしていた。確か、アリスと会う事があったら伝言を伝えて欲しいとかなんとか」

「伝言……? って事は、マリアちゃんと歌姫は交流無かったのかな。マリアちゃんが舞台女優引退してから、連絡取り合ってなかったとか……? ならマリアちゃんの事探られる心配はないのかな」

 ぶつぶつと呟きながら、深く溜息を吐き頭を抱える。

「とにかく、私は歌姫と接触する事は認められない。辞退するなら早い方がいいでしょ。早く断ってきなよ」

「……」

 セドリックから、返事は無い。私から顔を背け、溜息を吐く彼は苛立っている様だった。
 苛立っているのは、此方だって同じである。しかし、彼の心情を見る限り、辞退するつもりは無い様だ。そんな彼を見て、更に苛立ちが増すのだった。


 ◇ ◇ ◇
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