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お祭りと異変の種

427:金級冒険者チーム戦

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「やれえええええ!」

 ある程度まで俺が近づくと、護衛の冒険者のうちの一人がそう叫んだ。
 すると、今まで何度も繰り返してきたのだろう。その声を合図にそれぞれが速やかに各々の役割を果たすために動き出した。

「そうだ殺せ! 殺せええええ!」

 護衛達が勢いよく動き出したのを見て、興奮しているのかハルデールは叫びながら乱暴に腕を振り回しているが、その間も護衛の冒険者達はこちらへと走ってきている。

 ……昨日みたいに加減したり小細工したりなんてするから侮られるんだ。圧倒的な力を見せつけて反発する気も起こらないようにしないと、この手の輩はいつまで経っても根に持って邪魔をし続ける。

 だから、こいつらに教えてやろう。いくらやっても到底勝ち目のない存在だってことを。

「らあああああ!」
「ハアッ!」

 冒険者達の武器はそれぞれ戦斧、槍、槍、杖だ。
 まずは昨日と同じようにまずは二人が切りかかってくる。
 攻める者も攻撃場所も同じとなると、これがこいつらのパターンなんだろう。
 だがその武器は昨日とは違う。
 頭に攻撃して来た男は剣ではなく大きく重そうな戦斧を思い切り振り下ろし、足を狙っているやつは槍を使って薙いできた。

 昨日は同時だったが、今日はその攻撃のタイミングが微妙にずれていて、頭上の戦斧よりも先に脚に槍が当たるのが先だった。まずは足を払って転ばせてから確実に戦斧を当てようという考えだろう。

 そしてそれで仕留めきれなかったら後続が襲い掛かる。

 その連携、技の冴え、思い切りの良さ。どれをとってもそこらのやつとは違う。
 確かにこれは金級にふさわしい実力と言えるのかもしれない。

 だが……

「え?」
「は?」

 どれほど技量があったところで、結局はこいつらも今までの奴らと同じだ。突然武器がなくなればそれに驚いて対処できない。
 これがニナとかエルミナみたいなミスリル以上だったら対処する奴もそこそこいるんだろうけど、こいつらにはそれほどの能力はない。

 俺の足を払おうとした槍も、俺の頭上から振り下ろされた戦斧も、俺の体に触れた瞬間にきれいになくなった。
 まあいつも通りの収納スキルだ。

「ぐおっ!」
「がっ!」

 そしてこれまたいつも通りに武器がなくなって困惑している敵を殴りつけて吹き飛ばす。
 よくある漫画描写みたいに壁にめり込ませるとかはできないけど、それでも数メートルは吹き飛ばすことができたので、才能がない割にはまずまずの威力だろうと思う。

「チイッ! 喰らえ!」
「フッ!」

 だがそんなことで安堵している暇もなく、後続の槍使いと魔術師から放たれた追撃がやってきた。

「セヤアアアア」

 叫び声と共に突き出された渾身の突き。タイミング的に最初の二人を殴り飛ばした俺には避けきれない攻撃だった。

 が、俺のやることは変わらない。つまらないくらいにテンプレ化した作業を繰り返すだけだ。

「アアアア──あ?」

 槍を突き出した男は、俺の体に触れた武器を収納して戸惑っているところに足を引っ掛けて姿勢を崩したが、槍使いの背後からは水の球の魔術が迫ってきた。

 炎の魔術じゃないのは建物だからだろうもしくはそれだとやりすぎると思ったからか。土系統でも当たれば死ぬ可能性が高いし、外したら周囲の被害が大きくなる。そこでいくと水系統の魔術というのは加減もしやすいし、外しても被害が出にくい。
 それを考えての魔術の選択なんだとしたら、金級というだけはあるし、護衛慣れしてるんだなと思えた。
 まあそのまま喰らってやるつもりはないけど。

 俺はその魔術を収納しようと思ったが、それはやめて体勢を崩したままの槍使いを軽く押し出して魔術に対する盾とした。そして俺は押し出した反動を利用して体を逸らす。

「グガッ!」
「ノバルドッ──いっ!?」

 どうやら盾になった槍使いはノバルドというらしい。どうでもいいけど。

 魔術を放ってきた男には代わりに短剣を投げ返す。
 本当は収納した魔術をそのまま返しても良かったんだけど、そこまですると流石にサービスが過ぎる気がしたので魔術に収納を使うのをやめたのだ。
 能力はバレてもいいと思ってるけど、わざわざバレるヒントをばら撒くつもりはない。

 俺に向けて放たれた水の魔術はそれなりに威力があったのか、魔術師の攻撃を背後から喰らったノバルドは俺が殴り飛ばした二人よりも派手に吹き飛んでいった。

 そんな魔術を放った魔術師は、俺が投げた短剣が足に刺さった状態で膝をついている。熟練の魔術師であればあの程度の怪我なら魔術の使用に影響はない。
 が、俺に魔術を放ってきた男は立ち上がることも詠唱することもなくその場から動かずにいる。まあ俺が投げた短剣には毒が塗ってあったからなんだが。

「さあどうする? お前らの武器は消え去ったってのに、俺は傷一つ負っていないぞ? まだ戦うか?」

 動けなくなっている四人の護衛を見回してから、俺はその護衛達に命令をしたハゲデールの元へと進んでいく。

「ふざっ、ふざけるな! 貴様ら何をしている! 立てっ! 立てと言っているだろう! 貴様らにいったいいくら払っていると思っているのだ! 立てっ!」

 ハルデールは比較的大丈夫そうな魔術師へと近づいてその肩を揺さぶるが、倒れていないから大丈夫そうに見えるだけで、実はそいつが一番戦闘続行不可能な状態だ。他のやつはただ攻撃を喰らっただけだからまだ動けるかもしれないけど、そいつは時間が経つかちゃんと解毒しないとまともに動く事どころか話すことすらもままならないはずだ。

「ぐあっ!」

 ハルデールの言葉に反応して最初に突っ込んできた二人は立ち上がろうとしていたが、そいつらには追加で剣を投げておく。足に刺さったから死ぬことはないが、戦闘を続行することは難しいだろう。

「で?」

 二人に短剣を投げつけた俺は再び歩き出しハルデールの元へと向かっていく。

「ヒイッ! く、くるな……くるな!」

 昨日初めて会ったときのようにその場にへたりこみ、情けなく後ずさっている。

「こんなことをして、タダで済むと思っているのか!? 今度こそ──」
「好きにすればいい」

 復讐をしたいのなら好きにすればいい。どうせこいつが何をしたところで煩わしい以上の感情が起こることなんてないんだから。

「けど、お前に何ができる?」
「わ、私はこの国の貴族で、議員──」
「の従兄弟、だろ? しかも貴族も自称でしかない」

 俺はそう言うと上着の内側に手を入れて、そこから取り出したようにしながら収納から勲章を取り出して目の前で無様に転んでいるハゲデールへと見せつけた。

「これがなんだかわかるか?」

 俺の問いにハゲデールはなんだか分からないようで

「これはな、獣人国の勲章だ」
「それがなんだと言うのだ……」

 たかが勲章。多分その程度に思ってるんだろうな。

「まあやっぱりお前はわからないよな。これは……まあ端的にいえば、獣人国で王の信頼があることを示すものだ。他国の、ではあるけど王様から保証された勲章持ちと、議員本人ですらないただの従兄弟。喧嘩をしたらどっちが負けるだろうな?」

 正直これは使いたくなかった。だって友達を利用するみたいで嫌じゃないか。
 互いに利用して利用されて……王侯貴族の友達ってのはそういう利害関係込みで『友達』なのかもしれないけど、俺はそれが嫌だった。まあ結局こうして使っているわけだが。

「……あ、ありえぬ」

 ここは他国だしグラティースには迷惑をかけるかもしれないなと思ってため息を吐いていると、不意にハルデールはポツリと声を漏らした。

「……貴様のような者が王の保証だと? ありえぬ。そんなもの、貴様ごとき、絶対にありえ──」
「なら試してみればいい。嘘だと思うなら」

 ありえぬ、ありえぬ、としきりにこぼすハルデールにそう言うと、それ以上何も言えなくなったようで愕然とした表情で黙り込んでしまった。

「もう俺たちに関わるな。そしてこれからは謙虚に生きろ。そうすればお前のことは忘れてやる」

 自分で言っておいてなんだがすごく偉そうに感じるな。今の戦いとも呼べないような戦いを振り返ってもそうだ。以前の俺とは違うと、自分でもそう感じる。

 でも、これくらいでいいのかもしれない。こういった輩は下手に出るからつけ上がるんだ。
 俺には、貫いていきたい意地がある。なんとしても守りたいと思える大事なものがある。それを貫き、守っていくためには、多少傲慢なくらいでちょうどいいのかもしれない。

 だから俺は、この行動が間違っているとは思わない。

「それにしても……」

 目の前で座り込んだままのハルデールから視線を逸らし、集まっていた従業員の中にいた俺たちをここへ案内した若い執事に目を向ける。

「馬車の手入れ、でしたっけ? 冒険者を使い馬車に向かって戦斧を振り下ろすのがここの手入れ方法ですか。斬新ですね」
「そ、それは……」

 視線を向けられた若い執事は、助けを求めるかのように他の従業員達へと視線を向けるが、誰一人として助けようとはしない。

「まあ、いいです。権力者に逆らえないというのは理解していますし」

 ここの人たちはハルデールのような権力者の命令を聞いて色々やってきた。それは善人ではないかもしれないけど、それでも自分たちが生き残るために仕方がなかったという面もあるはずだ。
 もっとも、この宿がそういう場所だとわかっていて勤めているのだから同情の余地はないかもしれないが、それでも一度だけ……今回だけは見逃そう。

 もう泊まることもないだろうから関わることもないかもしれないけど、もしもまた俺たちに害を加えるようなことがあったら、その時はしっかりと対処しよう。

 俺がそう言うと、何人もの従業員達がホッとしたように息を吐き出した。特に俺たちをここに案内した若い執事はその様子が顕著だ。

「それでは、馬を連れてきてもらいましょうか。まさか、馬を殺した、なんてことはないでしょう?」
「た、直ちにお連れいたします!」

 そうして立ち去った若い執事を見送って、俺はイリンと環の元へと戻っていった。

「ただいま」
「お疲れ様でした」
「怪我はしていないわよね?」
「ああ。あの程度なら問題ないよ」

 先に俺に攻撃して来た二人が武器を消されて戸惑っていたのを見ていたはずなのに、後続の槍使いまでもが同じ状態になって混乱する程度の実力じゃあ、何度やっても負ける気はしない。

 褒めるべき点があるとしたら、先に来た二人の……特に戦斧を持ってる方の思い切りの良さと後続の槍使いの突きの鋭さくらいかな。あれは魔術師の放った魔術とは違い、確実に俺を殺しに来てた。
 あとは四人の連携。あれはチームとして何度も戦ってきたからこそできることだろう。実力も確かに金級相当はあるのかもしれない。
 でもそれぐらいだな。その思い切りの良さや連携だって俺には意味のないものだった。

「あの程度って言っても、あいつらだって金級の実力があるはずなんだがな」

 ニナは苦笑しながらそう言って倒れている護衛の冒険者達を見回した。

「私と戦った時にも思ったが、お前の能力は凄まじいな。目立った技ではないかもしれないが……正直、私では勝てるとは思えなかった」

 まあ、武器に頼ってる以上は例外を除いて俺には攻撃が届かないだろうな。
 あの時の最後の攻撃が剣なしでも放てるものだったのなら、俺ももっと危機感を感じて全力で戦っただろう。

「ま、これでもこの技にだけは自信があるからな。あれくらいは当然だ」
「当然、か……」

 そんなふうに言いながら軽くため息を吐いたニナから視線を逸らし、馬車へと向ける。
 無事だったとはいえ、馬車に異常がないとも限らないからな。

「さて、馬車の確認でもするか」

 だがそう思い足を踏み出したところで、俺はその足を止めた。

「……イリン」

 そして振り返ってイリンへと声をかけた。

「はい、なんでしょうか?」
「確認するんだが、手伝ってくれないか? 普段の馬車の様子ってあまり覚えてなくてな……」
「はい。任せてください」

 そう言って馬車の方へと進んで行ったイリンだが、その姿はどことなく普段とは違って見えた気がして違和感を感じた。

「?」

 だがそんな違和感を感じながらもその正体に俺は気づくことができず、なんだろうと考えていると少し離れた場所からこちらに近づいてくる音を聞いてその考えを中断した。

「っと、馬が来たみたいだな。良かった、あっちは何にもなくて」

 こちらに連れてこられている二頭の馬は特に何かされた様子は見られず、そのことに安心した。

 そして馬車の確認を終えたイリンが戻ってくると、今度は馬車に馬を繋いで俺たちは馬車へと乗り込んだ。

「それじゃあ行くか。ニナ、頼むぞ」
「わかっている」

 御者席に乗るイリンとニナの任せて、俺たちは本来泊まるはずだった『黄金の絆』という宿へ向かった。

「昨日ぶりだが、直前にあったことと泊まった宿のせいで久しぶりに感じるな」

 窓から外を見ると、まだ到着していないにも関わらず『黄金の絆」が見えた。だがその外観は『黄金の実り』とは違いすぎて、ついそんなふうに声が漏れてしまった。

 もっとも、久しぶりと感じるほど何か思い入れがあるというわけでもないけど。

「止まれ」

 昨日も止められたように俺たちは再び門番に止められた。見たところ昨日と同じ者のようだ。

「ニナさん?」

 が、そのうちに一人は御者席に座っているニナに気がついたようで、首を傾げつつもそう声をかけてきた。

「ああ、そうだ。こいつらを入れてくれないか? 銀級にはなってないが、私の紹介だ。この者達については私が保証する」

 ニナの言葉を受けて、窓から顔を出している俺へと門番の視線が集まる。

「あなたは昨日の……」
「そういうわけでしたら我々としても、否はありません。どうぞ」

 門番達も俺のことを思い出したのか、両者とも頷くとそう言って敷地の中へと入れてくれた。

「ようこそ、『黄金の絆』へ」

 今度は普通そうで安心したよ。
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