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友人達の村で

417:賊の扱い

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シルバーウィークの暇つぶしにどうぞ!

______

 やっぱりこいつらはこれで全部じゃなくて、本隊と呼ぶべきものがあるらしい。そしてそいつらはこの国の非合法の元じめ的な存在なんだとか。
 密輸、誘拐、殺し。他にも色々あるが、まあとにかくやばい奴らだそうだ。
 なんでそんな奴らがこんなところを狙っているのかっていうと、一つ前のアジトでも見つけたが誰かから依頼があったからだ。

 その依頼主について聞いたが、流石に単なる下っ端ではその事を知らないらしい。

 あとわかったことと言ったら、こいつらの組織の構成についてだ。
 敵の戦力。拠点。その内部構造。その他諸々。
 もちろんこれはこいつ程度でも知れるような、組織からしたら大した被害にならないような情報かも知れない。だが、それでも知っているのと知らないのでは全く違う。いざとなればその拠点を襲い、さらなる情報を集めて次の拠点を襲うってこともできる。

 敵の戦力や組織の構造についてはよくわかった。
 賊の中の何人かは組織の仲間について話すとき、やけに正直に話してくれたからな。なんでそんなに正直なんだと思ったが、曰く、「バレれば自分は死ぬが、道連れにしてやる」だそうだ。
 その様子から察するに、こいつらも一枚岩ってわけじゃないんだろうな。多分最初に村を襲った奴らと別働隊は、別の派閥だと思う。まあ、あくまでもそうかもしれないって予想でしかないけど。

 まあそれは今はどうでもいいとして、他に何かあっただろうか

「あとは……何かあるか?」

 俺は後ろにいたガムラ達に問いかけるが、皆首を振っている。

「いや。知りたいことは大体分かった」

 ガムラの言葉に頷いた俺は、今回この賊を退治に来た冒険者であるニナに尋ねる。もしかしたら俺たちとは別の視点から何か見えているかもしれないし。

「ニナはどうだ?」
「私も大丈夫だ」

 と、そう思ったのだがニナも特にないようだった。

「ならあとはこいつらの処分だけど……やっぱりどっかに引き渡した方がいいのか?」

 こういう時はやっぱりどこかの街の騎士とか警邏とか門番とか、そんな感じの人たちに引き渡したほうがいいんだろうかと思ってよく知ってそうな冒険者であるニナに尋ねる。ガムラも一応冒険者だけど、あまり村の外で活動することはないからニナの方が詳しいだろうからそっちにしておいた。

 できればここで処分の方が楽でいいんだけど……。

「そうだな。普通は村なんかで賊を捕まえた時は殺すものだ。街への護送なんて、普通の村でできることではないからな。だが、今回はできることなら生かしたまま連れて行きたいところではある」

 ま、そうだよな。こいつらは組織とそれに依頼を出したやつを調べる際の重要な参考人だ。
 それは分かってる。分かってるんだが……。

「どう考えても面倒だよな……」

 もし仮に俺たちがこの賊を街に連れて行ったとしよう。そして兵に渡したとして、するとどうなる? この辺りの村を滅ぼすように命令した奴に、賊を捕まえた者として俺たちのことが知られてみろ。見事そいつの敵対者リストにのるぞ。
 あとはその黒幕的な奴が何を企んでいるかにもよるが、また厄介ごとに巻き込まれる可能性がある。正直言って面倒だ。まあ関わった以上、最後まで責任持つつもりだけどさぁ。
 ここで俺は関係ない、なんて言えば楽だろうけど、情けないしかっこ悪いのでそれは却下だ。

「なら私が連れて行こう」
「ニナが?」

 そう思ってため息を吐いていると、ニナがそんな風に申し出てきた。

「そうだ。私はこの後、事を報告しに街に戻る。その時に一緒に連れて行く。賊の引き渡しも私がやればそれほど問題はないだろ? 私は元だけど竜級の冒険者で、これまでも何度も賊の引き渡しをしてきた。容易に手を出しではいけない対象であるというのは相手もわかるはずだから、それほど面倒なことにはなるまい。それに、引き渡せば後は向こうで勝手にやるのだから一緒に行く必要もあるまい」

 どうやらニナは俺が敵の後ろ盾について気にしていたことに気がついていたようだ。

「まあ、その場合は馬車を用意してもらうことになるがな」

 そう言って肩を竦めるニナに、ガムラは頷いて答える。

「構わない。むしろその程度でいいんだったら追加で金も出す」
「いらない。元々賊の退治にきた私の代わりに賊を退治してくれたんだ。流石に『雷光』がいたのでは私一人だとキツかった。だから、その代わりにこれくらいさせて欲しい」

 その雷光とやらは俺たちではなくナナが圧倒して殺したらしいから、俺たちがやったとは言えないんだけど、ニナとしては俺たちがやろうとナナがやろうと変わらないんだろうな。

「でも一人で大丈夫か?」

 ここにいる賊は全部で十人だ。それを連れて行くとなると、一人では辛いだろう。

「今までも似たような状況に合ったことがある。大丈夫だ」

 ニナはそう言っているが、それでもやはり一人で行くの万が一を考えると危険だろう。
 危険だと分かっていて送り出すというのは、できればやりたくないしそれに、やっぱりここで終わりにするのもなんとなく落ち着かない。
 だから、俺は一つ提案することにした。

「なあ。俺も一緒に行ってもいいか?」
「うん? 一緒に?」
「ああ。大丈夫だって言っても、やっぱり大変だろ? だから手伝おうかと思ってな。俺たちもそのうち村を出て旅を再開する予定だったし」

 もっとも、それはもう少しゆっくりしてからのつもりだった。だがニナを一人で行かせるのは心配だ。
 十人の賊をたった一人で何日もかけて護送するんだ。食事に排泄に睡眠。どんな時だって常に警戒し続けなくてはならない。そんなのが大変じゃないわけがない。

「だがその場合はアンドー達も目をつけられることになる。私だけなら、ああまたか、で終わるが、そこにお前も加われば、確実にお前達の方に狙いが行くことになる」
「だからって、ここで見過ごすのは違うだろ。確かに面倒ごとに巻き込まれる可能性はあるだろうな。けど誰かに危険を押し付けてのほほんと過ごすより、自分が危険になった方がよっぽど気が楽だ」

 俺たちの安全を考えるのであれば、確かにニナに全部任せた方が安全だ。彼女も大丈夫だと言っている事だし、経験もあるのだから本当に大丈夫なのだろう。
 だが、俺の心はニナを一人で行かせるのは間違っていると言っている。それなのにこのままニナを一人で行かせるってのは、俺の正義に反する。

 俺は彼女を助けたいと思った。なら助ければいいじゃないか。俺にはそれだけの力があるんだから。

「誰かを心配し続けなくちゃいけないってのは、存外疲れるもんなんだよ。俺はめんどくさいのが嫌いでね」

 そう言って肩を竦めて戯けてみせる俺に、ニナは呆れたようにこっちを見た。
 どうやら俺の同行を了承してくれたらしい。

 その事を理解すると、俺は今度はイリンと環に視線を向けた。

「ただまあ、その場合はイリンと環とは別行動で、少し遅れてきてもらうことに──」
「いやです」
「いやよ」

 俺と一緒に賊の護送をしていれば二人も狙われるだろから安全のためにと思って言ったのだが、二人は躊躇う事なく即答した。

「私はあなたのお側に」

 イリンは自身の胸に手を当てて、俺の目を見据えてただそれだけを言った。
 結婚する前から変わることのない言葉。

「あなたに並び立つ存在でいたいって言ったはずよ? それなのに、たかが危険がある程度で逃げると思うのかしら?」
「いや、逃げるとかじゃなくて……」

 環はそう言ったが、これは逃げるとかそういうのではなく、二人を危険に晒さないための方法なんだ。
 だが環もイリンと同じように真っ直ぐ俺の瞳を見つめ、その視線を逸らすことはない。

 二人を危険な目に合わせないためにどうしたものかと思っていると、ニナが口を開いた。
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