『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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イリンと神獣

372:神獣戦・上

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「彰人。ここは私に任せて」

 環はそう言いながら俺の隣に立ち、杖を両手で構えた。

「まかせろだと? 貴様一人で何ができるというのだ」

 神獣がそう言うと、生み出された狼達はこちらを目指して走り出す。
 それに対処するべく動こうとしたのだが、隣にいる環から強い力を感じ、俺は動くのをやめて環へと顔を向けた。

 そうして見た環の表情には、余裕からか笑みが浮かんでいた。

「おあいにく様だけど、数を揃えるっていうのは私の得意分野なの」

 ……うわぁ……これ、前よりひどくなってないか?

 環が神獣に向かって挑発的に笑いかけながら言うと、環を中心として俺たちを囲むように。これは比喩ではなくて、そのままの意味で炎が立ったのだ。

 環のスキルである『炎鬼』によって噴き出した炎は形を作り、無数の鬼へとその姿を変えた。

 以前俺と戦った時は最高でも百程度の数しか出せていなかった。それが今は神獣の生み出した狼と同程度の数──つまり二百を優に超えた数を出している。

 俺たちが今いる広場は、十メートルを超える神獣が自由に動き回るためか、かなりの広さがある。
 だというのに、その広場には炎の鬼がひしめき合っていた。

 護衛役なのだろう環の背後に控えている大型の鬼は、炎でできているにもかかわらず、まるで本当にそこにいるのかのように感じられるほど存在感を放っている。

「私、これでもとっても怒ってるのよ──突撃」

 走ってきた狼達は感情がないのか構わずに突っ込んんでくるが、環の命令によって走り出した炎の鬼には物理的な攻撃など意味はなく、ただただ燃やされていだけだった。

「小癪な」

 神獣は新たに狼を作り出しているが、それがどれほどいたところでこの炎の軍勢には意味がないだろう。

 それを理解しているのか、神獣は狼を生み出した後、環に向けて風の魔術を放った。まともに食らえば、良くて重傷というような攻撃だ。

 だが、どんな攻撃であったとしても、それが生き物でない限り俺には通用しない。
 環を狙った魔術は、全て環の前に躍り出た俺に直撃したが、その全てが俺に触れた瞬間に収納されて終わった。

「環──任せた」
「ええ。そっちはお願い」

 笑いながら返された環の声を背に、俺は神獣へと歩み寄っていく。

「お前の相手は俺だよ。それとも何か? 神獣ともあろうものが、人間如きから逃げるとでもいうのか?」

 人間如きに逆らわれ、思い通りにならないことに腹を立てたのか、神獣は歯を剥き出しにして苛立たしげに唸っている。

「ならば貴様から殺してくれるわ!」

 そんな叫びと共に、無数の魔術が俺目掛けて殺到する。
 それを合図に、俺と神獣との戦いは始まった。

初手は神獣。奴はみじろぎすらすることなく圧縮した空気の塊を俺に向かって射出してきた。

確かに、これならば神獣が調子に乗るのも理解できる。
これは単なる小手調べ。神獣にとってはただの露払いの一撃でしかないのだろうが、それでも凄まじい威力だ。空気の塊であるがゆえに目で見ることができず、しかしその一撃は他者の命を奪うのには十分過ぎるほどの威力が備わっている

だが、どれほど凄い攻撃であっても、俺にとってはなんの意味もない。

放たれた空気の塊は俺に触れると同時にその姿を消した。

「ぬ?」

何が起きたのか、なぜ自身の攻撃が消えたのか理解できていない神獣は、小さく唸り声を上げると再び俺に向かって先ほどと同じ風の魔術を使う。

だがそれも俺に触れればやはり先ほどと同じように綺麗に消えて無くなる。

「……ふむ」

神獣はそう声をもらすと、今度は俺の頭上から押し潰すように風を叩きつけた。先ほどの『点』の攻撃では意味がなかったから今度は『面』で、と言うことなのだろう。

だがその結果は変わらない。俺の体に触れた瞬間にその風はきれいさっぱり消えておしまいだ。
いくら攻撃の範囲をかえ、方向を変えたところで、それが生き物でない以上は俺の収納スキルの効果から逃れることはできない。

そして頭上から叩きつけるように落ちてきた風は消え去り、後には魔術の余波によって生まれた風だけがその場に残った。

その後も点でも面でもダメなら数で勝負だと言わんばかりに不可視の弾丸をマシンガンのように放ち続けるが、その全てはただ立っているだけの俺に触れた途端に消え去っていく。

それでも諦めない神獣は、正面からの攻撃は防がれるとでも思ったのか、俺の背後からも魔術による攻撃を行なう。
が、結果は変わらない。

口惜しげに牙を剥き出しにして唸り声を上げる神獣は、休むことなく全方位から俺に向けて風の弾丸を放ち続ける。

それを見ているとダンガンの射出は未だ止まっていないにも関わらず、何やら別の魔術の用意をし始めた。おそらくだが、大技を使うつもりなのだろう。

「潰れよ!」

そんな神獣の叫びと共に、俺の前後左右、それと頭上から逃げ場のない風が俺を押し潰す。
これは最初の方で使っていた頭上からの叩き潰しを俺と言う中心に向かって押し潰すように発動したのだろう。

「ぐうううっ! 貴様っ、何をしている!」

 しかしそんなとっておきであったであろう魔術も跡形もなく消え去り、後に残ったのは無軌道に無意味にばら撒かれた風だけ。
 俺が何をしているのか分からずに苛立ちの声を上げ、悔しげに呻く神獣。

 戦いが始まってから今に至るまで、俺たちは互いに一歩も動いていない。だと言うのに形勢は圧倒的と言っていいほどに俺へと傾いていた。
 もちろんこれは俺が反撃していないからそう見えるだけかもしれない。実際に攻撃してみたら攻撃が通らない、なんてこともあり得る。
 だが少なくとも今は、神獣が悔しそうにしているというその事実だけで十分だ。

「それを話すと思うか? どうしても話して欲しいんだったら話してやるが、頼み方ってもんがあるだろ? ほら、腹を見せて頼めよ。『負けそうなんで、何をしているのか教えてください』ってな」
「ふざけるな! そのようなことをこの我がいうとでも思っているのか!」
「ふざけてるのはどっちだよ。人の嫁を孕ませるとかほざいて、それでこの程度? はっ、人を馬鹿にするのも大概にしろ!」

 俺がそう言った途端、魔術では意味がないと悟ったのか今度は知覚外の速度をもって俺に接近してきたが、それは予想済みだ。
 神獣が動くと感じた瞬間、俺は予め待機状態にしておいた収納魔術を発動させ、自分を覆うように収納の渦を生み出す。

「なにっ!?」

 イリンの身体能力から、その力の大元である神獣は俺の知覚にかからずに俺を攻撃することができるのだろうと考えていたし、実際にその通りだった。
 だが、たとえ知覚外からの攻撃が行われるのだとしても実際に攻撃は来るのだ。だったら全方向を防御すればいい。それが俺の出した答えだった。

 俺の纏う黒く蠢く渦に、突如現れた神獣の爪が触れたが、その瞬間、収納魔術の反射によって神獣の手は外側に大きく弾かれた。

 ……流石は神獣と言ったところか。
 やつとしても今の一撃はまだ全力でなかっただろう。だというのに収納魔術の維持にそれなりに魔力を持っていかれた。
 このまますべての攻撃を受けるというのは少し危ないかもしれない。

 だとしても、俺は余裕な態度を崩さない。こいつには苦戦さえ感じさせずに、完全に上回って勝ちたい。

 その後も神獣は弾かれた手を即ざに戻し、前から後ろから、爪で牙で尻尾で、休むことなく攻撃を加える。

「お前の魔術は俺に効かない。爪も尻尾も、届かない。なら後は何をするんだ?」

 だがそのどれもが俺には届かない。すべて俺の纏う収納の渦によって弾かれている。

「それは貴様も同じであろう! 貴様は我の速さについてくることはできておらぬではないか! 守るだけではどうにもならぬぞ!」

 俺もただ攻撃されていたわけじゃない。時には剣を振って攻撃したり、渦から槍を射出したりして攻撃していた。だがそれらは、神獣の言うようにすべて避けられていた。

「ごもっとも。だが、おれはまだ全力じゃないってだけだ」
「ぬかせ!」
「嘘かどうかは、その身で確かめろ」

そうしておrは本格的に神獣をボコすために動き出した。
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