『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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イリンと神獣

348:あなたは悪くない

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『収納』は異世界最強ですの二巻発売を祝って今日は正午まで一時間ごとに一話投稿します!
いつも読んでくださっている方は読む話数をお間違えなきようご注意ください。

________


「ところで、アキト様はなぜ暗い顔をしていたのですか?」

 色々とやらなくてはいけないことが重なったせいで、俺が少しばかり現実逃避気味に景色を眺めているとイリンはそう訪ねてきた。

 それを聞いた俺は一瞬だけぴくりと反応すると、俺は現実逃避をやめて流れる景色から二人へと意識を戻す。

 そしてゆっくりと深呼吸してから尋ねてきたイリンに顔を向けて答える。

「ああちょっと……ウースのことを考えるとな……」
「そう、でしたか……」

 俺の言葉を聞いたイリンは眉を寄せて顔をしかめ、そのまま黙ってしまった。

 少しだけ明るくなったはずの馬車の雰囲気が、俺の言葉によって再び暗くなった。

「……あの、ウースって?」

 事情がわからず、なぜか落ち込んでいる俺たちに困惑した環が、少し迷った様子で俺たちに問いかけてきた。

 そういえば、環には話したことがなかったか。
 ウースの最後の時に、彼女は近くにいたけどそれを見ていたわけではない。あの時は、いつか離れる環に詳しく話すことでもないだろうと思って今まで話していなかった。
 けど、これからは一緒にいるんだから説明しないとだな。

「ウ──」
「ウースとは、私の従兄弟です」

 俺が説明しようと口を開いたところで、イリンが俺の言葉を遮ってそう告げた。

「従兄弟? その人と、その……何か問題があるんですか?」

 少し覚悟を決めて言おうとしたところをイリンに遮られてしまい一瞬ぼけっと動きを止めてしまったが、環の言葉でハッと意識を戻した。

「イリン待──」
「死にました」

 それ以上イリンから言わせてたまるかと、俺は止めようと再び口を開く。
 だがその言葉も最後まで言い切らせてもらうことができず、イリンは問いかけてきた環にいつものように澄ました表情でそう告げた。いや、感情が感じられなかった。

「え?」

 突然の言葉に驚いたのだろう。あるいはイリンの態度に驚いたのかもしれない。従兄弟が死んだというのに、イリンは一見しただけでは悲しんでいるように見えなかったから。

 色々あったとは言え、それでもウースはイリンの親戚であり、幼なじみであり、イリンを大事に思っていた人物の一人だ。
 今のイリンがなにを思っているのかわからないが、できればイリンの口からは言わせたくなかった。
 だが、言われてしまったものは仕方がない。せめてその後は言わせまいと、俺が環への説明を行う。

「……以前、俺たちが会った戦場から帰る時に襲われたのを覚えているか?」
「……あの大きな人を運んでいた時ですか? でもあの人は確かソーラルさん、ですよね?」
「ああ。だが、実はあの時もう一人いたんだ」
「それがウースさん?」
「そう。王国の罠に嵌って変異し、俺を襲ってきた。そして、死んだ。俺が殺した」

 今まで何百、何千と命を奪って来たが、その時はなにも思わなかった。だが、いざ知り合いが死に、その死を誰かに伝えようとすると心が軋むような嫌な感覚に襲われる。

 だから俺は途中で止まってしまわないように淡々と、心を、感情を乗せることなく事実を告げていった。

「違います!」

 だが、その途中で隣に座っていたイリンが叫びながら立ち上がった。

「あなたが殺したわけじゃない! 私はあなたとウースが対峙した時のことを話に聞いた限りしか知りません。ですが、それでもあなたのせいじゃないことはわかります! あなたがウースを殺したのではないのです! あなたは悪くない!」
「……確かに俺が直接殺したわけじゃないかもしれない。だが俺がもっと上手く立ち回っていたら、お前の家族が死ぬことも──」
「それ以上はっ! ……それ以上言ったら、私は怒ります」
「イリン……」
「ウースは自分の意思で行動したのです。至らないところがあったとはいえ、それでもウースも一人前の戦士でした。その結果がどうであれ、そこにはそれ相応の意思と覚悟があったはずです。その意思を、覚悟を否定することは、いくらあなたであっても見過ごせません」

 今まで俺がイリンにこれほど怒られたことはなかった。
 いや、これほどどころか、怒られたこと自体がなかった。

 だというのに、イリンは今本気の怒りを込めて俺を見つめている。

 それはイリンが戦士の子として育てられたから戦士の意思を蔑ろにする事を怒ったのか、それともウース本人のことを想ってなのか。はたまたもっと違う別の理由なのかは分からない。

 でも、それほどまでに今の俺の言葉が、態度が許せなかったのか……

「…………悪い」

 何か言ったほうがいいのだろうけど、俺にはそれだけしか言えなかった。

「……ウースだって、本当は理解していたはずです。理解して、それでもなお、認めることができずに行動したのであれば、それはウース自身の責任であって、あなたは悪くない」

 イリンはゆっくりと手を動かし俺の両頬へと当て、顔を挟み込んで俺のことを正面から見つめた。

「……だから、そんなに自分を責めないでください」

 そう言ったイリンの顔は悲しげに歪んでいた。

 前向きに行こう。楽しんでいこう。そう決めたはずなのに、イリンにこんな顔をさせるだなんて……ダメだな、俺は。

「……ああ。悪かった。ありがとう」

 そう言って俺は隣に座っているイリンに笑いかけ、その頭を撫でた。

「あ、あの! わ、私も、その……お願いします」

 しんみりとした空気が流れる中突然聞こえたその言葉は、御者席ではなく後ろの馬車にいた環からのものだった。彼女は車内と御者席を繋ぐ小窓から頭を出して俺の方へと近づけている。

 そのあまりにも予想外のことで俺は驚いて目を何度も瞬かせるが、少ししてから思わず笑いがこぼれてしまった。

 笑われたことが恥ずかしかったのか、環は顔を赤らめて少し俯いたが、俺はその頭に手を乗せて優しく撫でる。

「環」
「? なんですか、彰人さん」
「お前も、ありがとうな」

 環は普段からこんな感じでイリンに張り合うが、今のはなんだか違う気がした。多分だけど、暗くなってしまった雰囲気を壊そうとしてくれたんだろう。本当に、ありがたいことだよ。

 明日には里に着く。
 こう言ってはなんだけど、ウースの件は、もう終わったことなんだ。
 二人にもこんなに心配をかけさせてしまったし、俺もいい加減いつまでも情けなく考えるのは止めよう。
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