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イリンと神獣
347:……考えてなかった
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現在俺たちは里まで後一歩、明日にはつくだろうというところまでやって来ていた。
「……明日にはお前の故郷につくな」
「……そうですね」
俺が声をかけたのに、というとちょっとアレな感じがするが、イリンは自身に向けられた俺の声に普段よりも力なく返事を返した。
明らかに様子のおかしいイリン。だが、今の俺にはその事に気付けても、それを気遣う余裕がなかった。
俺は俺で、他人のことを言えないくらいに声が沈んでいるのが自分でもわかるほどに気持ちが落ち込んでいたから。
道を進む馬車の御者席には俺とイリンが並んで座っている。
だがそこに会話はないく、俺はボーッと流れていく景色を見ているだけだし、イリンは耳も尻尾も力なく倒れている。
いつもであればもっと楽しみながら進んでいるのだが、今はとてもではないが楽しんでいるとは言えない状況だった。
「? どうして二人ともそんなに暗いの? イリンは故郷に帰れるんだからもう少し喜んでもいいんじゃないかしら?」
そんな明らかにおかしい様子の俺たちを見ていた環が、不思議そうに首を傾げながら問いかけてきた。
……ちょうどいい。このまま考えて勝手に落ち込んでいたところで意味はないんだ。
どうせ逃げることもできないんだし、だったら少しでも前向きになれるように彼女達と話していた方がいい。
「それは……ええ。本来ならばそうなのでしょうけれど……」
「……もしかして、親御さんと仲が悪いとか?」
「いえ、そういうわけでは……ただ、私は里を出てくるときに少し強引に出てきたのです。その時に姉の足を折ってきたので少し思うところが……」
は? なんだって?
前向きに、と考えて会話に入ろうとしたところで、イリンがそんなとんでも発言をしてきた。
なんでイリンが家族の足を折るんだ?
「は? 姉の足を折った? え? なんで?」
俺の頭はそんな疑問に埋め尽くされたが、それはどうやら環も一緒のようだ。
だが本当になんで……
いや待て。確かイリンは今姉って言ったな。姉ってことはつまり、俺に突っかかってきたあの……確かイーラって人だよな?
「……姉って、イーラだよな?」
「はい。その、アキト様には以前にもお話ししましたが、私は神獣を倒して目が覚めた後すぐにあなたのことを追いかけたのです。ですが、その際にイーラが里の出口で私を里の外に出すまいと邪魔をしてきたので、少し喧嘩をしました」
「姉妹喧嘩で足を折ったってこと?」
「はい」
平然としているイリンを見て、イリン達にとってはそれが普通のことなんだと理解した環は少し呆れたようにため息を吐いている。
でも確かにあそこの人たちだと、手足の一本や二本折れた程度じゃ、単なる喧嘩で済むか。治癒系の魔術なんかはなかったけど妙に怪我の治りが早かったし。
それにイリンを溺愛していたあの人なら、イリンがまた里の外に出る事を反対したかもしれないとすんなり思える。というか実際に反対したのだろう。だからイリンの邪魔をしたわけだし、その結果足を折られることになったのだ。
「……随分と過激なのね、あなたの家族は」
「……今にして思えば、少しやりすぎたかもしれないとは思っています」
そういったイリンはその表情を曇らせていた。
まぁ、俺に再開した時のイリンは体が大きくなっていたが、逆に言えばまだ体が大きくなっただけの子供だった。それに……これは俺のせいでもあるんだが、あの時のイリンは色々と不安定だった。だからこそ家族相手だというのにやりすぎてしまったのだろうと思う。
「でも、あの姉ならお前のことを許してくれるだろ?」
「おそらくは。ただ……」
「ただ?」
「私に対して何かしらの行動をし、アキト様にご迷惑をおかけしてしまう類のものである可能性が……」
「あー……そうだなぁ。その可能性はあるか」
確かにイリンの言ったように、イーラが俺とイリンを引き離そうとなんらかの行動に出る可能性は低くない。むしろかなり高いと思える。
イリンと結婚したら一応家族ってことになるんだから仲良くしておきたいんだけど、どうにかならないだろうか?
……あれ、まって? これって今まで全く考えてなかったけど、結婚の報告になるのか? いやまだ結婚したわけじゃないけど、それでも告白はしたし、俺自身イリンと結婚する気でいる。
そうなるとその結婚の報告もいつかはしなくちゃいけないわけだし、次に里に行くのがいつになるのかわからないしで、イリンの故郷ではないどこかで結婚して暮らすことだって考えられるんだから必然的に今回行った時に話すことになる。
…………え? 全然そんな覚悟なんてしてなかったんだけど?
「あの、彰人さんはイリンのお姉さん……イーラさん? と仲が悪いんですか?」
突然判明した事実に俺が頭を悩ませていると、環がそう言って訪ねてきた。
「ぅえ? ん、あ、ああ……んー、俺としては特に何があるってわけでもないんだけど、そのイリンの姉っていうのはイリンのことを溺愛しててな。イリンの事となると暴走するんだ」
「不肖の姉でお恥ずかしい限りです」
そう言っているイリンも俺のためではあるが暴走することがあるんだからよく似た姉妹だと言える。
まあ村の奴ら全員そんな感じだけど。
……そう言えば、イリンだけじゃなくて環のことも伝えないとなんだよなぁ……
あ、やばい。さっきまで考えてたこともそうだけど、新しく加わった要素のせいでお腹痛くなってきた。
イリンの故郷には行かないといけないんだけど…………行きたくないなぁ。
「……明日にはお前の故郷につくな」
「……そうですね」
俺が声をかけたのに、というとちょっとアレな感じがするが、イリンは自身に向けられた俺の声に普段よりも力なく返事を返した。
明らかに様子のおかしいイリン。だが、今の俺にはその事に気付けても、それを気遣う余裕がなかった。
俺は俺で、他人のことを言えないくらいに声が沈んでいるのが自分でもわかるほどに気持ちが落ち込んでいたから。
道を進む馬車の御者席には俺とイリンが並んで座っている。
だがそこに会話はないく、俺はボーッと流れていく景色を見ているだけだし、イリンは耳も尻尾も力なく倒れている。
いつもであればもっと楽しみながら進んでいるのだが、今はとてもではないが楽しんでいるとは言えない状況だった。
「? どうして二人ともそんなに暗いの? イリンは故郷に帰れるんだからもう少し喜んでもいいんじゃないかしら?」
そんな明らかにおかしい様子の俺たちを見ていた環が、不思議そうに首を傾げながら問いかけてきた。
……ちょうどいい。このまま考えて勝手に落ち込んでいたところで意味はないんだ。
どうせ逃げることもできないんだし、だったら少しでも前向きになれるように彼女達と話していた方がいい。
「それは……ええ。本来ならばそうなのでしょうけれど……」
「……もしかして、親御さんと仲が悪いとか?」
「いえ、そういうわけでは……ただ、私は里を出てくるときに少し強引に出てきたのです。その時に姉の足を折ってきたので少し思うところが……」
は? なんだって?
前向きに、と考えて会話に入ろうとしたところで、イリンがそんなとんでも発言をしてきた。
なんでイリンが家族の足を折るんだ?
「は? 姉の足を折った? え? なんで?」
俺の頭はそんな疑問に埋め尽くされたが、それはどうやら環も一緒のようだ。
だが本当になんで……
いや待て。確かイリンは今姉って言ったな。姉ってことはつまり、俺に突っかかってきたあの……確かイーラって人だよな?
「……姉って、イーラだよな?」
「はい。その、アキト様には以前にもお話ししましたが、私は神獣を倒して目が覚めた後すぐにあなたのことを追いかけたのです。ですが、その際にイーラが里の出口で私を里の外に出すまいと邪魔をしてきたので、少し喧嘩をしました」
「姉妹喧嘩で足を折ったってこと?」
「はい」
平然としているイリンを見て、イリン達にとってはそれが普通のことなんだと理解した環は少し呆れたようにため息を吐いている。
でも確かにあそこの人たちだと、手足の一本や二本折れた程度じゃ、単なる喧嘩で済むか。治癒系の魔術なんかはなかったけど妙に怪我の治りが早かったし。
それにイリンを溺愛していたあの人なら、イリンがまた里の外に出る事を反対したかもしれないとすんなり思える。というか実際に反対したのだろう。だからイリンの邪魔をしたわけだし、その結果足を折られることになったのだ。
「……随分と過激なのね、あなたの家族は」
「……今にして思えば、少しやりすぎたかもしれないとは思っています」
そういったイリンはその表情を曇らせていた。
まぁ、俺に再開した時のイリンは体が大きくなっていたが、逆に言えばまだ体が大きくなっただけの子供だった。それに……これは俺のせいでもあるんだが、あの時のイリンは色々と不安定だった。だからこそ家族相手だというのにやりすぎてしまったのだろうと思う。
「でも、あの姉ならお前のことを許してくれるだろ?」
「おそらくは。ただ……」
「ただ?」
「私に対して何かしらの行動をし、アキト様にご迷惑をおかけしてしまう類のものである可能性が……」
「あー……そうだなぁ。その可能性はあるか」
確かにイリンの言ったように、イーラが俺とイリンを引き離そうとなんらかの行動に出る可能性は低くない。むしろかなり高いと思える。
イリンと結婚したら一応家族ってことになるんだから仲良くしておきたいんだけど、どうにかならないだろうか?
……あれ、まって? これって今まで全く考えてなかったけど、結婚の報告になるのか? いやまだ結婚したわけじゃないけど、それでも告白はしたし、俺自身イリンと結婚する気でいる。
そうなるとその結婚の報告もいつかはしなくちゃいけないわけだし、次に里に行くのがいつになるのかわからないしで、イリンの故郷ではないどこかで結婚して暮らすことだって考えられるんだから必然的に今回行った時に話すことになる。
…………え? 全然そんな覚悟なんてしてなかったんだけど?
「あの、彰人さんはイリンのお姉さん……イーラさん? と仲が悪いんですか?」
突然判明した事実に俺が頭を悩ませていると、環がそう言って訪ねてきた。
「ぅえ? ん、あ、ああ……んー、俺としては特に何があるってわけでもないんだけど、そのイリンの姉っていうのはイリンのことを溺愛しててな。イリンの事となると暴走するんだ」
「不肖の姉でお恥ずかしい限りです」
そう言っているイリンも俺のためではあるが暴走することがあるんだからよく似た姉妹だと言える。
まあ村の奴ら全員そんな感じだけど。
……そう言えば、イリンだけじゃなくて環のことも伝えないとなんだよなぁ……
あ、やばい。さっきまで考えてたこともそうだけど、新しく加わった要素のせいでお腹痛くなってきた。
イリンの故郷には行かないといけないんだけど…………行きたくないなぁ。
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