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王国との戦争
320:結界の効果
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「なんで私が正座させられてるの……」
怒鳴りながら家の外へと出てきたケイノアは、現在家の中で武装を解除して正座させられている。
……のだが、その格好がひどい。おそらく寝ていたのだろう。長く艶やかな髪は見事に癖がつきうねってしまっている。
服装はと言うと、こちらも同じく寝ていたからだろう。股下まで丈のある薄い生地のシャツだけだ。
ついでに言うのなら顔に何かを押し付けていたように赤く痕が残っている。
「アキト様の家なのに主人であるアキト様のことを弾いたのは誰です? あまつさえ、バカと言ったのは誰ですか?」
そして今、正座をさせた主であるイリンがケイノアに向かって笑顔で語りかける。
「いやでも待ってよ! ほら、私ってばここを守るように言われてたじゃない。だから守ってただけなのよ」
「それでも家の主人くらいはいつでも通れるようにするべきではないですか?」
「だって、私が結界を張ったときにはもういなかったんだもの。仕方ないじゃない」
そう言われるとまあ、考える余地はあるか。
そんな結界を張るなら予め知らせておけとも思わなくもないが、俺たちが出た後に思いついたんだったら仕方がないとも思う。
一応少しは準備期間を与えたはずだが……まあ俺の頼みを聞いてしっかりと守っていたわけだから、それはひとまず許してもいいだろう。
「まあその話はもう良いよ。そんな事よりも街の様子について──」
「ちょっと待って! そんな事って何よ。こっちは全然良くないわよ!」
俺が話を進めようとしたのに、何が気に入らなかったのかケイノアは突然立ち上がろうとする。
「ケイノア。アキト様の言葉を遮るとは、どう言うつもりですか? それと、言葉」
が、そんなケイノアの行動をイリンが許すはずもなく、がしっと肩を掴んでその動きを止めた。というか押さえつけた。
そしてそのイリンはというと、笑顔ではあるもののその声に抑揚はなく、ただケイノアの名前を読んだだけのはずなのにとても怖い。
「お待ち下さい! 私は全然良くないです!」
ケイノアもソレを感じ取ったのだろう。もしくは今までの説教を受けてきた経験による反射だろうか?
ともかくケイノアはイリンの言葉を聞いた瞬間に姿勢を正して言葉遣いを改めた。
……でも、一応言葉遣いは変わっているが、これは正しくないだろと思うんだがどうだろうか?
「ケイノア。あなた……」
イリンもケイノアの言葉をおかしいと思ったのか、笑顔を崩し呆れたようにしながら不快感を滲ませている。だが、それまでの怖い雰囲気は薄れていた。
「なによぉ」
イリンの纏う空気が崩れたことを察してか、ケイノアはそんなイリンに及び腰になっているが引く気はないようだ。まあ、その足はじりじりと後ろに下がっているが。抵抗するつもりなら退がるのを止めろよと言いたい。
だがこのままでは話が進まないので、俺はそんな二人に口を挟んだ。
「あー、で? 何が良くないって?」
「そう。そうよ! いい、良く聞きなさい! あんたがあの結界を壊したんでしょ? そのせいで大変なんだから!」
「結界って俺を弾いたやつだろ? もう俺は帰ってきたわけだし、お前に頼んだ依頼は終わりだ。必要ないだろ。必要があるんだったら面倒かもしれないけど、もう一回張ればいいじゃないか」
一度張ったものならもう一度張ればいい。再現性がない偶然の結果できた魔術の可能性もないわけではないが、こいつに限ってはないだろう。もしそうだったとしても自分なりに調べているはずだ。基本的に頼りないが、その辺りの能力等に関しては信用している。
「違うわよ。その程度で済むような事じゃないの!」
しかしケイノアは悲壮感の漂う様子で俺の言葉を否定する。
そんな様子から、本当にただ事ではないのではないかと思った俺は、今までのように軽く聞き流すのではなく姿勢を正してしっかりと聞くことにした。
「……なら、何が問題なんだ?」
「いいわ! あんたが何を壊したのか教えてあげる!」
そうして始まったのはケイノアの張った結界の効果。
ソレは温度の維持から始まり、湿度管理、光量調整、空気清浄、消臭、各部屋の遮音、虫除けなどの防衛以外の様々な効果が詰め合わせてあるもので、果てはケイノアの部屋だけらしいが重力の軽減と弱い睡眠の魔術によって快適な睡眠ができるんだとか。
ソレはもう防衛の方がおまけなんじゃないか? と思うようなものだった。
「どう? すごいでしょ!」
そう言って胸を張るケイノアだが、正座したままそんなことをされても色々と残念なのは変わらない。
「まあ、確かにすごいではあるけど、それでももう一回張り直せばいいんじゃないか?」
効果を聞いた限りでももう一度同じ結界を張るのは面倒だというのがわかるし、こいつがそんな面倒を嫌ってるってのは分かる。
けどもう一度できないわけじゃないんだから、説明を聞いてもやっぱりそこまで騒ぐほど大変だとは思えない。
「ちっがーう! そんな簡単なものじゃないのよ! いい? あの結界を張るのはいくら私っていっても単独では難しいのよ。いえ出来ない事はないけど、常に維持し続けるってのはかなり面倒で疲れるからやなのよ。でも、効果を考えるとあの結界が最高なの」
うん、まあそうだろうな。正直あそこまでの効果があると、日本の家なんかよりも快適だろう。特に寝るときの重力軽減。向こうには重力操作なんてできていなかった。それも寝るためだけに使うだなんてあり得ない。……まあ、寝るためだけに使うだなんてのはこっちでも『あり得ない』の部類に入るけど。
「で! 問題なのはここからよ。あの魔術を常時維持し続けるのは面倒だから、素材を揃えて魔術具を作ったのよ」
「お前そんな素材なんて持ってたのか?」
確かこいつの収納魔術は俺と違って容量に制限があったから、そう何でもかんでも突っ込んでいたわけではない筈だ。
今聞いた限りではかなりの良い素材が必要になると思うんだけど、こいつにそんな素材なんて用意できたのか……。
「買ったわ! あ、お金が足りなくて借金したけど、今回あんたから貰える報酬でなんとかなる範囲よ!」
「お前、また借金したのか……」
「し、仕方ないじゃない! 百年も使えば十分に元は取れるんだから良いのよ!」
百年……時間の感覚が俺たちとは違うと実感させられるな。
けど、結界は保ったとしてもこの家そのものは百年も保つんだろうか? ……多分その辺りは考えてない気がするけど、俺が気にすることでもないか。
「まあいい。で、それがどうした?」
「あっ、そうだったわ。その魔術具が壊れたのよ。あんたが結界を壊したせいでね!」
「そうか。それは……まあ、すまん」
「認めたわね? 今あんたが悪いって認めたわね! なら許してあげるから同じ素材を用意しなさい! そうすれば今度はあんたの部屋にも同じような効果をかけてあげるわ」
ケイノアは威勢よくそう言ったが、お前今の状況わかってんのか? 多分わかってないんだろうなぁ……。
「ケイノア」
ケイノアの背後にいたイリンが、先ほどと同じように抑揚のない声で静かにケイノアの名前を呼んだ。
「……な、なによぉ! 私は悪くないわよ。こいつが悪いって認めたわけだし、それに──」
「ケイノア」
ケイノアはビクリと体を震わせると、ゆっくりと背後を振り向いてから捲し立てるように口を開いた。
だが、もう一度名前を呼ばれた瞬間黙ってしまった。そして……
「少し、お話ししましょうか」
「い、いやよ。だって私は悪くないもの……ねえ! あんたも何か言ってよ!」
ケイノアはイリンを止めろと俺に助けを求めてきた。
「イリン」
「はい」
「そいつには話がある」
「…………かしこまりました」
「だが話が終わった後なら構わないぞ」
「かしこまりました」
「え、ちょっと。嘘でしょ!? 止めてよ!」
だが俺はイリンとケイノアとだったら、当然ながらイリンの味方だ。ただケイノアの味方をして終わりなわけがない。
「いやああああぁぁ~~~~~!」
この家にいるときには結構な頻度で見る光景を再び目にして、俺はようやく帰ってきたんだと実感した。
怒鳴りながら家の外へと出てきたケイノアは、現在家の中で武装を解除して正座させられている。
……のだが、その格好がひどい。おそらく寝ていたのだろう。長く艶やかな髪は見事に癖がつきうねってしまっている。
服装はと言うと、こちらも同じく寝ていたからだろう。股下まで丈のある薄い生地のシャツだけだ。
ついでに言うのなら顔に何かを押し付けていたように赤く痕が残っている。
「アキト様の家なのに主人であるアキト様のことを弾いたのは誰です? あまつさえ、バカと言ったのは誰ですか?」
そして今、正座をさせた主であるイリンがケイノアに向かって笑顔で語りかける。
「いやでも待ってよ! ほら、私ってばここを守るように言われてたじゃない。だから守ってただけなのよ」
「それでも家の主人くらいはいつでも通れるようにするべきではないですか?」
「だって、私が結界を張ったときにはもういなかったんだもの。仕方ないじゃない」
そう言われるとまあ、考える余地はあるか。
そんな結界を張るなら予め知らせておけとも思わなくもないが、俺たちが出た後に思いついたんだったら仕方がないとも思う。
一応少しは準備期間を与えたはずだが……まあ俺の頼みを聞いてしっかりと守っていたわけだから、それはひとまず許してもいいだろう。
「まあその話はもう良いよ。そんな事よりも街の様子について──」
「ちょっと待って! そんな事って何よ。こっちは全然良くないわよ!」
俺が話を進めようとしたのに、何が気に入らなかったのかケイノアは突然立ち上がろうとする。
「ケイノア。アキト様の言葉を遮るとは、どう言うつもりですか? それと、言葉」
が、そんなケイノアの行動をイリンが許すはずもなく、がしっと肩を掴んでその動きを止めた。というか押さえつけた。
そしてそのイリンはというと、笑顔ではあるもののその声に抑揚はなく、ただケイノアの名前を読んだだけのはずなのにとても怖い。
「お待ち下さい! 私は全然良くないです!」
ケイノアもソレを感じ取ったのだろう。もしくは今までの説教を受けてきた経験による反射だろうか?
ともかくケイノアはイリンの言葉を聞いた瞬間に姿勢を正して言葉遣いを改めた。
……でも、一応言葉遣いは変わっているが、これは正しくないだろと思うんだがどうだろうか?
「ケイノア。あなた……」
イリンもケイノアの言葉をおかしいと思ったのか、笑顔を崩し呆れたようにしながら不快感を滲ませている。だが、それまでの怖い雰囲気は薄れていた。
「なによぉ」
イリンの纏う空気が崩れたことを察してか、ケイノアはそんなイリンに及び腰になっているが引く気はないようだ。まあ、その足はじりじりと後ろに下がっているが。抵抗するつもりなら退がるのを止めろよと言いたい。
だがこのままでは話が進まないので、俺はそんな二人に口を挟んだ。
「あー、で? 何が良くないって?」
「そう。そうよ! いい、良く聞きなさい! あんたがあの結界を壊したんでしょ? そのせいで大変なんだから!」
「結界って俺を弾いたやつだろ? もう俺は帰ってきたわけだし、お前に頼んだ依頼は終わりだ。必要ないだろ。必要があるんだったら面倒かもしれないけど、もう一回張ればいいじゃないか」
一度張ったものならもう一度張ればいい。再現性がない偶然の結果できた魔術の可能性もないわけではないが、こいつに限ってはないだろう。もしそうだったとしても自分なりに調べているはずだ。基本的に頼りないが、その辺りの能力等に関しては信用している。
「違うわよ。その程度で済むような事じゃないの!」
しかしケイノアは悲壮感の漂う様子で俺の言葉を否定する。
そんな様子から、本当にただ事ではないのではないかと思った俺は、今までのように軽く聞き流すのではなく姿勢を正してしっかりと聞くことにした。
「……なら、何が問題なんだ?」
「いいわ! あんたが何を壊したのか教えてあげる!」
そうして始まったのはケイノアの張った結界の効果。
ソレは温度の維持から始まり、湿度管理、光量調整、空気清浄、消臭、各部屋の遮音、虫除けなどの防衛以外の様々な効果が詰め合わせてあるもので、果てはケイノアの部屋だけらしいが重力の軽減と弱い睡眠の魔術によって快適な睡眠ができるんだとか。
ソレはもう防衛の方がおまけなんじゃないか? と思うようなものだった。
「どう? すごいでしょ!」
そう言って胸を張るケイノアだが、正座したままそんなことをされても色々と残念なのは変わらない。
「まあ、確かにすごいではあるけど、それでももう一回張り直せばいいんじゃないか?」
効果を聞いた限りでももう一度同じ結界を張るのは面倒だというのがわかるし、こいつがそんな面倒を嫌ってるってのは分かる。
けどもう一度できないわけじゃないんだから、説明を聞いてもやっぱりそこまで騒ぐほど大変だとは思えない。
「ちっがーう! そんな簡単なものじゃないのよ! いい? あの結界を張るのはいくら私っていっても単独では難しいのよ。いえ出来ない事はないけど、常に維持し続けるってのはかなり面倒で疲れるからやなのよ。でも、効果を考えるとあの結界が最高なの」
うん、まあそうだろうな。正直あそこまでの効果があると、日本の家なんかよりも快適だろう。特に寝るときの重力軽減。向こうには重力操作なんてできていなかった。それも寝るためだけに使うだなんてあり得ない。……まあ、寝るためだけに使うだなんてのはこっちでも『あり得ない』の部類に入るけど。
「で! 問題なのはここからよ。あの魔術を常時維持し続けるのは面倒だから、素材を揃えて魔術具を作ったのよ」
「お前そんな素材なんて持ってたのか?」
確かこいつの収納魔術は俺と違って容量に制限があったから、そう何でもかんでも突っ込んでいたわけではない筈だ。
今聞いた限りではかなりの良い素材が必要になると思うんだけど、こいつにそんな素材なんて用意できたのか……。
「買ったわ! あ、お金が足りなくて借金したけど、今回あんたから貰える報酬でなんとかなる範囲よ!」
「お前、また借金したのか……」
「し、仕方ないじゃない! 百年も使えば十分に元は取れるんだから良いのよ!」
百年……時間の感覚が俺たちとは違うと実感させられるな。
けど、結界は保ったとしてもこの家そのものは百年も保つんだろうか? ……多分その辺りは考えてない気がするけど、俺が気にすることでもないか。
「まあいい。で、それがどうした?」
「あっ、そうだったわ。その魔術具が壊れたのよ。あんたが結界を壊したせいでね!」
「そうか。それは……まあ、すまん」
「認めたわね? 今あんたが悪いって認めたわね! なら許してあげるから同じ素材を用意しなさい! そうすれば今度はあんたの部屋にも同じような効果をかけてあげるわ」
ケイノアは威勢よくそう言ったが、お前今の状況わかってんのか? 多分わかってないんだろうなぁ……。
「ケイノア」
ケイノアの背後にいたイリンが、先ほどと同じように抑揚のない声で静かにケイノアの名前を呼んだ。
「……な、なによぉ! 私は悪くないわよ。こいつが悪いって認めたわけだし、それに──」
「ケイノア」
ケイノアはビクリと体を震わせると、ゆっくりと背後を振り向いてから捲し立てるように口を開いた。
だが、もう一度名前を呼ばれた瞬間黙ってしまった。そして……
「少し、お話ししましょうか」
「い、いやよ。だって私は悪くないもの……ねえ! あんたも何か言ってよ!」
ケイノアはイリンを止めろと俺に助けを求めてきた。
「イリン」
「はい」
「そいつには話がある」
「…………かしこまりました」
「だが話が終わった後なら構わないぞ」
「かしこまりました」
「え、ちょっと。嘘でしょ!? 止めてよ!」
だが俺はイリンとケイノアとだったら、当然ながらイリンの味方だ。ただケイノアの味方をして終わりなわけがない。
「いやああああぁぁ~~~~~!」
この家にいるときには結構な頻度で見る光景を再び目にして、俺はようやく帰ってきたんだと実感した。
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