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王国との戦争
319:結界再び
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「なんだか綺麗ですね」
「だな」
周りの家もそうだったが、何故かこの辺は全くと言っていいほど変わらない。
崩れていないどころか傷一つないというのは、この状況からすると異常とも言える。
一応ケイノアに家と周辺の守りを頼みはしたから俺の家が無事なのは分かるが、この辺はそれなりの距離の家まで守られている。あいつがそんな広範囲を守るもんか? どうにも俺の中のケイノアのイメージと噛み合わない。
「……まあ、中にはいればケイノアが寝てるだろう。起こして話を聞けば──っ!?」
そうして話を区切り家に入ろうと前に歩き出すが、少し歩いたところでゴン、と何かに頭をぶつけてしまった。
それだけなら痛いで済んだのだが、そうはならず俺は数歩下がってから地面に膝をついてしまった。
「アキト様!」
「彰人さん!?」
イリンと環ちゃんが慌てて駆け寄ってくるが、俺は自身に起きた異常にどうにか抗うのに手一杯なので、片手を上げて大丈夫だと示すがそれ以上は二人にかまっていられない。
少しの間その場で休んでいると、俺を襲っていた眠気がマシになってきたので、俺は頭を振りながら立ち上がる。
「ぅあー……あー、くそ。あのバカだなコレは」
そう。眠気と言ったらあいつの──ケイノアの使う魔術だ。
おそらく今のは眠りの魔術を組み込んだ結界で、結界に触ったやつを眠らせるとかそんな感じの魔術なんだろうと思う。
「ケイノアですか?」
「多分。けどあいつくらいだろ、こんな事すんのは」
多分だが、ケイノアにはこの場所を守るように言いつけておいたし、まず間違いなくあいつの仕業だろう。
「……あの、何があったんですか? それにさっきから話に出てくるケイノアって、話に聞いた彰人さんが保護したエルフの人ですよね? その人が何かしたんですか?」
ケイノアを知っている俺とイリンはスムーズに話が出来ているが、あいつを知らない環ちゃんは少し戸惑っている。
まあ、ここは俺の家であるのに、仲間の筈のケイノアが家の主人である俺のことを結界で弾いたんだから不思議に思っても仕方がない。
「ああ、そのエルフであってるよ。で、何かしたのかって事だけど……」
俺はそう言いながら収納の中に入っていた小石を一つ取り出して、前方に軽く放り投げる。
「え?」
だが、小石は何かに弾かれたかのようにコン、と音を立てて地面に落ちてしまった。
「ご覧の通り結界が張ってある。それも御丁寧に感知しづらいように細工まで施したやつだ。加えて、コレに触った奴は強制的に眠らされるんだと思う」
ついでに言うんなら、誰かが触ったら術者であるケイノアに知らせがいくと思う。……思うんだが、ケイノアはまだ出てくる気配はない。こういうのはすぐに出てくるもんじゃないか?
まあ大方寝ているんだろう。いつものことだ。
「眠らせる……? ……あっ。じゃあこの辺が被害が少ないのもその人が?」
多分この辺の被害が少ないのはケイノアが敵を全て眠らせたからではないかと環ちゃんは考えているようだが、俺にはどうにもそれが納得できない。
「……まあ状況的にはそうなんだけど……なあ?」
「……はい。アレがそんな事をするとはとても……」
「だよなぁ」
イリンと顔を見合わせたのだが、イリンの顔が微妙な顔になっている。多分俺も同じような状態だろうな。
「え? あの、そのケイノアさんってどんな人なんですが?」
どんな、か……。
「極度のめんどくさがりの怠け者ですね」
「怠け者?」
「それで天才だな」
「天才?」
「ああ。この結界だって勇者である俺や君に気づかれないようなすごいものだっただろ? 本人の性格というか性質に難はあるけど、まあ有能な奴なのは確か……ああでも、すごいバカだ。あとすごい自信家でもあるかな」
「怠け者で天才でバカで自信家……?」
どんな人物か想像できないでいるのだろう。環ちゃんは頭にハテナを浮かべながら首を傾げている。
……まあ、会えばわかるさ。
「アキト様。コレはどうされますか?」
「あっ、結界……」
「ああ、それは俺がやるよ」
結界を意識しながらゆっくりと手を伸ばしていき、そして指先が触れた瞬間に収納を発動して結界をしまう。……なんか同じような事を前にもやったなぁ。
けど、なんだか妙に抵抗があったというか収納しづらかった。小さな雑草を抜いたら思ったよりも根っこが張ってた、みたいな感じ?
「ん。コレで終わりだ」
けどそれも少してこずっただけで最終的には問題なく結界を収納することができた。
「お疲れ様です」
「やっぱりすごいですね。『対抗魔術』って」
環ちゃんは俺が『収納』を使ったのではなく、以前に教えた嘘のスキルを使ったと思っているようだ。戦場で戦ったときに色々と見せたと思うんだけど、気づいていないのか?
……まあ、その辺も含めて色々と話しておかないとだよな。
「それについても話すことがあるんだが、まあとりあえず家の中に──」
俺がそう話していると、なんだか家の中が騒がしくなった。バタバタガタガタと、まるで誰かが家捜しでもしているかのような音が聞こえる。
そして──
「あああああああっ!!」
女性の悲鳴のようなものが家の中から響いてきた。
「誰よおおおおぉぉぉ! 私の結界を壊したバカはああああ!」
そして直後、玄関のドアが開き、中から杖を持って武装したエルフの女性──ケイノアが出てきた。
「久しぶりだなケイノア。結界を壊したバカはここにいるぞ」
「だな」
周りの家もそうだったが、何故かこの辺は全くと言っていいほど変わらない。
崩れていないどころか傷一つないというのは、この状況からすると異常とも言える。
一応ケイノアに家と周辺の守りを頼みはしたから俺の家が無事なのは分かるが、この辺はそれなりの距離の家まで守られている。あいつがそんな広範囲を守るもんか? どうにも俺の中のケイノアのイメージと噛み合わない。
「……まあ、中にはいればケイノアが寝てるだろう。起こして話を聞けば──っ!?」
そうして話を区切り家に入ろうと前に歩き出すが、少し歩いたところでゴン、と何かに頭をぶつけてしまった。
それだけなら痛いで済んだのだが、そうはならず俺は数歩下がってから地面に膝をついてしまった。
「アキト様!」
「彰人さん!?」
イリンと環ちゃんが慌てて駆け寄ってくるが、俺は自身に起きた異常にどうにか抗うのに手一杯なので、片手を上げて大丈夫だと示すがそれ以上は二人にかまっていられない。
少しの間その場で休んでいると、俺を襲っていた眠気がマシになってきたので、俺は頭を振りながら立ち上がる。
「ぅあー……あー、くそ。あのバカだなコレは」
そう。眠気と言ったらあいつの──ケイノアの使う魔術だ。
おそらく今のは眠りの魔術を組み込んだ結界で、結界に触ったやつを眠らせるとかそんな感じの魔術なんだろうと思う。
「ケイノアですか?」
「多分。けどあいつくらいだろ、こんな事すんのは」
多分だが、ケイノアにはこの場所を守るように言いつけておいたし、まず間違いなくあいつの仕業だろう。
「……あの、何があったんですか? それにさっきから話に出てくるケイノアって、話に聞いた彰人さんが保護したエルフの人ですよね? その人が何かしたんですか?」
ケイノアを知っている俺とイリンはスムーズに話が出来ているが、あいつを知らない環ちゃんは少し戸惑っている。
まあ、ここは俺の家であるのに、仲間の筈のケイノアが家の主人である俺のことを結界で弾いたんだから不思議に思っても仕方がない。
「ああ、そのエルフであってるよ。で、何かしたのかって事だけど……」
俺はそう言いながら収納の中に入っていた小石を一つ取り出して、前方に軽く放り投げる。
「え?」
だが、小石は何かに弾かれたかのようにコン、と音を立てて地面に落ちてしまった。
「ご覧の通り結界が張ってある。それも御丁寧に感知しづらいように細工まで施したやつだ。加えて、コレに触った奴は強制的に眠らされるんだと思う」
ついでに言うんなら、誰かが触ったら術者であるケイノアに知らせがいくと思う。……思うんだが、ケイノアはまだ出てくる気配はない。こういうのはすぐに出てくるもんじゃないか?
まあ大方寝ているんだろう。いつものことだ。
「眠らせる……? ……あっ。じゃあこの辺が被害が少ないのもその人が?」
多分この辺の被害が少ないのはケイノアが敵を全て眠らせたからではないかと環ちゃんは考えているようだが、俺にはどうにもそれが納得できない。
「……まあ状況的にはそうなんだけど……なあ?」
「……はい。アレがそんな事をするとはとても……」
「だよなぁ」
イリンと顔を見合わせたのだが、イリンの顔が微妙な顔になっている。多分俺も同じような状態だろうな。
「え? あの、そのケイノアさんってどんな人なんですが?」
どんな、か……。
「極度のめんどくさがりの怠け者ですね」
「怠け者?」
「それで天才だな」
「天才?」
「ああ。この結界だって勇者である俺や君に気づかれないようなすごいものだっただろ? 本人の性格というか性質に難はあるけど、まあ有能な奴なのは確か……ああでも、すごいバカだ。あとすごい自信家でもあるかな」
「怠け者で天才でバカで自信家……?」
どんな人物か想像できないでいるのだろう。環ちゃんは頭にハテナを浮かべながら首を傾げている。
……まあ、会えばわかるさ。
「アキト様。コレはどうされますか?」
「あっ、結界……」
「ああ、それは俺がやるよ」
結界を意識しながらゆっくりと手を伸ばしていき、そして指先が触れた瞬間に収納を発動して結界をしまう。……なんか同じような事を前にもやったなぁ。
けど、なんだか妙に抵抗があったというか収納しづらかった。小さな雑草を抜いたら思ったよりも根っこが張ってた、みたいな感じ?
「ん。コレで終わりだ」
けどそれも少してこずっただけで最終的には問題なく結界を収納することができた。
「お疲れ様です」
「やっぱりすごいですね。『対抗魔術』って」
環ちゃんは俺が『収納』を使ったのではなく、以前に教えた嘘のスキルを使ったと思っているようだ。戦場で戦ったときに色々と見せたと思うんだけど、気づいていないのか?
……まあ、その辺も含めて色々と話しておかないとだよな。
「それについても話すことがあるんだが、まあとりあえず家の中に──」
俺がそう話していると、なんだか家の中が騒がしくなった。バタバタガタガタと、まるで誰かが家捜しでもしているかのような音が聞こえる。
そして──
「あああああああっ!!」
女性の悲鳴のようなものが家の中から響いてきた。
「誰よおおおおぉぉぉ! 私の結界を壊したバカはああああ!」
そして直後、玄関のドアが開き、中から杖を持って武装したエルフの女性──ケイノアが出てきた。
「久しぶりだなケイノア。結界を壊したバカはここにいるぞ」
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