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王国との戦争

315:神獣と最後のお話し

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「それじゃあ、あなた達はもう行ってしまうのね……」

 イリンへの告白を済ませた後は俺はそのままイリンの部屋に居たのだが、夕食の時間で呼ばれた俺たちは食堂へと集まった。

「ああ。元々イリンの怪我を治しにきただけだし、あまり長居する必要もないだろう」

 そしてちょうど良いので、イリンの快気祝いとしていつもより豪勢だった夕食を終えた後、チオーナに今後の予定について話した。
 まあ今後の予定って言っても大した事ではなく、ただ俺たちがここを出て獣人国の首都にある家に帰るってだけだ。

「それに、多少は良好な関係を築けたとは言っても、それでもまだ俺のことを認めていないやつだってここには多くいるだろ?」
「……ええ。ごめんなさい」
「いや、謝ってもらうことじゃないだろ。どちらかと言えば悪いのはグラティースだと思うぞ?」

 むしろチオーナは充分に良くしてくれている。おかげで滞在場所にも困らなかったし、不便に感じる事はほとんどなかった。
 わずかに感じた不便な事だって、対人関係に関する事だ。これはいくら里のまとめ役とは言っても簡単に変えられる事ではないのだから仕方がない。

 だがそう言ってフォローしたのだが、チオーナはただ愛想笑いを浮かべるだけだった。

「まあ、帰るって言っても明日すぐにってわけじゃない。コーキスとかスー……神獣様とかに挨拶しないとだからない。それにイリンは起きたって言っても、数日は様子を見たいから……まあ大体一週間くらいか?」
「そう。ならそれまでの間、今まで通りゆっくりしてちょうだい」
「ありがとう」




 イリンが目覚め、チオーナとそんな会話を済ませてから数日。
 明日にはここを出ていくという事で、俺は最後に挨拶をするために一人でスーラの元へと赴いていた。

「明日は朝に出ていくから挨拶する時間がないだろうから挨拶に来た。色々と世話になったな。ありがとう」
「ああ、明日には出ていくのだったわね。そう、もうそんな時間が経ったの……」

 その表情は何を思っているのかよくわからないが、そう言ったスーラの声は寂しそうに聞こえた。
 だが、別れを惜しんでくれるのはありがたくはあるが、それでもここに残るというわけにはいかない。

「それで、明日出ていくからもうあまり時間がないわけだが礼をしたいと思ってな。俺に何かできる事やって欲しいことってあるか?」

 いろいろ世話になった事だし、何かしら恩返しをした方がいいんじゃないかと、ふと昨日思いついた。本当はもっと早く思いついていればよかったのだが、まあそれは今更どうこう言っても仕方がない。

「そうね……なら最後に少し話に付き合ってくれないかしら?」
「それは構わないが、いつもやってただろうに」
「そのいつもが、もうできなくなってしまうのだから仕方ないわ」

 まあスーラはここでは神様みたいなもんだし、そう気軽に話すことができないとは聞いていた。
 チオーナは自由に来れるが、彼女ももう歳だし、話をするためだけに定期的にここに来れるほどの体力はもうない。
 思念での会話はできるだろうけど、それだって長時間の話には向かない。
 そうなると本当にスーラはこの泉で一人で居る事になるのだろう。

「……まあそれくらいなら全然構わないが……それじゃあ、今日は何を話す?」
「そうねぇ、できればあまり真面目じゃない話がいいわね。あなたがいなくなれば後は真面目な話をしにくる人しか居なくなってしまうもの」
「真面目じゃない話ねぇ……」

 これまでも真面目というほどの話をしたわけじゃない。以前ここに通って話し相手になっていた時に日本の事や、こっちに来てからのことを話したが、あらかた話してしまったので正直もうネタがない。

「ああ、ならあの子達の話をしましょうか。イリンさんの方もだけれど、環さんの方はどうなったのかしら? それと二人の状態とか、関係とか」

 俺が悩んでいると、スーラは何か思い付いたかの様にそう言ってきた。
 けど、二人の状態か……まあ、俺には手が余っている部分があるし、相談できるならこっちとしてもありがたい。
 今日は恩返しのはずなのに相談するというのは若干の気が引けないでもないが、スーラが求めている話というのは、こういう『普通の話』なんだろう。

「ああ、状態は……まあ、落ち着いてるって言っていいのか?」
「そうなの? あの二人は結構厄介な性質をしていると思ったのだけれど、意外と上手くやっているのね。正直言うと意外だわ」

 厄介な性質、ねぇ……。到底それだけで表せる様なものでもないと思うが、他人から見ればそんなものなのかもしれないな。

「まあそれは俺も同じだ。二人が出会ってから一週間経つが、俺は確実に喧嘩というか、争いが起こると思ってたよ。まあ争いがない事自体はいい事だから構わないんだけどな」

 スーラが言った様に、話し合いをしたとは言っても、ふたりはぶつかるだろうと俺も思っていた。
 現に環ちゃんはイリンに対抗心以上の感情を持っている様に見え環。だが、イリンはなんというか、うまく流している様に思えた。何か心境の変化でもあったのだろうか?

「でも、なんていうかイリンが変わった様に感じるんだよ。以前はもっとこう……なんていうんだろうな……落ち着きがなかった?」
「それはあなたの告白が効いてるに決まっているでしょう」
「……アレが?」
「そう。今まであなたはイリンさんの事が好きだったけど、あなたからはなんの返事もしていなかったのでしょう?」
「……なんのってこともないと思うんだが……」
「それでも明確に言葉にした事はないと聞いていたと思ったのだけれど?」
「それは……まあ……」
「好きな人には好きになってほしい。それは当たり前の感情だわ。いくら相手から好かれていると思ったところで、明確に言葉にされていなければ不安に感じるものよ。たとえ態度で表していたとしてもね」

 ……確かに、自分で言うのもなんだが俺は基本的に臆病……へたれだし、イリンが俺のことを好きだと言っていなければ告白する勇気なんて出なかったかもしれない。

「あなたに聞いた限りでは、あなたはその態度だってあまり表に出す方ではなかったみたいだし、好きな人をとられまいと色々と不安定になるのは仕方がないでしょう」
「……つまり、イリンがなのは俺のせいか」
「まああなたの気持ちも分からなくはないし、私からすれば今回のあなたの『怪我を治すまで待つ』と言う考えもある意味では立派だと思うけれどね。でも、それは部外者の私だから言える事であって、当事者のあの子は不安だったのは間違い無いと思うわ」

 俺がへたれて覚悟だなんだって言っている間に、イリンにそんな思いを感じさせてしまっていただなんて……。

 そんなことに気づけないとは、俺は自分しか見ていなかったらしい。自分の至らなさに呆れるしかない。

「そうやって落ち込むのも構わないけれど、これからはしっかりと向き合うのでしょう? ならばこれからに気をつければいいのではないかしら」

 俺が頭を抱えて落ち込んでいると、スーラはそう助言をしてきた。

「それと、もう一人の環さんのほうだけれど……」
「わかってる。わかっては、いるんだけど……」
「ま、こればっかりは当人でないとどうにもできない事ね。けど。後悔はしない生き方をなさい」
「……ああ」

 その後も二人のことや王国で連れ出し損ねた勇者2人の事など色々な事を相談した。
 特に何をしたというわけでもなかったのだが、色々と相談しているうちにあっという間に時間は過ぎていき、ふと空を見上げるとそろそろ陽が落ちる時間だった。森の中はただでさえ暗いのに、探知があるから歩くのには問題ないとはいえこれ以上は暗くなりすぎるだろう。
 スーラの頼みを叶えられたかは微妙だが、そろそろ戻るとしよう。

「……なんだか雑談っていうか、相談を受けてもらったし最後まで世話になった感じがするな」
「私は楽しかったから良いのよ」

 そこで会話は途切れ、スーラは俺から視線を逸らして空を見上げた後再び俺へと視線を戻した。

「……それじゃあね」
「ああ。いつか……まあいつになるか分からないけど、また来る」

 その時には、いろいろと面白い話を仕入れて目の前の恩人に話してやるとしよう。
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