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王国との戦争

281─環:勇者として戦争参加

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掲載日が一日前の方が良かった気もしますが、主人公に会うまでの環達の話です。

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「やっと着いたわね」
「ああ、だな。……っくぅ~。こうして何日も馬車に乗ってると、腰が痛くなるな」
「やだ~海斗くん。年寄り臭いよ~?」

 まあでも仕方がないわね。いくら王女様の用意してくれた馬車が最高級のものとは言っても、地球にあるものとは比べものにならないようなものばかりなんだから。
 中には魔術という存在のおかげで優れたものもあるけど、生憎と馬車はその優れたものの中には入らなかった。

「お待ちしておりました。勇者様方」

 私たちの到着を待っていた国境砦の責任者と思わしき人がそう言って出迎えてくれた。



「前に出すぎないようにしてください」

 砦に到着してからはすぐに状況の確認を行ったのだけれど、砦の責任者からは戦う際の注意として何故かそう言われた。

「何故ですか? 俺たちがやれば全滅させる事なんて簡単ですよ?」

 自分達の事を侮られていると感じたのか、海斗が少しばかり声に力を込めてそう尋ねると、責任者は少し慌てたように説明を始めた。

「現在獣共の国では我々の作戦が進行中なのです。そちらと連携して行かなければなりませんので、どうかお願いいたします」

 そう言って頭を下げたけど、作戦ね……
 そんな話は王女様から聞いていない。私たちはここで王国を攻めてくる獣人を迎え撃つのだと聞いていただけ。

 攻められているから迎え撃つのに、作戦を待つなんて悠長にしている暇はあるのかしら?
 それに、ここは戦いの最前線のはずなのに未だ戦っている様子はない。どうして?

 ……まあ、どうでもいいことね。私達は『勇者』としてみんなを守るために戦うだけ。

 まあでも、一応作戦というのも聞いておきましょうか。それによって動き方が変わるかもしれないし。

「その作戦というのはどのようなものでしょうか?」
「はい。敵の首都、および周辺の街で混乱を起こし、こちらに来る敵の増援の数を減らします。作戦の目的としては、敵が減ることで包囲、殲滅を行いやすくし、生き残りを出さないことです。勇者様方には増援が来てからそのお力を奮っていただければと思っております」
「敵の援軍が来る前に今いる奴らを片付けるのはダメなのか?」
「今、作戦前に敵を殲滅してしまえば、敵は増援を出さずにこの国境の周辺を捨て、他の守りを固めるでしょう。それでは生き残りを多く出してしまいます。ですのでどうか」
「なるほど。わかりました。では数日の間は適当に危機感を煽るようにすればいいのですね?」
「はい」

 責任者の人は私の言葉に頷くと、そそくさと去っていった。




「この程度なら問題なく倒せるみたいだな」

 それから数日は国境で敵を倒しすぎないようにして戦った。

 と言っても私は後衛として火鬼を出して勢子のように追い立ててるだけだけど。
 海斗なんかは前衛として動いているから何度も攻撃をされたけど、桜の張ってくれた防御用の結界のおかげで傷一つない

 だからだろう。海斗は少し調子に乗ってるように見える。

「だね! この調子なら千でも万でもどんと来いって感じだよね!」

 どうやら調子に乗ってるのは桜もみたいね。

「気をつけなさいよ、二人とも。南の国境で暴れた偽勇者がこっちの国にきてるかもしれないんだから、もしかしたら敵の増援として来るかもしれないわよ」

 そう。もしかしたら、そいつがこっちに来て戦うことになるかもしれない。

 ……あら? でもその偽勇者って彰人さんだったんじゃないかしら? 確かそんな話を聞いたと思ったのだけれど。

 ……ううん。違う。だって彰人さんは死んじゃったんだから。魔族と獣人族のせいで死んじゃった。そのはず。……そうだったはず、よね?

「あっ、そういえばそうだね」
「けど、俺たちなら大丈夫さ! 俺たちは鍛えてきたんだから」

 桜は、いかにも忘れていましたとでも言うかの様で、海斗は自信満々に笑っている。

 はあ、まったく。

 あまりにも楽観しすぎてる二人の発言に思わずため息が出てしまった。

 まあでも、かくいう私も大丈夫だと思ってしまっているのだから人のことは言えないわね。

 ……そういえば、私はさっき何を考えてたのかしら?




 そして次の日。
 昨日までと同じ様に適当に、と言うわけには行かなくなった。なにせ、私たちの待っていた敵の増援が来たんだから。

 だから私達は敵を殲滅するために動き出した。

 とはいえ、増援にしては思った以上に早くその数も少なかったことから、その増援は脚の速いもので組まれた先遣隊で、後から追加の本隊がくるのだと予想された。

 だから私達は昨日までよりは積極的に攻撃に参加したんだけど、途中で異常が起こった。

「お帰りなさい、海斗」
「おかえり、海斗くん。怪我はない?」

 その起こった異常のせいで想定よりもはるかに少ない被害しか出すことのできなかった王国軍は、その異常によって起こった被害に対処するために、即座に砦まで撤退した。

「ああ、桜の結界のおかげだな」

 そして私達はいつものように三人で集まりお互いの無事を確認しあった。
 だけど、今日はそれだけでは終わらない。

「……ところで、二人はさっきの見たか?」

 海斗の言葉には主語がないけど、『さっきの』が何を指しているのかは分かっている。さっき起こった異常のことだ。

 今回は、他の場所よりも突出していた敵右翼に対して、敵が押していると見せかけてからの一斉射撃でその数を減らすことになった。

 けれどそれはうまく行かなかった。突如上空に出現した黒い何かのせいで。

「見たわ。けど、私は左側を担当してたから詳しく分かるわけじゃないわ」
「私も遠目には見えたけど、しっかりってわけじゃないよ」

 敵の右翼はその一斉射撃で数を減らせるだろうから、勇者である私達は中央と左翼側を攻めることになった。
 だからそのせいで右翼側で起こった『何か』を把握することはできなかった。

 精々が遠くからでも感じられた魔力の発生方向に視線を向け、遠目から起こった現象を認識するだけだった。

「海斗は中央を担当してたんだから、距離的にはそっちの方が何かわかったんじゃないの?」
「いや。俺も凄い量の魔力を感じてそっちを見たら空にアレがあったってだけだから。その後はすぐに撤退の指示が出たし、見に行けなかった」

そう言って首を振る海斗。
でも、そう。何かしらの情報があれば良かったのだけど……

「……ただ、見た限りでは矢も魔術も一つ残らず消えてった。まるであの黒いのに触れた瞬間に消えたみたいに」
「それってつまり、例の南の国境で現れた偽勇者が来たって事?」
「ああ。……環はどう思う?」
「……その可能性は高いでしょうね。あれだけのことをするなんて普通は無理だもの。それこそ、『勇者』とでも呼ばれない限りは」

 報告ではその偽勇者も『スキル』を使えるみたいだし、偽物とはいえ勇者と呼ばれるほどの者ならばあれくらいできてもおかしくはない。

「明日は、今まで通りとは行かないでしょうね。気をつけましょう」
「ああ」
「うん」

 二人が頷くのを見てから、私は窓から見える景色の向こうにいるであろう偽勇者に対して視線を向けた。

 ……明日は『勇者』として、王国のためにも勝ってみせるわ。
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