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王国との戦争

274:勲章の影響力

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「ああ。先程敵の攻撃を防いでくれたアンドー殿だ。今回の戦争に参加されるのだが、我が隊で預かることになった」

 ツェルニードがそう言って俺のことを紹介すると、厳しい表情だったトゥーリオは一瞬目を見開くと、ニカッと笑い歩み寄ってきた。

「ああ! あんたがあの時の! いやー、あん時は助かったよ。何したかわかんねえけど、あれがなかったらきっとかなりの被害が出てたはずだ。本当に助かったぜ!」

 だが、そんなふうに話しかけてきたトゥーリオの頭から、ゴツンと何かが叩きつけられるような音が鳴った。ツェルニードの拳だ。

「──っい!?」
「アンドー殿は黄金獅子心勲章の持ち主だ。そんな無礼な態度をとるな」
「あーいや、そこまで畏ってもらう必要はないぞ? ツェルニードも、もっと楽にしてくれて構わないし」

 トゥーリオとの会話を聞いてる限りだと、真面目な話し方よりも砕けている方が素みたいだし、俺としてはそっちで構わない。

 だが、ツェルニードは俺の言葉に首を振った。

「ですが、強者には敬意を払うのは当たり前です。貴方ほどの強さを持つ方を蔑ろにしたとあっては先祖に顔向けする事ができません」
「……まあ、強制するわけじゃないし、好きにしてくれ」

 そうして話していると、横にいたトゥーリオが首を傾げながら何かを考えている様子が目に入った。

「んー? ……黄金獅子心勲章ってなんだっだっけ? どっかで聞いた事があるような気はするけど……」
「お前はそれでも軍人か。黄金獅子心勲章はこの国最高の栄誉だ。それは王の絶対的な信頼を得た強者であるものにしか与えられぬものだ。しっかりと覚えておけ」

 俺のもらった勲章について覚えていないトゥーリオに、ツェルニードは呆れて首を横に振りながら説明した。

「ああ、そういえばありましたね。確か随分前……百年ぐらい前でしたっけ。前回与えられたのは。へぇ~、この人が今回の……って、はあっ!?」

 俺の顔を見ながら一人呟いていたトゥーリオだが、突然驚愕の声を上げた。

「黄金獅子!? えっ、この人が? でも人間ですよ? え? 本当に?」

 どうやら俺のもらった勲章について驚いているようだ。
 さっきまでのさらりと流すような態度と違うのは、さっきまでは自分の中で上手く認識できていなかったというか、理解し切れていなかったからで、それが少し時間をおくことで上手く噛み合ったのだろう。

「この国で種族は関係ないだろう。特に、今代の王は尚更だ」
「いやそうなんですけど……」

 トゥーリオは釈然としないものを感じつつも、ツェルニードの言葉自体は認めているのかそれ以上言葉を続ける事はなかった

 だが、今の会話で一つ気になった事がある。

「ちょっといいか?」
「あっ、申し訳ありません。ただいまご案内致します」
「ああ違う違う。そうじゃなくて、俺が勲章受けたって話はどこまで通ってるのか教えて欲しいんだ」

 国最高の勲章をもらったんだから、その事は知られててもおかしくないと思う。
 誰が受けたのかを知らないのはあるかもしれないが、でもさっきの様子はそもそも叙勲された自体を忘れていたように思える。

「どこまで……。そうですね……あの時会場にいた者達であれば知っていますが、それ以外となるとあまり知らないかもしれませんね」
「一応国最高のものって聞いたんだけど……」
「あえて言うのなら、最高のものだからでしょうか?」

 最高のものだからこそ、か。どう言う事だ?

「他のものもそうですが、黄金獅子心勲章などの、ある程度以上の勲章を授与された者がいる時はそれが一般にも発表されるものです。普段は受賞者の発表は市民の間でも話題になるはずですが、あの時は他にも表彰される者がたくさんいました」

 そのたくさんある中の一つに紛れたってことか。……でも、一応この国最高のものなんだろ? そんな簡単に紛れるようなものなのか?

 いや、別に目立ちたいとかじゃないんだけどな?
 今後何かあったときに勲章を見せても、今みたいに分からないって反応されると困るから、理由があるなら知っておきたい。

 考えてみろ。水戸黄門が印籠を出しても誰もその事について知らなかったら「はぁ? 何やってんだお前?」となってしまう。それはちょっとカッコ悪いだろう。

「それに加えて、貴方の場合は普段授与されないものであるが故に、皆その内容をよく理解していないのでしょう。だから馴染みのある名前の勲章の方に話がいき易くなってしまうのです」

 あー、なんとなくわかるな。
 俺も、よくわからない常識外な凄いものより、自分の常識内にある適度に凄いものの方が手を出しやすい気がするし。

「まあ、だとしても軍人が知らないのは問題ですが」
「そ、それよりも隊長! その人を案内するんじゃなかったんですか!?」

 ツェルニードに睨まれたトゥーリオは、話を逸らすためか慌てた様子でそう言った。

「ああそうだった。お待たせしてしまいまして申し訳ありませんでした。こちらへどうぞ」

 案内の途中だったことを思い出したツェルニードはそう言って再び歩き出したが、視界の端では自分からツェルニードの視線の外れたことを認識したトゥーリオが、ホッとしたように息を吐き出したのが見えた。

「ここが私のテントです。どうぞ」

 案内されたそこは他のテントよりも大きく立派なものだった。とはいえ、それは周囲の一般兵のものと比べればであって、先程行った本陣のものよりはおおるものではあった。

「一応寝床を用意すればここに泊まっていただくこともできますが……」
「いや、軍属じゃない俺がここにいたら不都合があることもあるだろうし、場所があるならそっちでいいよ」

 付き合いやすいとはいえツェルニードも隊長という役についているんだから、何かしら秘密にしなければならないこととかもあるだろう。作戦の内容とかそういうやつ。

 そういうのがあるたびに気を使うのは面倒だ。俺の場合は気を使われる方かもしれないけど、どっちにしても面倒なのは変わらない。

 それに俺も一人の方が気が楽だし、そもそも深く関わるような気はない。ここでの俺の歓迎され方から考えるに、もし深く関わって迷惑がかかったら嫌だからな。

「この辺りであればそれなりに広さがあるので足りると思いますが、いかがですか?」

 このくらいの広さなら『家』は出さない方がいいか。多分ギリギリ収まるかどうかって感じだし。

 今回は普通にテントにしておこう。今の時点で余計な注目とか浴びたくないし。

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
「設営には人手が必要でしょうか? 何人かこちらに──」
「ああいや。一人用のやつだから大丈夫だ。疲れてるのに煩わせるのも悪いしな」

 俺はまだ戦争に参加したって実感はないけど、実際にはもう何日も戦っていて疲れているはずだ。
 そんな中、せっかく休んでいるのに雑用に駆り出すのは心苦しい。

「そうですか。では私はこれで失礼します。何かありましたら先程の私のテントまでお越しいただければ対応いたします」

 ツェルニードは一礼すると、身を翻して自身のテントまで戻っていった。

「……さて、収納から取り出してっと……」

 収納から組み立てられた状態のテントを出して一瞬で設営を終える。
 周りで見ていた奴らから驚きの声が上がったが、声をかけてくるようなやつはいないようなのでそのまま無視してテントの中に入った。

 中に入ると防衛用の魔術具を設置して腰を下ろす。

 そうしてため息を吐くと、きゅうぅとお腹が鳴った。そういえばそろそろいい時間だ。

 収納から温かいままの料理を取り出して食べていくが、その料理を作ったイリンの事を思い出し、一瞬手が止まったが、一度深呼吸するとそのまま最後まで食べ終えた。

「後は明日になるのを待つだけ、か……」

 食事を終えれば後はやることなど何もない。精々が襲撃の警戒をすることくらいだが、自分から動く事はない。

 ……今度はあの子達をうまく逃がせるといいんだけどな……

 そうして俺は、明日の事を考えながら眠りについた。
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